ケース3)
 82歳女性。一般内科、消化器内科、整形外科等、いくつもの病院に通院し、重複して投薬を受けている。医療費の無駄遣い、重複薬剤や、飲み合わせによる副作用が問題になると思われる。病院、あるいは薬局の一本化を誰がどこまで勧めるべきだろうか。


<白浜先生が直感的に抱いた感想>
 高齢で、受診も大変なのに、いくつかの病院めぐりをされる方は少なくない。本人がそれで満足なら、あえて口をはさむことはないという意見もあるだろうが、やはりこの限られた医療経済の中で、ある程度日常的な受診と3ヶ月に1度くらいの定期受診とにわけて、もう少し医療費を有効に使う必要は説明し、また飲み合わせの問題もあるので、せめて薬局だけはひとつのところからもらうように勧めるだろう。


<Web上の意見(part.1)>
 これも普段よくいらっしゃる患者さんのパターンです。
内科、外科とそれぞれ別の病院に通って投薬をうけ、さらに婦人科は当院へ……という年配の方も少なくありません。私も、余計なお節介かもしれませんが、できるだけ同じ病院、同じ薬局にまとめるように、また、どうしてその方が患者さんにとっていいのかきちんと説明するようにします。多くの方は、その安全性や利便性を理解し納得されるので、たとえば、メインの病院のかかりつけ医、たとえば大腸癌で外科手術を受けた人なら、そこの病院の産婦人科に紹介状を欠いて、次回以降の産婦人科の診療は外科と一緒の日に診てもらうように工夫してあげます。意外と、話を聞いてみると、以前からここに、あそこに通っていたから…という理由だけで、あちこちの病院に別々な日にせっせと通われている方も少なくありません。ちょっと時間をとって話を聞くだけでも、アドバイスすることが可能になります。(実は、今日も一人いらっしゃいました。)(S先生) 

<6/8の討議で出された意見>
●患者が1割負担であるからできるとも考えられ、保険制度の改変により、減少すると予想される。
●高齢者は、main doctorがいた方が良いと考えられ、病院、せめて薬局の一本化を勧める。
●ただ病院を一本化するとしても、その病院が1患者1カルテを採用していなければ、情報の一本化にはならないかもしれない。
●島根県出雲市では、住民各々に健康カードが発行され、どこの病院にかかり、何を処方されたかなどがどこの医療機関からでも解るような取り組みが成されている。(補足;島根県出雲市は「健康カード」制度を導入しした。65歳以上の住民の健康状況がコンピュータにインプットされていて、具合が悪くなった時には市内のどこの病院でもすぐに対応できるようにすることがねらいである。カードは郵便貯金の出し入れにも使うことができる。このカードのおかげで、街角で倒れかかっていたお年寄りを病院に運び、病院でも迅速な対応がとれたので、命をとりとめることができたという話もある。)


<Web上の意見(part.2)>
 82歳の年寄りで、一般内科、消化器内科、整形外科等特別にかからないと解決しない問題はあまりないと思います。私であれば、あなたの健康問題に関心が一番あるのは私ですよという最大限のメッセージを与えて、消化器内科、整形外科からの紹介状を持ってきてもらうか、そこに問い合わせて、私自身が薬を一本化すると思います。そうでなければ、かかりつけ医の候補になりそうな先生に自分の処方などを紹介すると思います。(S先生)


 医療費の無駄遣いの問題もさることながら、重複薬剤、飲み合わせによる副作用により、生命の危険性が考えられるのではないでしょうか。患者の問題というより、各医療者、ここでは、一般内科医、消化器内科、整形外科等が、症状(副作用)が出てくるようでは遅すぎます。・・薬剤を処方する前に問診を十分に行うべきです。患者本人への教育と共に、また、それが不可能であると判断された場合、患者の身の回りの世話をしている家族(key-person)に同伴していただき、内服確認・内服状況等情報を入手し、慎重な対応を検討すべきではないでしょうか。(M先生)


 患者様とお話しすると、「他の医療機関にかかっている事を医師に知られれば嫌われてしまう」と強く思われている印象を持ちます。私は普段から、むしろ他の医療機関にかかっている事を教えてもらった方がありがたいことをお伝えするようにし、なるべくこのようなケースを減らすように努めています。(T先生)


