2001年度臨床倫理討論


症例4)家庭内暴力が疑われる事例への介入

38歳女性、数年前に糖尿病と診断され、服薬治療を受けていたが、血糖のコントロ
ールは不良で、体重の増減を繰り返し、この2ヶ月で10kgの体重増加を認めたた
め、入院治療となった。食事療法を行い、順調に体重は減少していった。しかし、あ
る日病棟からいなくなり、夕方、急に泣き出し、家に帰りたいという。

主治医の話では、家庭で夫から暴力を受けているらしい。しかし、彼女はいつも、
「主人は優しい。とても愛している」と言っている。子供はいない。
患者は精神科の先生の診察を受け、結局家に帰ることになった。

(HP上の事例提示は、実際の事例をもとに患者さんのプライバシーを守るため内容を
変更して提示します)

(問い)
糖尿病の治療は必要だと思うが、どこまでやるべきなのか。
彼女の場合、果たして家に帰ることがいいことなのだろうか。



(一回目の討論内容と次回迄の課題)
このような家庭内暴力が疑われる症例に対する介入の仕方はどうしたらいいの
だろうか。次回迄に調べてくること。


4分割法による事例の分析

<医学的適応>
・数年前にDMと診断、服薬治療中
・血糖コントロールは不良、体重の増減を繰り返していた
・ この2ヶ月で10kgの体重増加
・ 入院により食事療法
・ うつ状態の可能性がある

<患者の意向>
・自宅では食事療法がうまくいかず、入院治療には積極的
・夫のことが心配なので家に帰りたい

<QOL>
・夫との二人暮らし、子供はいない
・自宅では食事が不規則
・夫から暴力を受けている
・「夫は優しい。とても愛している」と言っている

<周囲の状況>
・夫との二人暮らし、子供はいない
・近所との交流はあまりない様子
・夫は会社員で、経済的にあまり裕福ではない



(一回目の討論内容と次回迄の課題)
このような家庭内暴力が疑われる症例に対する介入の仕方はどうしたらいいのだろう
か。

DV(ドメステイック・バイオレンス)についての説明
DVとは、日本でここ近年、ようやく口にされるようになった単語ですが、親密な関
係にある男性から女性に加えられる暴力のことをさします。ドメステイック、という
単語は、家庭、内輪のことをさしますが、この場合、家庭内暴力の核心という意味で
用いられることもあります。夫、恋人からの暴力から逃れるため、(被虐待女性が)
身を隠し、心と体を回復させる支援組織として、シェルター、というものがあり、支
援に欠かせないものとなっています。
我が国での、シェルターも、アメリカや、他の国より数は少ないですが、各地域に存
在します。(女性センター(または福祉事務所)などを通して、紹介されます)

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律
第三章 被害者の保護
(配偶者からの暴力の発見者による通報等)
第六条 配偶者からの暴力を受けている者を発見した者は、その旨を配偶者暴力相談
支援センター又は警察官に通報するよう努めなければならない。

2 医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によっ
て負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その旨を配偶者暴力
相談支援センター又は警察官に通報することができる。この場合において、その者の
意思を尊重するよう努めるものとする。

4 医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によっ
て負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その者に対し、配偶
者暴力相談支援センター等の利用について、その有する情報を提供するよう努めなけ
ればならない。

(配偶者暴力相談支援センターによる保護についての説明等)

第九条 配偶者暴力相談支援センター、都道府県警察、社会福祉法(昭和二十六年法
律第四十五号)に定める福祉に関する事務所等の関係機関は、被害者の保護を行うに
当たっては、その適切な保護が行われるよう、相互に連携を図りながら協力するよう
努めるものとする。

