高齢者心臓手術の倫理的問題



久しぶりに佐賀医大の6年次の学生が臨床実習などで経験し提示してきた事例を元にした臨床倫理カンファレンスで検討する事例を提示します。
いつものように事例は医学的、倫理的な検討をさまたげない範囲で、本人のプライバシーを守るため事例を修正して提示しています。
9月30日の朝にカンファレンスをしますので、29日の夜までに何かコメントをいただければ感謝です。

特に心臓手術の適応については専門の先生の立場の意見がうかがいたいですが、このような進行性の心臓病で、外科手術以外では救命が難しい場合、経験のある外科医が、十分にリスクを説明して手術を勧めることは間違いではないと思うのです。最近おきた腹腔内視鏡手術のようなまだ経験のない術者による実験的な手術を十分な説明もなくされるのは論外ですが。
色々な立場からのご意見をお願いします。
学生に提示したプリントを元に送っていますが、質問に答える形でなくてかまいません。



76歳、男性 総合病院胸部外科

主訴:胸痛

現病歴
5年前胸部違和感が出現し、AMIと診断され、Seg.7に対してPTCAを施行された。
今年4月より200m程の歩行で息苦しさを感じるようになった。
5月、頚部に放散する強い胸痛と背部痛が出現し、狭心症と診断され入院となった。

既往歴
20年前から2型糖尿病 15年前より高血圧
10年前より糖尿病性腎症のため、人工透析導入、リウマチ熱の既往はない

入院後経過:
 心不全(NYHA3度)、狭心症を伴っており、心臓カテーテル検査で Seg7,9,10に90%、Seg13distalに84%の狭窄。左室-大動脈圧較差は40mmHg、AVA0.6cm2と高度のAS。AR3度、MR3度。C.I.は2.58L/min/m2。ASは大動脈弁口面積0.6cm2、LV-Ao圧較差40mmHgと高度であり、更にASは2年前には認められていなかったことから、急速に進行していると考えられ、手術適応である。Seg.7,9,10の狭窄もあり、MRも3度であるので、CABG(Seg8 and Seg10)とAVR 、MVRを一度に行うことになった。
 患者は糖尿病もあり、高齢なので手術は受けたくないと言っていた。家族(息子)は経済的に余裕がないので手術は受けさせたくないと言っていた。患者と家族の関係は仲が良いものとは言えなかった。医師はこのまま放置すれば予後は非常に不良でるため、積極的に手術を勧めていた。最終的に医師の説明に押された形で患者は手術を承諾したが、術後3日で死亡。

<質問欄>
  患者は非常に不安がっており、大手術などと言えばほぼ確実に手術を拒否するだろうことは予測できた。それでも手術を勧める医師側としては言うべきであるのか?狭心症の症状が入院後に何回か見られており、手術をするなら一日でも早くしなければならない状態でどこまで面接を重ねることができるのか? 

<教官コメント>
 間違いなく緊急の対応をしなければならない事例です。このような事例で、どのように対応することが、医師として、倫理的な態度と言えるでしょうか。患者が拒否すると考えて、現状を言わないことがいいのでしょうか。
 ある循環器内科の医師は、全く同じようなASRで、心不全が進行していった症例をカンファレンスで提示されて、なんでもっとつよく早期に手術を勧めなかったかを問いました。担当医は家族が手術の説明することを拒否したから本人には説明できなかったとこたえましたが。本人の意識が無かったならまだしも、もし聞いていたら、手術をして助かっかもしれない。その権利を奪ってよかったのか。はっきりいって現時点でこのような進行性のASRは手術以外救命のための治療法がないのだからということでした。
 私自身、85歳のASOでこのままほうっておけば死亡と言うケースでバイパス手術を依頼し、元気に歩けるようになった経験があります。主治医から「65歳以上の方6例に同じような手術をしましたが、全員が死亡されました。ただ、このままほうっておいても死に至るだけだから最後の手術の可能性にかけたいのですが」という医師団の言葉を信頼して、手術されました。3年後に狭心症が進行し、本人の希望でバイパス手術を受けられ3日後に死亡されましたが、家族はできるだけのことはやれたと満足されていました。



問1)提示した事例についてどのような倫理的な問題があるとおもいますか。できるだけたくさん挙げて下さい。(4分割表を使っても使わなくてもかまいません)

問2)この事例について倫理的な問題点の解決のためにどのような情報が欲しいですか。
(この事例について手術以外の有効な方法があるでしょうか?その医学的適応の検討はこのケースを考える上で非常に大事なことですので確認しておいて下さい。)

問3)この事例についてあなたが主治医であったらどのように対応したいですか。

(以下の2点については自分の意見を考えておいてください。)
・このようなリスクの高い手術は高齢の患者に勧めるべきでないのか。

・どのような言い方をすれば、患者の自由意志を尊重したインフォームドコンセントができるのだろうか。



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