人工弁(Prosthetic valve)
(株)センチュリーメディカル 藤巻 修身
☆人工弁開発の歴史
人工弁は機能的に荒廃した心臓弁膜に対し、その機能を代用する目的で一般的に臨床使用されていますが、その基礎的研究は1950年前後から始まり、製品として市場に供給されるようになったものは1961年のStarr-Edwards Ball弁よりであり、既に40年近く使用されています。以来、人工物としての問題点(注1)を改良すべく改良が繰り返され、40種以上が市場に供給されましたが、その多くは販売開始後5年以内に何らかの問題が発生し消え去っています。現在国内で使用可能なものは以下のように大別(注2)されます。
(注1) 人工物としての問題点(備えるべき条件)
氈D長い耐久性
.良好な血行動態
。.良好な血液適合性(抗血栓性、抗溶血性)
「.良好な組織適合性
」.植え込み時の操作性の良さ
(注2):使用可能な人工弁
人工弁
☆現在国内で市販されている人工弁
氈Dボール弁:スター・エドワーズ弁
.チルティングディスク弁:メドトロニック・ホール弁、ソーリン・モノストラット弁、オムニカーボン弁
。.二葉弁:SJM弁、エドワーズ・テクナ弁、カーボメディクス弁、ソーリン・バイカーボン弁、ATS弁、ジャイロス弁
「.ブタ大動脈弁:カーペンター・エドワーズ・スープラアニュラ弁、ハンコック弁
」.牛心膜弁:カーペンター・エドワーズ弁
☆人工弁の種類と特徴
氈Dボール弁 :人工弁開発の初期段階より使用されているタイプであり、現在でもごく限られた施設で使用されています。ケージ(かご)の中をボールが上下する構造のため、中心流が得られず、血栓塞栓症の発生率もほかのタイプと比較し高値になっていること報告されています。
.チルティングディスク弁 :一枚の円盤状のディスク(フタ)が斜めに開閉する構造であり、1970年代まで中心的に使用されてきたタイプです。血栓塞栓症の発生率は比較的良好(非発生率:1.7%/患者年程度の報告が多い)とされていますが、解放時の弁口中心部にディスクが位置するため、中心流確保という部分においては二葉弁に今一歩の様です。
。.二葉弁:半円状の二枚のディスクが開閉する構造であり、中心流及び有効弁口面積の確保がされやすく、またディスク開閉に要するスペースが少なくすむため、植え込みも容易であるといわれています。血栓塞栓症の発生率は良好(非発生率:1.0%/患者年程度の報告が多い)とされており、各メーカー毎にディスクのヒンジ部分のウオッシュアウトに関し工夫をこらしています。
「.ブタ大動脈弁(ステント弁) :グルタールアルデヒド処理を施されたブタ大動脈をステント(弁葉組織を固定するための金属の骨組み)に固定している構造です。十分な中心流が確保されること及び、生体由来の素材により、抗凝固療法が条件によっては不要とされるなどメリットを持ちますが、弁葉組織の構造劣化及び石灰化の発生など耐久性には問題を残します。(8年間での構造劣化非発生率:80%とする報告が多い)
」.ブタ大動脈弁(ステントレス弁) :ステント弁と同様なブタ大動脈組織を用いますが、ステントにて固定していないことが特徴となっています。ステントを持たないためより広い弁口面積を確保でき、適度に柔らかさを残しているため、弁葉にかかるストレスが軽減され耐久性が向上するとされていますが、国内においては承認待ちであり、今後の成績に関し注目されています。
、.ウシ心膜弁:ブタ大動脈弁(ステント弁)とほぼ同様ですが、弁葉に牛心膜を用いています。
・.allograft :ヒトの屍体より無菌的に取り出され、冷凍保存されたものであり、組織が移植後も生き続けるといわれており、これが長期成績及び優れた感染抵抗性につながっていると考えられています。欧米では市販もあるようですが、国内では一般的ではありません。
ヲ.autograft :患者自身の肺動脈弁を大動脈に移植し、肺動脈にはallograftを移植するあるいは肺動脈は無しとする(Ross Procedure)なども用いられ優れた成績が報告されています。
☆エコーによる評価
人工弁植え込み後においては、エコー検査は弁周囲逆流及び生体弁の経年変化による機能不全の評価に有用であるとされていますが、機械弁及びステント付き生体弁ではアーチファクトにより、逆流の評価及び弁尖の状態評価が十分に出来ないことも多いようです。
・二葉弁(ATS弁)の通常の逆流:二葉弁ではヒンジ部の隙間より少量の逆流が通常でも観察されます。
・生体弁(カーペンター・エドワーズ弁)の弁尖障害による逆流:弁輪の内側より起始する異常逆流
上記は1998年1月25日都臨技主催心エコー実技講習会の資料として作成したものです。
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