配偶者暴力相談支援センター
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るための業務を行う施設で、都道府県
が設置する婦人相談所その他の適切な施設です。都道府県によっては、いくつかの適
切な施設が配偶者暴力相談支援センターとしての役割を果たすこととなっています。
配偶者暴力相談支援センターでは、次のようなことを行います。
 @  相談や相談機関の紹介
 A  医学的、心理学的、その他の指導
 B  被害者やその同伴家族の一時保護
 C  自立支援のための情報の提供等
 D  保護命令制度の利用についての情報の提供等
 E  被害者を居住させ保護する施設の利用ついての情報の提供等
暴力から逃れて、一時的に身を寄せることができりる公的施設のひとつに、婦人相談
所(自治体によって女性相談センター、女性相談所など)がある。各都道府県に必ず
ひとつあり、単身または子供連れの女性が利用できる。利用料は無料、利用期間はお
おむね二週間となっている。退所後の女性達の生活の場はさまざまで@アパートを借
りるA母子生活支援施設などの社会福祉施設に入居B住み込み就職C元の住居に戻る
など選択肢は限られている。アパートに入居するための資金を持っている女性は少な
く、生活保護制度にはアパート転宅の資金も含まれているが、離婚が成立していなけ
ればならないなど希望すれば受給できるというわけではない。家を出る事を考えた時
の女性達の不安・葛藤はひとつではないが、経済的自立の困難や、母子世帯に対する
世間の冷たい視線、「子供たちのためには両親そろっていたほうがよい」という社会
規範が女性の選択肢を狭めている。

家庭裁判所
DVの場合、当事者間では話し合いが困難であったり、夫の追跡や暴力のエスカレート
が予想されるなどの危険性があることも多い。しかし、DVの特質や、暴力を生み出す
性差別的な社会構造などについて調停委員だけでなく、調査官や裁判官の認識が薄い
ことも事実である。

警察
1996年に出された「警察の『犯罪被害者対策』に関する研究会報告書」は「潜在する
被害者」として「家庭内暴力被害」などをあげ、家庭内の事件を警察が積極的に取り
上げない傾向や家庭内の被害者をサポートし安全を確保する制度、施設の未整備を指
摘している。これを受け、家庭内事件にたいする警察の対応として、@関係機関との
連携の上に、再発が見込まれるものについては、より積極に対応するA福祉機関や民
間の組織(シェルターなど)との密接な連絡、協調、協力B被害者の利益に即した行
動などをあげている。

<加害者対策>
加害者の共通点
@ 感情表現が未熟であること
A ジェンダー意識が強いこと
B 子供の頃に虐待された経験があること
もちろんこの3点がすべての加害者に共通しているわけではなく、暴力の原因はもっ
と複雑多岐である。それを踏まえた上で、加害者が暴力を克服するための教育プログ
ラムを作っていく動きがある。
@ 感情を豊かにしていく、特に暴力的な衝動を鎮めて怒りを暴力以外の表現で伝え
ることを学ぶ
A 「男らしさ」への執着をなくし、その裏にあるコンプレックスを解消していく
B 被虐待者としてのトラウマを癒すこと、特に父子関係で受け継がれている悪循環
を断ちき
  るという自覚を持つ
以上に力点を置き、「DV防止プロジェクト」が主催するワークショップなどが行われ
ている。



松尾智子さん(九州大学法学部)のコメント


症例4)家庭内暴力が疑われる事例への介入
(問い)
糖尿病の治療は必要だと思うが、どこまでやるべきなのか。
彼女の場合、果たして家に帰ることがいいことなのだろうか。

 糖尿病治療には、本人の精神状態が大きな意味をもつと思います。その上で家庭環
境が整うのは大切なことです。夫に治療に対する協力が得られないなら、何とかして
環境を変えるための方策を考える必要があるのではないでしょうか。患者の肉親等の
協力を得てみる努力が必要かもしれません。
 帰宅後の治療を監督する可能性のあるものとして、保健所等の関わりはできないの
ですか。このような家庭に問題のある患者の場合、プライマリーケアに関わる職種、
ケース・ワーカー、ソーシャル・ワーカーなどの関与が求められるのではないでしょ
うか。
 ただし、治療を本人がどの程度必要と考えているかが問題になります。本人が望ま
ないのに、治療を強要することはできないと思われるからです。



Tom Tomlinsonさん(ミシガン州立大学)のコメントと学生からの返事


Dear Dr. Shirahama--

It is hard to comment on this case without more knowledge of what social
resources are available in Japan regarding domestic violence, and more
knowledge of what the social attitudes are toward it (e.g., attitudes that
might condone or excuse it.)

