2000年度臨床倫理討論


症例3) 
患者は3才の女児。父親(30才男性)が救急外来に子供がころんで右手を痛がっている
という訴えで連れてきた。レントゲン撮影で右橈骨骨折と診断されたが、全身を診察
すると、からだのあちこちにあざがあること、子供が父親を怖がっていることなどか
ら単なる事故としては不自然で、担当医は幼児虐待の可能性もあると考えた。
(問)あなたがこの救急外来の担当医だったとしたらどのように対応しますか。



コメント集



日本赤十字社和歌山医療センタ− 瀬田剛史さんのコメント



 充分幼児虐待が考えられます。
 まず、各方面、すなわち警察、役所の担当部署(勉強不足でその部署はどこか存
じません)、母親やその他肉身等に連絡します。この父親の前では本当の事を女児
は述べられないでしょうし、まず離して落ち着かせることが重要だと思います。
 それとこの虐待が生じている背景を考察する必要が有ると思います。家庭環境を
役所の方々と話し合う必要が有るでしょうし、この父親の生い立ちが結構虐待に関
与しているものと考えます。その点についても解決をしなければ繰り返して起こる
でしょう。
 でも、限り有る時間でここまですべてを自分1人でできるかどうか疑問です。関
係部署と分け合って対応が要求されると思います。


 東京医科歯科大学人間科学 中村千賀子さんのコメント



こういうチャンスをのがして家に連れ帰させると、また、暴力がひどくなるとも聞
きます。児童相談所もこうした場合では、引き取ってくれないのでしょうね。医師
が父親にきちんと話をしていける力があると、こうした場合でもあるいはなんとか
なるのでは、と、希望を持ちたくなります。 偉く難しいとなおもいますが。父親
も鬱積したものを持っているわけで、それが小さな子どもに向かっていくのでしょ
う。この場合、子どもを引き離せないならば、父親のカウンセリングをねらうしか
ないでしょう。なんとkあり勇をつけてじっくりとはなせる時間をその日に持って
しまわないと逃げられてしまいますからね。



松山市横井内科医院 横井徹さんのコメント


 
できるだけ早く父親から離す必要があると思います。母親は一緒に住んでいるので
しょうか?。救急外来担当医としては、”橈骨骨折以外にも内臓に異常があるかもし
れない”とか説明をしてできればひとまず入院ができるよう取りはからうことぐらい
しかできないかもしれません。
父親はおそらく無理矢理にでも連れて帰りそうですのでなかなか難しいでしょう。
乳児虐待の可能性があるだけでは医療機関側が乳児の安全を守る方向で行動するのは
難しいのではないかとも思います。明らかに異常であると診断して警察や児童相談所??
のような公的機関に通報することができるのか、そのへんのことは全く知識がないの
でわかりません。僕個人の気持ちからすれば病院に”かくまってでも”父親から引き
離したいところですが・・・。

この症例は僕には難しすぎて見当違いのコメントのように思います。

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        横井 徹 YOKOI, Toru M.D.,FJSIM
        横井内科医院
        香川県高松市木太町2区1663-2
URL:http://www07.u-page.so-net.ne.jp/fa2/yokoit/
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伊豆西海岸 安良里診療所 藤原靖士さんのコメント



|症例3)
|担当医は幼児虐待の可能性もあると考えた。
 幸いなことに、このような症例には出会ったことはありません。

 症例1・2)と違い、このケースに近い経験がありませんので、形式上勉強したものか
ら考えると、関係機関に連絡を取って、チーム対応を取ることになるかと思います。
 もし、直面すれば、まずは児童相談所(または保健所)に連絡するでしょう。児童相談
所も、虐待の疑いではすぐには動けませんが、状況を見守ることはできると思います。
医師だけでは対応しきれないと思います。

 さて、ここで医師の守秘義務が問題になるのだと思いますが、当事者である危機に迫
られている子供の安全を守るためにはやむをえないのではないかと思います。
 この辺が倫理的な問題で、詳しく考えるべきところなのでしょうが、取り急ぎ。

