臨床倫理検討事例                
     
<検討事例>        
 83歳男性。それまで高血圧で治療を受けながらも、それなりに元気に過ごしていたが、ある朝トイレで突然倒れ,駆け付けた妻が救急車を呼び、近くの救急病院へ運ばれた。救急外来到着時、意識レベルは3−200で、痛み刺激でかすかに体を動かす程度、呼吸も不規則で、すぐ気管内挿管がなされ、人工呼吸がはじまった。頭部CT検査で、広範な脳出血が認められ、脳外科にコンサルト、年齢のことも考え手術は適応でないということで、内科的に降圧剤と脳浮腫改善剤の点滴による保存的な治療がはじめられた。 
 担当医は家族(同居の妻と、遠くにすんでいて駆けつけた1人息子)へ、CT写真(写真1)をみせながら、「かなり厳しい状況で、命は助かっても意識がもどる可能性はほとんどないと思わます。年齢的なことも考え、手術など侵襲のある治療ではなく、点滴で、脳出血のダメージを少しでも和らげるような治療をしていきたいと思います。ただ状態はかなり厳しく、今後突然心臓が止まるようなこともありえます。」と話しながら、急変時にそなえてDNARオーダー(心停止呼吸停止の時に蘇生を試みないという指示)もとっておいた方がいいと考え、「そのような急な心臓停止の場合心臓マッサージなどをして患者を苦しめることはせずに、見送るのがいいのではないでしょうか。」という話しを追加した。妻は以前から夫が、「最後は無理な延命治療は望まず、自然に死にたい」と言っていたことなどから、担当医の考えに同意したが、これまであまり行き来のなかった息子は、できるかぎりの治療をして、1日でも長生きさせてほしいと懇願して、妻と息子の意見が対立していたのでDNARオーダーを残すことはできなかった。
 その後も患者の自発呼吸はなく、意識レベルの改善もないまま、入院から2週間がたった。フォローアップのCT(写真2)では、脳出血の部分が出血後梗塞の状態になっていた。主治医は今後の長期の対応のことも考え、「脳出血は止まったのですが、その後に脳梗塞がおきて、状況は厳しいままです。今後この状態が続く可能性が高く、その場合、点滴だけでは栄養も十分取れないので、胃から栄養を入れる管をつくったり、気管内挿管チューブも長く入れておくと合併症がおきるので、気管切開に切り替えたりする必要があるのですが。」と話した。
 しかし、今度は妻から、「今さら主人の体に傷をつけるようなことはやめてください。」と言われた。主治医は今後どのように対応していけばいいのか困ってしまった。現在その救急病院は満床で、症状が落ち着いた患者から、長期の療養型の病院へ転院するように勧めて欲しいと上司から言われていて、主治医はそのためにも気管切開と胃ろうは作っておいた方がいいと考えていた。



 
図1(左)救急外来受診時の頭部CT(広汎な脳出血)、図2(右)入院後2週間の頭部CT(出血後梗塞)  



問1) この事例で何が問題だと思いますか。
 

問2) 問題解決のためにどのような情報が欲しいですか。
 

問3) あなたがこの事例の主治医であったら、どういうことをしたいですか。