I will say that I think keeping the patient in the hospital, while it may be
useful for treating her diabetes, will do little to treat the problem of
violence by her husband. She will eventually be returning home, and unless
something has been done to address the situation there, she would seem to be
as much at risk of violence as she was before her hospitalization.

Thank you very much for posting these cases for our discussion.
--------------------------------------------------------------------------------------------
上記のコメントへの学生の返事
Thanks for your opinion and I am sorry to be unable to offer information
detailed about this case. I was not able to do at all, having a question in
her going home as a student's position. It investigated what can be done as
a doctor.
First, when there is a crack or there is Domestic Violence, a women's
guidance office and the police can be notified. However, when she does not
wish, there are also a showy crack and an example for which violence
escalates when the husband knew what was notified forcibly, so we have to
carry out carefully.  It is important to have a confidential relation
between doctor-patients, she can say that she has received viorence, and she
has been troubled by it.
We must respond to her feeling, must not blame, and also both common sense
and the conventional view of women must not be forced. It is giving the
recognition "violence's being a crime." Since the woman who has received
violence is blaming self in many cases as "since she had a fault", it is
also important to apply the language which can carry out "you are not bad"
self-affirmation repeatedly. Moreover, when she gets injured, she has to go
to a hospital, and get a diagnosis written.  Information, such as DV
consultation organization, and a shelter, legal aid services, is offered
appropriately. In Saga, two counselors are in a women's guidance office, and
it protects consultation and the sherter where she can evacuation
temporarily (two weeks). Then, there are support institutions, such as a
welfare office, a dormitory for fatherless families, and a woman health
institution. They teach information of the way to offer Family Court etc.
Moreover, the doctor of psychiatry is in a mental health center, and victim
support of a psychiatry domain is offered.
 It is also important to recognize the limit of being able to do as a doctor
, and not to do the role from which she is saved ,to encourage her to take
the responsibility for her life by herself. The education of a victim and an
assailant is also important.
We must not force our feeling of disappointment on "returning decision" of
her.

Please tell me how institutions and organizations there are in your country,
and your opinion.
--------------------------------------------------------------------------------------------
学生の返事へのTomlinsonさんからの返答

Thanks very much to the student for providing this information.

It sounds like there are many similarities between Japan and the US
regarding resources and laws concerning domestic violence. For Michigan, the
following web site provides more information:

http://www.mcadsv.org/mrcdsv/index.html

In the US, as in Japan, physicians are usually not in a good position to
provide direct intervention addressing domestic violence, except to
encourage the patient to use other resources. One exception might be the
family practice physician, who sees the patient on a regular basis and can
provide ongoing counseling support, can help document a pattern of violence,
etc.

Tom Tomlinson



Mulhornさん(ミシガン大学)のコメント


Dear Dr. Shirahama--
I agree with T. Tomlinson and recommend that if there are resources
such as women's organizations or other contacts that she can reach
while she is in the hospital, this could be an important effort of the
staff and clearly a necessary part of successfully navigating this
dangerous home situation.  If these resources are not known, then it
may be recommended that this be a project for staff at the hospital
for future cases.
K.A. Mulhorn


田坂佳千(内科開業医、TFCーML主宰)のコメント


(1)
>>糖尿病の治療は必要だと思うが、どこまでやるべきなのか。
入院中にいくらコントロールが良くても、外来でそれが継続
できないと、元の木阿弥〜・・・・。

むしろ、長期続けることが大切なのがDM。

今回の、
>この2ヶ月で10kgの体重増加を認めたため
自体も、家族・環境要因は考えられないのかな〜???

糖尿病の入院の意味(目的)は?
・知識の集中詰め込み?
・味と量の体験?
・甘い誘惑からの隔離??
・医師として、集中精査をしたかった?
などのどれなのかな??