 それぞれの薬をどこからもらっているか、目の前で尋ねてみることは難しい作業でしょうか。中には錠剤の形状ではどんな薬かわからない場合もあります。今はお薬ノートを患者さんが持っている場合があります。それをみて、薬を整理してあげるやさしさも大切ではないかと思います。患者さんの中には、薬こそがよい治療と思っている人が多いのです。特にお年寄りにはその傾向があります。たくさんの薬を出してくれる先生が名医と。しかし、無駄な薬とか同じ薬を2つの病院から同時に処方されている場合があります。患者さん自身も薬が多いと不満を漏らす方もいます。目の前で、「この薬はこんな作用があります」など、説明してあげることは難しいでしょうか。診療時間の問題(制限)があるのだと思いますが、いずれにしても自分のこころに疑問や偽りを感じたら、それを打ち消さないで、自分にもう一度問う姿勢を培ってもらいたいものです。(S先生)


 患者が医療費を無駄に使っているという視点で介入するのは間違っていると思う。このようなケースはよく遭遇するが、これは現代の医療システムによってもたらされた患者の悲劇だと思う。患者がこのような行動をとってしまう原因がわれわれ医療者にあるという理解がまず第一。そうかんがえれば、なんとか患者さんが楽に診療できるように私のところで全部見てあげましょう、とか、今はこの病気は落ち着いているので○○医院はちょっとお休みして△△医院でまとめて薬を出してもらうほうが便利ですよ、などという対応になると思う。(M先生)


<6/15の討議で出された意見>
●医療費の視点から介入することについて。介入のポイントは色々あり、医療費を考えて診療することは必要である。医療費の点からの介入であることを患者さんに説明し、同意を得る。
●いくつもの病院を回りたいと言う患者さんの自由もある。


 <Webからのコメント(part.3)>
 理屈では、制度上いくつもの病院かからなくていいようなシステム、いくつもの病院にかかっても飲み合わせすぐに分かるシステムが必要だが、現段階では、患者にとって、利益になるように思えた人が、それをマネージメントすればいいと思う。個人的にはそうやって整理するのは嫌いじゃないです。患者に喜ばれるからです。(M先生)


 こういった患者さんは,色んな薬を何人かの医師からもらうことも付き合いの一つ,あるいは薬袋が免罪符のような働きをし,とりあえずそれをもらったから安心するというような心理を持っているのかなと思うことがあります.
医療費の無駄遣いといった視点は,現在の制度だとなかなか身に付かない面がありますね.高齢患者,政府,医師会のいずれも,現状を変えることのメリットを感じていない可能性もありますが,この点についてはもう少し理想的な面から話し合いを進め,何らかの方針を立てることが望まれるように思います.政治的な問題と考えたい面が大きいです.
 一人の医師として,こういった患者にどう接するかは難しいですね.
年取った大伯母が20〜30種類の薬を持っているのを見て,当時医学生だった兄が「そんなたくさん薬飲んでるの?」と尋ねたところ,「効きそうな色してるヤツだけ選んで飲んでるんや」という答えが返ってきて,それぞれの考え方があるもんだなと妙に納得したのを覚えています.
よって,私は患者とその患者を取り巻く数人の医師の一人という関係においては,薬剤師を決めて飲み合わせなどに十分注意してというような説明をするかどうかは,その患者の理解度やニーズをよく知った上で決める方がいいかなと思いました.患者にとってその医師は最も信頼している医師かもしれませんが,数多い医師の一人かもしれません.その患者の信頼を勝ち得ることがなければ,どんなアドバイスも聞き流されてしまう,あるいは拒否的な対応を受けてしまうかもしれないのですから.(O先生)


 これは、誰でも気づいた人が一本化を提案する必要があるでしょう?ただ年齢を考えると、ご本人が信頼しているキーパーソンを巻き込んで説明してさしあげたほうが作戦として成功しやすいのではないでしょうか。(K先生)


 主治医は患者さんに今の状況を説明し、いくつかの方法を提供すればよい。患者さんが判断する能力を持っている限り、患者さんにその選択を任せるのはふさわしいだろう。(K先生)