 参考に、厚生省のHPの、児童相談所における児童虐待の処理状況報告のページのアド
レスを書いておきます。これを読むと、被虐待児本人の人権を保護するためには、医師
を含めて虐待を疑った人が、何らかの行動を起こさないのはまずいと思います。

http://www.mhw.go.jp/houdou/1111/h1117-1_18.html


京都府立医科大学 法医学教室 反町吉秀(ソリマチヨシヒデ)さんのコメント



 症例3)について
 児童福祉法第25条に基づき、児童相談所に通告します。虐待発見時の通告義務に
ついては、厚生省も平成9年の通知にて、保健医療関係者、福祉関係者、教育関係者、
警察官、弁護士等に対し、積極的に通告するよう求めていますし、親の承諾なしに、
通告しても、刑法上の守秘義務違反とならないことを、明言しています。
 もっとも、私が、救急外来の担当医である場合、このように、判断する理由は、
以上述べたような法的理由だけでなく、実際上の理由があるからです。その1、
地域により較差があるとは言え、児童虐待のキーステーションは、児童相談所であり、
児童相談所が中心となって、関係機関が連携をとって対応するためには、虐待発見者
からの通告が、その出発点となること。その2、医師が通告をためらい、返してしま
い、その次来院したときは、CPAOAないし死亡していたというケースが、多数ある
という事実。(法医学者として知っています。) 虐待による損傷そのものは、医療
機関受診時には致死的でなくとも、虐待のABUSEとしての病理が極めて深いケース
も少なくないことを知るべきです。また、医療機関は、患者が来院してくれなければ
「はいそれまで」、という側面があり、虐待の経過をみれないことが多いことを知る
べきと考えます。
 また、私は、児童相談所への通告だけでなく、保健所にも、連絡します。保健所
への通告の法的義務はありませんが、保健婦による家庭訪問等による活動など、児
童相談所に較べて、フットワークが軽くて動きやすい面があるので、連絡するメリ
ット大です。
 ともかく、医療機関だけで抱え込んでしまおうとすることが、最悪の選択と考え
ます。



京都大学総合診療部 浅井篤さんのコメント



本当に幼児虐待を疑うのであれば、しかるべきところに届け出るべきです。この場
合、この子供がこれ以上の被害、暴力を受けないことが最優先事項です。他にもいろ
いろ重要な倫理原則、たとえば守秘義務がありますが、もっと大切なことは幼い命と
人生を救うことだと思います。



九州大学法学部 松尾智子さんのコメント



 幼児虐待は、家族内でなされており、外部の者がその状況を聞き出そうとしても、
親の方が隠そうとする場合が多く、また、虐待を突き止めようとすると、実状が知れ
ることを恐れて、病院に近づかなくなることもあるので慎重な対応が望まれる。親を
避難するような態度を避け、一体どのような状況において子供が受傷したのかを注意
深く聞き、その説明によって骨折の状況が十分説得的なものかを検討する。可能なら
ば、また、三歳児くらいなら、なぜこうなったのかを聞いてみても何らかの情報が得
られるかもしれない。子供だと思ってその意見を軽視するべきではない。子供だから
こそ、率直に原因が聞けたりすることもある。
 また、虐待の恐れがあれば、すぐに自宅に帰すこそはせず、入院させて様子を見る
ようにいう。これまでの事件の推移から、医療者側の意識の甘さが幼児の死という取
り返しのつかない結果を引き起こしているケースが多いので、子供の利益を最大限に
考えて対応を考えるべきである。
 必要であれば、警察や、自治体の児童福祉課等、関連部所に連絡して、幼児の家庭
の生活状況を把握してもらうという、病院外への働きかけも念頭におくべきである。
 また、医師が入院が必要というにもかかわらず、必要ないとして帰宅させようとす
る親は、虐待をしている疑いが強いので、十分に注意する必要がある。本来、親は子
供のためにはできる限りのことをしてやろうとするものである。にもかかわらず、そ
のような傾向と異なった反応をする場合には何らかの理由があるのであるから、なぜ
拒否するのかの理由も検討しなければならない。子供が怪我している状況で親が如何
に行動するかは、親が子供に対し普段どのように対応しているかを察知するための多
くの情報を与えるものだと考えられる。子供が怪我して泣いているのに、無関心だっ
たり、泣き止むように叱りつける場合、優しくしていてもどこか不自然だったりする
場合、子供が親に対しおびえるような表情を呈している場合、親が側にいても泣き止
まない等、様々なケースが考えられる。また、両方の親が口裏を合わせる場合もある
ので、両方が同じことを言っていても、すぐにそれを信頼しないことである。また、
片方の親が実親でない場合も、虐待に至るケースが少なくないので、親子関係をしっ
かり把握する必要がある。また、しつけということを持ち出す親も多いと聞くが、骨
折するまでのしつけというのも、常識的に考えて行き過ぎであるので、この様な弁解
を信用しないようにするべきである。
 繰り返しになるが、大切なことは、子供の利益を最大限に考えることである。
以上が私のコメントです。