むしろ、
>ある日、病棟からいなくなり、夕方、急に泣き出し、家に帰りたいという。
のところが、最大の収穫かも???
(今まで、気づいていなかったのであれは!!!)

であれば、
>夕方、急に泣き出し、
というところで、医療者が(その話から)逃げ腰にならないのが、
ポイントかな〜?

まずは、本人から、LISTEN,LISTEN,LISTEN、の40-50分・・・。

平行して、身体診察を主体として、DV(疑惑)に対して、
帰宅させることの危険性の評価が必要かな〜???。

緊急的な危険性が、高くないと判断されるならば、
少なくとも、糖尿病の教育・治療目的での入院は疑問かな〜??

つまり、
>>彼女の場合、果たして家に帰ることがいいことなのだろうか。
この点については、本人とゆっくり話してみたいな〜・・・。
(あるいは、本人の話を聴いて上げれる人を見つける。
 〜つくる。 〜探す。)



池田正行さん(神経内科医)のコメント


 >症例4)家庭内暴力が疑われる事例への介入

コメントがないそうですが,精神科の門前の小僧にとっては,
糖尿病云々よりも,精神科の問題の方が気になります.ただ,
人や家庭の状況が見えず,今ひとつ現実感がないので,コメント
しにくいです.

>体重の増減を繰り返し、この2ヶ月
> >で10kgの体重増加を認めたため、入院治療となった。

> >しかし、ある日病棟からいなくなり、夕方、急に泣き出し、家に帰りたいという。

これらの病歴から,ご本人に,摂食障害や,境界型の人格障害という,
非常にやっか いな精神障害があるかもしれないと危惧します.
特に境界型の人格障害だったら,度胸の据わった精神科医だけが
対処できます.プライマリ・ケア医はうっかり手出しすべきでは
ありません.やけどします.

>  >患者は精神科の先生の診察を受け、結局家に帰ることになった。

この診療が一番気になります.どんな診断のもと,どんな診療を受ける
のか,きちんとフォローされるのか?

夫の方にも薬物依存などの精神科としての問題はないのか?も気になります.

余談:
精神遅滞,精神分裂病やアルコール依存症といったコンプライアンス
の悪い糖尿病患者さんを何人も抱えていますが,外来に来てくれるだけで
ありがたく,血糖が300を超えようがどうしようが,”よくおいでくださ
いましたー”って笑顔で接客することにしています.

厳しいことを言って来なくなって,次回来院はケトアシドーシス性昏睡
なんてことを避けたい一心です.まあ,いずれはそうなるのでしょうが.

今日3ヶ月ぶりに来てくれた分裂病+アルコール依存+慢性膵炎+糖尿病の
患者さんは酒くさかったなあ.いえ,決して態度が悪いんじゃなくて,
もの静かで気弱そうな感じなんですよね.もちろん,こんな人に糖尿病
の治療もへったくれもないのですが,外来に来てくれるだけで,ああ,
まだ生きていてくれたんだなって.3ヶ月ぶりにでも来てくれるのは,
僕を担当医として認めてくれているから,ありがたいなって.


池田先生へのコメントへの田坂先生のコメント


<お礼>
池田先生、ありがとうございました。!!!!!!

>今ひとつ現実感がないので,コメントしにくいです.
との前提で、

>特に境界型の人格障害だったら,度胸の据わった精神科医だけが
>対処できます.プライマリ・ケア医はうっかり手出しすべきでは
>ありません.やけどします.
なるほど。そういう可能性も考えておくべきなのですね。!!!!

>夫の方にも薬物依存などの精神科としての問題はないのか?も気になります.
そうですね。!!!
この場合、本人はなかなか受診してくれないパターンの場合が
多いのかな〜?。

また、
>余談:
ありがとうございました。!!!!
「そう、そう」「そうなんだよな〜!。」とうなづきながら
読ませていただきました。!!

