ケース5)
 執刀医が患者さんと御家族に術式を説明したのちに、手術前日に術前カンファレンスが行われ、そこで術式がより術後の後遺症が大きくなるリスクがあるものへと変更された。(痔の手術で、最初肛門括約筋にはふれないでやる方法で検討されていたが、カンファレンスでは再発のことも考え括約筋の一部も切開を加えることになった)
 手術の際に「術式の変更は説明されたのですが?」と主治医に尋ねたところ、「執刀医は多分説明していないだろう(カルテ記載もない)」との返答。
 そして術後も患者さんに術式変更の説明はずっとなされず、患者さんは何も知らないまま「うまくいって良かった」と喜びながら退院なさった。


<白浜先生が直感的に抱いた感想>
 このような術式の軽度の変更はいろいろな手術であるようだ。必ず後遺症は起きるわけではなく、直前になって話すことで不安を増すことをおそれたのかもしれない。
私が担当医だったら、術式の変更のあった説明はするとは思うが。そのメリットとデメリットの両方を説明し(メリットが多いので変更したわけなので)不安を増すようないい方はしないように思う。


<6/8の討議で出された意見>
●「他のスタッフも交えて全体で話し合った結果、このような方向性になった」ということを患者さんに伝えるべき。
→「複数の医療スタッフが自分のことを話し合って考えてくれたんだ」と安心感を得られる患者さんもいる。
●実際に開けてみて状況を把握してからでないと術式を決定できない症例もあるが、その場合は「これこれこういう術式がありますが、どうなるかは実際に手術を始めてか
ら決めることになります。」ということを事前に説明し承諾を得ている。
●合併症が起こるかどうかは事前にはわからないので、はっきりした説明がし難い部分もある。


<メールで寄せられた意見1>
緊急性が高い場合はしかたないと思うのですが、術前カンファレンスを手術前日ではなく、患者様、御家族への説明前に開催できなかったか疑問に思いました。(T医師)


問題は「手術前日のカンファレンス」ではないでしょうか。
担当医と異なる意見が出ても患者さんには伝わりません。
担当医が意地になって自説を押し通すこともあります。
意見を持ち帰って患者さんと相談する余裕が必要です。
二段階の「グループ検討会→全体検討会」もいいでしょう。(A先生)


 結果さえよければ、それでよいと終わってよいのでしょうか。メリットとデメリットを説明した上で、こうしましたという十分説明すべきではないでしょうか。患者さんにとって、手術の詳細については理解が及ばないと思いますが、わかりやすく黒板で図を使って説明すれば理解してもらえると思います。以前、佐賀医大では、精神障害をもつ患者さんに対して、外科医に病棟にきてもらい、1時間くらいかけて黒板に手術の方法を具体的に説明してもらっていました。そこには、私と外科医、家族、担当ナースが集まって、あらゆる起こりうる問題点を話し合っていました。手術の承諾については、急がないケースでは数日の考える時間を与えて、こころが定まってサインをしてもらいました。迷うという作業も必要です。(S先生)


ケ−ス6)に対するコメント
1、患者・患者家族に術式説明 → 手術前日のカンファレンスにより術式変更
2、 執刀医は、患者・患者家族に変更を説明していない(多分?)。カルテ記載もない。
3、患者は何も知らないまま「うまくいって良かった」と喜びながら退院された。
***************************************
非常に問題が多い事例ではないでしょうか。
1、明日の手術予定を調整(手術の順番)あるいは、日時を延期しても、必ず、術式の変更については、informed するべきではないでしょう。
2、カルテの記載がない。
→ カルテには、患者・患者家族に術式説明した時点(日時、その患者・患者家族の反応  例、承諾された。 )を記載する必要がある。
→ 次に、術式変更決定後、至急、患者・患者家族と連絡をとり、「なぜ、この術式に変更されたのか」についての選択理由、「手術に伴うリスク」「合併症の可能性」「術後機能障害の可能性:排便(排尿、性機能)等」を患者・患者家族に再説明すべきである。
その日時、患者・患者家族の反応 例、承諾された。 )
を記載する必要がある。
3、主治医の説明を信頼し、手術の成功を心から感謝し、笑顔で喜びながら退院された患者との信任は、患者の生涯を通した継続的なものである。術式の変更については、この場合は、最終の手段として、手術後、当初の術式が変更されたこと、手術は無事に成功し、予後においても問題がないことを退院までに、説明すべきだったのではないでしょうか。(M先生)


 これについては,やはり術前に変更の可能性について十二分に説明がなされるべきだったということになるでしょう.全く予想外のことが起こったから,医師同士の判断で決定し,本人や家族には本当のことを伝えなかったということは本来はあってはならないと思います.
 痔の手術という内容だと,主治医側が他の病気ほどには真剣にこういった点に配慮していない可能性があるのではないかと気になりました.肛門括約筋の一部を切除ということを聞けば,素人でも「便が漏れやすくなるのではないか,今は大丈夫でも将来はどうか」といったことが気になることは間違いありません.
 これも,やはり医師の倫理観,プロフェッショナリズムの問題ですね.学生の目は真実を問おうとしている点で全く正しいと思います.(O先生)


<6/15討議時の意見>
●患者さんの状態が手術直前まで安定せず、ギリギリにならないと方針が決められない、という症例もあるが、その場合でもA先生のおっしゃるように二段階でムンテラを
行うなどの工夫が必要だと思う。


<メールで寄せられた意見2>
 まず時間としての制約はあると思う。術式の変更がマイナーなものと言う外科の感覚があるのかも。説明ができるのならした方がいいが、現実としても制約がある場合、つじつまあわせの作業をする場合が現実に出てくる気がする(術前日に決まった変更が、その日開腹してから、変更を決めたかのように解釈してもらえるような説明を術後にする場合)。変更の医学的重要性、それをどう主治医が重み付けして、どう対応するか、小さなずれが、重なって患者の違和感につながっていくので、なるべく用意周到にしたいものだ。(M先生)


 <6/22の討議で出された意見>
●SDとしては医師に提言をすることは出来たかもしれないが(現に質問を投げかけてはいる)、それによって誤りに気付くかどうかはその医師次第である。


<今までの討議を踏まえた上での学生Fの方向性>
 この事例の医師は、生命にかかわる疾患ではないが故に軽んじて説明を怠ったのかもしれないが、やはり、例え手術が延期になったとしても術式を変更した旨は伝えるべきだったと思う。きちんと伝えることが、医師自身を守ることにもなるということを自覚して欲しい。
又、このような事態を起こさぬ為には、前回の討議で出た様に、二段階でムンテラを行うなどの工夫をすると良いのではなかろうか。
SDとしては、この件に関しては何も対処の仕様がなかった。


<討論終了後に送られて来たコメント>
どんな手術でも私だったらむしろ、デメリットのほうを情報元に判断したいです。
なぜならば、悪い結果になった場合、自分が同意してる方には、まだ我慢できるように思う。
今回は患者や家族無視、不在です。全くいい加減な医療が他にも行われてるのでは?と、疑うような内容です。
形だけのムンテラやインフォームドコンセントが求められるようになった経緯に戻って考えて欲しい。患者や手術を軽視してますよね。(看護師Rさん)


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