大分医大看護学科 小幡 光子さんのコメント



(この症例を看護学科1年生に考えてもらった結果です。
医学生の討論と比較すれば面白いと思っています。)

事例3の検討結果を、とりあえず簡単にお知らせします。
看護学科の1年生でもあり、あまり期待していたわけでは
なかったのですが、幼児虐待への関心は強く、予想していた
以上に色々な視点で考えていました。

4分割表のそれぞれの記述は省略しますが、対応として
 ・虐待の事実の検証、母親や関係者からの情報収集、
  過去に同じようなことがなかったかの確認
 ・父と娘の分離
 ・父と娘のケア:父を一方的に責めても問題は解決
         しないという意見が多かったです。



大阪弁護士会、泉薫さんのコメント



 現在、大阪の市及び府の児童相談所(子ども家庭センター)のアドバイザー的な仕
事をしています。家裁へ申立をするケースでは実際に事件として担当することもあり
ます。そのような経験からコメントをします。
 本ケースでは、受傷原因の説明が不自然なこと、陳旧性のあざが見られること及び
子どもの親に対する態度から虐待ケースと判断できます。母親をはじめとする周りの
人の対応は不明ですが、あざから判断して相当期間虐待が継続していること、及び子
どもの年齢が低いことから、重度かつ緊急性の高い症例と判定すべきです。
 法医学教室の反町氏のコメントにあるように、虐待ケースではチーム対応が基本と
なります。児童相談所に通告のうえ、関係各期間によるケースカンファランスを早急
に開くべきです。
 医療機関の役割は児童相談所に通告して終わりになるわけではありません。当面最
も大切なことは子どもの安全確保です。九州大学の松尾さんのコメントにあるよう
に、入院させて身柄を確保することが基本となりますが、それが無理な場合にでも最
低限通院治療を受けさせて、子どもの様子を観察できる体制をとることが重要です。
 ケース会議では、情報収集のうえ、在宅による指導か親子分離かなどの処遇方針の
決定をすることになります。親子分離(児童養護施設入所や里親委託など)を選択し
た場合に最も苦労するのは、子どもの身柄確保です。従って子どもが入院により親と
切り離されていることは、児童相談所による身柄確保を容易にします。
 子どもの身柄確保を最優先すべきことは、私自身の痛恨の経験から来るものです。
あるケースで虐待の緊急性判断を誤り、在宅のまま家裁への申立を行ったところ、家
裁からの呼出状に逆上した親が子どもに当たり、子どもが死亡するという事件があり
ました。やむをえず在宅のまま家裁申立をする場合には、家裁と協議のうえ相手方の
呼出なしで決定を出してもらうように交渉すべきでした。



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