以上(田坂)



本山恵理さん(社会福祉学科大学生)のコメント


症例4)家庭内暴力が疑われる事例への介入

4分割法による事例の分析より考察

・長期に及ぶ糖尿病の治療
・夫からの暴力
・裕福でない経済状況
・狭い人間関係
まず、この4点にしぼってみると、この患者は精神的にかなり追い詰められていると
考えられました。うつ状態の可能性があるとのことですが、DVによるものなのか
それとも糖尿病の治療によるものなのか、夫の暴力がなにをきっかけに始まったのか
ということに関して気にかかります。

さらに、
・夫から暴力を受けているのにもかかわらず、「夫は優しい」と言う。
・入院治療には積極的であるのにかかわらず、夫を心配して家に帰りたい。
といった患者の矛盾した発言からは、カウンセリングが必要のように考えさせられま
す。
患者の自尊心の低下及び、夫との相互依存的な感情・関係が心配です。

入院して糖尿病の治療を受けると同時に、カウンセリングやソーシャルワークを
利用して退院後の生活環境を構築することが必要だと考えます。
ある意味、病院がシェルターとして機能することもありえるのではないでしょうか。



第3週の討論のために学生が調べたこと


この患者さんは、2年ほど外来で接している先生には夫からの暴力があることを話し
ていました。今回の入院で担当になった主治医と、私とは1週間足らずの関係でし
た。今回の症例で医師−患者関係の重要さを改めて感じました。今後、医師としてこ
のような患者さんにどのように介入していけばいいのか、県立女性センター、婦人相
談所、精神保健センターなどに電話をし、また、DVに関するホームページなどで調べ
てまとめました。

≪ 医師としての介入の仕方 ≫

まず、傷があったり、DVがある時は婦人相談所や警察に通報することができます。
しかし、本人が希望しない場合は強引にはできず、また通報した事を夫が知ったこと
により
暴力がエスカレートする例もあり、慎重に行わなければなりません。そこで、医師と
して、人としてどのように対応すればいいのかを「ウィメンズネット・こうべ」学習
会資料を参考にまとめました。

@ 大切なのは第一に医師−患者間の信頼関係であり、DVがあり、苦しんでいる事
を話せる関係にあることです。彼女の感情を受けとめ、充分話しをしてもらい、非難
せず、常識や従来の女性観を押し付けてもいけません。

A 「暴力は犯罪である」という認識を持たせることです。暴力を受けている女性は
「自分に落ち度があったから」と自己を責めている場合が多いので、繰り返し「あな
たは悪くない」「自分を責めないで」など自己肯定できる言葉をかけることも大切で
す。また、傷を負った時には病院に行き、診断書を書いてもらうよう指導します。

B DV相談機関やシェルター,法律相談などの情報を適切に提供します。佐賀には婦
人相談所に相談員が2名いて、相談と一時保護(2週間)をしてくれます。その後、
福祉事務所、母子寮、婦人保健施設などの支援施設があります。家庭裁判所などの情
報も提供していただけます。また、精神保健センターには精神科の医師がいて精神科
領域の被害者支援を行います。

C その一方で、医師としてできる事の限界を自分で認識し、彼女を救う役割をせ
ず、彼女自身が彼女の人生の責任を取れるよう勇気づけることが大切です。

D 彼女の「戻る決断」などに自分の失望感を押しつけてはいけません。

以上のことに気を付けながら接していけばよいのではないでしょうか。



佐賀県精神保健センター 藤林武史さん(精神科医)のコメント


> 症例4)家庭内暴力が疑われる事例への介入

ある日病棟からいなくなり、夕方、急に泣き出し、家に帰りたいと
いう。
主治医の話では、家庭で夫から暴力を受けているらしい。しかし、
彼女はいつも、「主人は優しい。とても愛している」と言っている。

という言動から、精神科に受診するというのは、どのように考えて
のことなのでしょうか。
彼女が、院内でとった行動は、きわめて自然なことでもあるし、
家庭で暴力を受けていて、それでもなおかつ、
「家に帰りたい」「夫は優しい」という気持ちや考えを持つ事も、
ドメスティックバイオレンスの被害を受けている女性には、
頻繁にみられることです。

