内胸動脈の描出
東大病院検査部 高橋 登美子 技師
☆はじめに
冠動脈バイパス術には大伏在静脈などの静脈グラフトが用いられてきた。しかし、術後の開存性が優れているという理由から、内胸動脈( internal thoracic artery: ITA)や胃大網動脈などの動脈グラフトを用いるものが多くなってきた。特に左内胸動脈(LITA:リタ) は解剖学的位置関係から左前下行枝に対するグラフトとして多く用いられている(図1)。複数枝にわたるバイパス術には、血流が豊富でより末梢まで確認できる左内胸動脈が望まれる。このため、冠動脈バイパス術前に内胸動脈の開存性の評価を目的とした心エコー検査の依頼が増加している。
☆左内胸動脈の描出方法
左内胸動脈は左鎖骨下動脈の分枝であり、その走行は体表から2〜3cmと浅く、胸骨に沿っていることからリニア型プローブ、セクタプローブにより、胸骨左縁より描出が可能である(図2)。また、鎖骨上窩より、その起始部近傍の血流をセクタプローブで観察することが可能である。
1.胸骨左縁アプローチ
a.胸骨左縁上位肋間から下位肋間へのアプローチ(縦走法)
リニア型プローブまたはセクタプローブを胸骨左縁から2cmほど左の矢状方向におき、カラードプラにて左内胸動脈を検索する。頭側から足側へ向かう血流が肋骨後端に沿って認められる(図3)。パルスドプラにて血流速度波形を検出すると収縮期優位である。つづいて下位肋間へプローブを移動させ、同様にカラードプラおよびパルスドプラを用い血流を検出する。第何肋間まで描出し得たかが重要なポイントとなる。健常例では90%以上の例で第3肋間まで左内胸動脈が観察可能である。
2.鎖骨上窩からのアプローチ
高周波(7.5〜3.5MHz) セクタプローブを鎖骨上窩の胸骨寄りにおき、カラードプラにて鎖骨下動脈長軸を描出したのち、短軸断面にて検索する。鎖骨下動脈上端方向から腹側ついで足側へ向かう動脈を検索する(図4)。パルスドプラにて血流速度波形を検出すると収縮期優位を示す。縦走法に比べ描出は困難である。また、冠動脈へのバイパス術成功後は、収縮期波と拡張期波の2峰性血流速度波形が観察され、バイパス部に近づくほど、拡張期優位の血流波形を呈する。
☆右内胸動脈( right internal thoracic artery: RITA:ライタ)の描出方法
右内胸動脈は、胸骨の走行に対し左右対称にある。
上記は1998年1月25日都臨技主催心エコー実技講習会の資料として作成したものです。
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