 医療費の無駄遣いの問題もさることながら、重複薬剤、飲み合わせによる副作用により、生命の危険性が考えられるのではないでしょうか。患者の問題というより、各医療者、ここでは、一般内科医、消化器内科、整形外科等が、症状(副作用)が出てくるようでは遅すぎます。・・薬剤を処方する前に問診を十分に行うべきです。患者本人への教育と共に、また、それが不可能であると判断された場合、患者の身の回りの世話をしている家族(key-person)に同伴していただき、内服確認・内服状況等情報を入手し、慎重な対応を検討すべきではないでしょうか。(M先生)

< 6/22の話し合い>
・ 一本化は、せめて、薬局の一本化を勧める。
・ 医療費の浪費は、結局は、患者負担として帰ってくる。医療者が、この観点から発言することは是である。cost削減でなく、cost effectiveの考え方で。自分の利益を考えてはいけない。
★医師は、professionである(その他、聖職者、法律家)。対患者、社会、雇用者、更に自分や家族、同僚に対して義務を負う。


<臨床倫理の4分割表を用いた分析>
医学的適応 
・ 重複した服薬による副作用の可能性。 
・ 患者にとって、身体的・金銭的に不利益であると考えられる。 
→医療者は、医療費の面から介入できるか? 
患者の意向
 ・ 何種かの病院へ通う。 
→専門性への期待? 
→義理? 
→医師に権威を感じて通院を中止することを言い出せない? 
→他の理由があって、「行きたい」のか? 社交場として? 
QOL 
・ 患者にとって、金銭的に負担である。 
・ 患者は、精神的に充足している可能性もある。 
→何が患者にとって利益があるか?
 周囲の状況
・ 医療費の無駄遣い。 
→説明の義務は誰が負うか? 


<まとめ、学生が討論をもとに考えた問題点と対応>
1、医師−患者関係
対等か? 話し合えるか?
対等ならば、一本化への提案が、提案として受け入れられると思う。
2、患者の意向
医師や病院に対して義理があると感じている。
説明して、一本化を勧める。
社交場として、楽しんで行っている。
一本化を勧めるだけでなく、代替案(デイサービス、老人クラブ?)を提案できる人を紹介する。
一人の医師、一つの病院に絞ることに不安を感じている。
いつでも、他の病院に意見を求めることができる、また、代わることができることを確認して一本化を提案する。あくまで、提案であることをお互いに確認する。あるいは、まず、主治医か掛かりつけ医を持ってみることを提案する。
3、 医療費
この部分では、削減を求めてよいと思う。
行脚自体でしか、患者さんが満足できないのであれば考えなければならないが、何らかの他の理由があり、代替案があるならば、この観点から、医師が説明してもよいと考える。
啓蒙???
医療費を、事前申請がない場合は、一旦自己負担とし、返す方法をとる?


<まとめの後送られて来た看護師Rさんからのコメント>

高齢者の病院通いは、日課になってるのでしょうね?
ただ、メインの病名が判らないので、患者さんがどの病院に一本化すべきかが判らない。
 
いずれにせよ病院側の責任が大きいと考えられます。
1)各、病院での信頼関係、コミニュケーションが希薄ではないでしょうか?
主治医、Ns、受付など
特に医師として新患を診る場合の基本があるのですから、、、きちんと情報収集がなされてたらこのようなことは防げる問題と思います。(受付時は、他院の罹りつけ医や服薬中の情報を把握すのが基本です。)
2)医療も分化、専門化しており、薬も調剤薬局へと患者にとってある種不便です・
3)患者と家族の関係も見えませんし、
 考えられるのは、その患者の生活環境に問題があると思います。1人か老夫婦世帯、もしくは、あまり構ってもらえてない方で、無趣味や自分の存在感の喪失が考えられます。
 
今回の学生さんが捕らえられた問題として気付かれたのはすばらしいと思います。
 
対策として・・・(このケースは、一人で通院掛け持ちできる位の元気さがありますので、)
とりあえず
1、本人に家庭環境を聴き、キーパーソンに来院してもらい事情説明
2、疾患を最チェックし、重複投与の危険性を指摘し理解されるように話した上で、病院を絞る方向を示す。(せめて内科位は1本化を勧める)



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