という理解を、身体科の医師や看護婦が、少しばかりでも知ってお
いていただければ、
まず、最初にアクセスするところは、院内のソーシャルワーカーか
DV被害者の心理に詳しい臨床心理士が、自然な感じです。
本人が自ら精神科を希望したのであれば、まあいいのですが。
決して、彼女の言動は、crazyではないのですから。
でも、ひょっとして、精神科にコンサルトされることによって、
彼女自身が、自分の考えや言動は間違っていると、
思わせてしまったら、あまりよくない結果です。

さて、病院内で、DVのことが語られたときには、
まずは、院内における心理社会的な支援が優先し、
ついで、PTSDやうつ病などの、精神疾患が考えられる際に、
充分、本人の自己決定を待って、精神科を紹介することになるので
しょう。
その前に、GHQやIES-Rなどのストレスやトラウマのratingをしても
いいでしょう。

白浜注)GHQは精神健康調査票のことですが直接内容が提示された
HPがみあたりません。著作権の問題なのでしょう。
IES-Rについては以下のHPを参照下さい。
http://www.sohot.gr.jp/~ptsd/PTSD/ies-r_new.htm

そして、ゆっくりと時間をかけて、面接を行い、病院外のDVに関連
する社会資源を紹介していきます。
DV防止法もあり、以前よりは、社会資源が充実してきました。
民間の支援組織やシェルターも紹介するのもいいでしょう。

暴力があっても、家に帰っていくことは、よくあることです。
ただ、家に帰っていくだけではなく、自分自身が受けてきた暴力が、
DVというメカニズムの中で生じていて、そのメカニズムの中から、
自分の内なる力を回復させ(エンパワメント)、問題を解決する
可能性があるということを知っていただくチャンスを持てたかどう
かが重要です。

そして、この問題を解決するためのつながりを、医療者でも弁護士
でも、誰でもいいので、DVについてわかる支援者を家庭以外に持つ
ことができればそれだけで、充分な回復への一歩と思っています。

でも、何よりも、臨床医や看護者が、DVについて最低限知っておく
ことそれから、よく知らないときには、どこに聞けばいいかを知っ
ておくことこの2点が重要なのでしょう。

ちなみに、
私は、精神保健福祉センターの医師という立場で、
また、民間の被害者支援組織のボランティアという立場で、
両方の立場で、DVについての情報を提供できます。
今後、メールや電話等で、ご利用ください。



イリノイ大学シカゴ校医学教育部 大西弘高さんのコメント


まず,この症例は服薬していたこと,体重が増減していたことから
2型糖尿病だと思われます.1型ならセルフケア不安定な場合
危険ですが,2型糖尿病はそれほど差し迫った危険が及ぶことは
少ないと思います.

「慢性身体疾患患者のセルフケアと精神心理的問題」(JIM 10(9)
771-774, 2000)で,私はもう少し一般的な症例を挙げてその考え方の
枠を示しました.ここでは,糖尿病に対して患者さんがセルフケアに
積極的になれないような場合について述べたいと思います.

患者のセルフケア行動には,食事療法,運動療法,服薬や注射,
血糖尿糖測定,足のケア,受診そのものがあります.

それに影響を与える外的要因には,治療環境,家族・社会・医師
との関係,合併症,他疾患,治療法,病態/病型が挙げられます.

また,内的(心理的)要因には,健康信念,感情,自己効力感,
ストレス,うつ病,認知機能,摂食障害などが挙げられます.

この症例では,外的要因として家族との関係に問題があり,内的
要因としてもうつ病/摂食障害などが疑われます.自らの健康や
病についても否認状態にあるかもしれません.まず,その問題が
解決しない限り,糖尿病の治療はある程度看過されても仕方ないと
思います.健康信念,感情,自己効力感というレベルの問題を
超えているようです.

実際には,糖尿病に対しては,プライマリケア医,内科医が継続
して関わるようにしますが,血糖が数百というレベルでもケトンが
出ていないのなら引き続き外来フォロー.非ケトン性高浸透圧性
昏睡かケトアシードシスの状態に至らない程度でのコントロールで
いいというような気持ちでとにかく継続して診つづけることです.
よって,来院したら血糖と尿ケトンは一応チェックします.

内服薬は,継続して診療するための口実になりますし,おそらく
患者さんが「治療している」という気持ちを持てることが多いため,
私なら処方します.でも,絶食過食を繰り返したり色んなことが
起こり得るので,低血糖にならないようにという配慮も必要かも
しれません.そのさじ加減は継続外来でします.

食事療法,運動療法,自己血糖尿糖測定はたいていの場合,
本人のストレスを増すだけになりやすいため控えますが,時に
「糖尿病なのに食事療法もしない」と家族に責められるなどの
ケースもありますので,本人ができそうならしてもいいと思います.
運動も外の空気に触れるという意味ではいいと思いますが,
DVを疑うような場合にはご主人が外に出さないでしょうね.



藤沼さん(診療所医師)のコメント


僕は,診療所の近くにあるシェルター(母子寮)の内科系(!)担当医ですが,担当の
精神科の先生より,多様な(DV含む)相談をうけることが多いです.

1.どの程度の暴力をうけているのか?
DV,この場合はWife abuseになると思いますが,罵る,おとしめるといった言葉の暴力か
ら,何らかの道具あるいは武器をつかうものまで,abuseにはすごく幅があり,緊急度が
異なります.

2.非常に単純化した図式ですが,DVというのは,人格,過去のDV歴,経済状況,周
囲の人達,そして夫と妻のコミュニケーションの悪性サイクルといった,家族の関係の状
況全体をさしていると考えた方がいいと思います.特に,嵐のような暴力ステージのあ
と,夫は急に「すまなかった」「本当は愛している」といったハネムーン期が一定過ぎた
後,緊張期にはいり徐々にバイオレンスの生じるような雰囲気が高まり,夫が無口になっ
てきたり,おこりっぽくなり,また暴力期に突入するというサイクルを家庭医としては理
解しておきたいです.このサイクルのパターンになっているかどうかは,家庭医でも判断
できると思います.

「系統的」に暴力を受けている妻は,たいていこのハネムーン期の夫が「本当の夫」とお
もっており,夫を怒らせる自分がわるいんだと,自罰意識を持っており,これをかえるの
は相当専門的なカウンセリング必要です.しかし,妻が自分も治療が必要であるというこ
とを理解するようになるのはきわめて難しいようです.もし,われわれのすすめに沿って
精神科医(特にaddictionの専門家がいいようです.精神科医が全員必ずしもDVに精通
しているわけではないことは,経験上感じています)にかかろうと思うようになれば,相
当良い方向にむかっていると判断できると思います.

3.僕自身が考える家庭医に必要なDVに関する知識・技能・態度は,

A.DVは潜在的なものも含めると相当なCommon problemであることを理解する.

あらゆる患者で家族図をつくることを心がけ,想像力を働かせること.

「家族やだんなさんは,あなたの病気についてなにかいっていますか?」とか「旦那さん
との関係で怖い思いをしたことがありますか?」といったスクリーニング的な質問ができ
ること.

B.上述の「悪性」サイクルかどうかを見きわめること.つまり,相当病的で専門家との
コラボレーションが必要かどうかを見きわめること.

C.過去DVの犠牲者(母子家庭などが多い)女性のケアを行うこと.離婚の経過など
non-judgementalに聞くことができるのは家庭医ならではと思います.

D.子供がいる場合,子供の安全性にすこしでも不安があるなら,児相へ連絡すること.

E.正当化できる暴力はないことや,暴力は犯罪であるという原則を毅然として崩さない
こと.

といったところでしょうfか.

この症例に関しては,糖尿病はまあ,自覚症状がなんとか出ない程度の「それなりの治
療」をまずすること.糖尿病を通じて(道具として利用して)主治医が,良好な医師-患
者関係を構築し,継続性を持って関わること.その中で,DVへの介入のチャンスを探る
こと,といったところでしょうか?

とりとめのないコメントでごめんなさい.

それでは,また.



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