Infective Endocarditis 感染性心内膜炎の診断
東京女子医大学心研 内科 谷本 京美

☆感染性心内膜炎の診断
 
# 心エコーの役割
  感染性心内膜炎の診断における役割
  診断基準上、必須検査

  1. 心内膜病変の種類;感染部位と拡がり、vegetationの検出
  2. 基礎疾患の診断;先天性心疾患、弁膜症、変性弁疾患
  3. 重篤な合併症(特に塞栓症の予知)の診断
     塞栓症のrisk(vegetationの大きさ、付着部位、形状など)
     難治性心不全、難治性感染巣
  4. 感染病変による新たな血行動態の異常
# vegetation の検出
   異常血流jetのあたる場所(ARではjetの方向により心室中隔または僧帽弁前尖左室側、
   MRでは左房壁、心室中隔欠損症では右室流出路や肺動脈弁、三尖弁弁下部など)
   生体弁置換術後例では弁や弁輪部、機械弁置換術後例では弁輪部付近。

# vegetationの性状
   塊状または紐状で可動性がありしばしば高周波で振動(Mモードエコー法でShaggy
   pattern)。大きさは2mm〜数cm。比較的新しいvegetationであればエコー輝度は低く
   柔らかい。healedではエコー輝度が高いことが多い。
   活動期で、大きく(10mm以上)、有茎性で可動性のもの(二つのchamberを行き来
   するもの)は塞栓症を惹き起こす可能性が高いとされる。

# vegetationなのか構造物なのか?
   弁尖肥厚、石灰化、人工弁弁座付近の縫合糸、人工弁上のパンヌス増生、心内膜に
   付着した血栓等はvegetationと鑑別が困難な場合がある。このような症例では
     1) 前回との比較
     2) 経食道心エコー図法を行う。
     3) 頻回に検査を行い臨床症状と対比する。
      (治療によりエコー輝度や大きさが変化すればvegetationの可能性が高い。)

# vegetation以外にみられる所見
   弁瘤:大動脈弁や僧帽弁発生し比較的稀な所見。炎症によって組織の脆弱な部分が
      次第に膨隆することにより形成される。本来の弁尖の形から大動脈弁は拡張
      期に左室側、僧帽弁は収縮期に左房側に膨隆する袋状エコーが観察される。

   弁穿孔:弁瘤がさらに進行して形成されるといわれ、血行動態的に重篤な弁逆流
      をきたす原因となる。断層像では弁腹部のエコー欠損像、Mモード法では
      収縮期拡張期にみられる穿孔周囲の異常振動、ドプラー法での穿孔部を通
      過する異常血流の証明が診断に有用。

   腱索断裂:感染によりvegetation の付着、弁、弁下組織の破壊が起こると心周期に
      伴って過剰に翻転する弁が観察される。腱索断裂はIEによる僧帽弁の合併
      症としてよくみられる。

   細菌性動脈瘤、弁輪部膿瘍:大動脈弁輪からValsalva洞付近に発生することが多
      い。この部位が脂肪組織が多く血流が乏しく、心収縮によるストレスが
      及ぶためと考えられている。カラードプラー法を用いて瘤破裂によるシ
      ャントの有無、人工弁台座周囲の逆流、弁座の過剰運動も併せて観察す
      る必要がある。
   心筋内膿瘍の形成:大動脈弁の感染巣が心室中隔心筋内に炎症が拡がる。

# 経食道心エコーの有用性
  小さなvegetation
  人工弁周囲;artifactのため経胸壁
   からでは観察しにくい。
  左房壁のvegetation
  弁瘤や弁瘤のperforation
  冠動脈とvegetationの位置関係
  冠動脈と大動脈弁輪部膿瘍の位置関係
  paravalvular leakageの診断
  人工弁の機能不全
# エコーの所見から起因菌を推定する

  真菌----------------------------vegetation が大きい
  Enterococcus--------------------vegetation が大きい
  Staph.aureus(特にMRSA)----------組織破壊性が強い
  Strept. anginosa----------------膿瘍形成を来しやすい

# 急性期手術の適応について------------外科へ送るタイミング#

自己弁感染性心内膜炎
 ●絶対適応
   1)弁機能不全によるNYHAlll〜lV度の心不全
   2)抗生物質投与下で持続する菌血症
   3)繰り返す塞栓症
 ●相対適応
   1)心内腔の膿瘍、瘻孔形成
   2)Valsalva洞破裂
   3)抗生物質の効果が不十分
   4)真菌性心内膜炎
   5)Staphlococcus aureusによる左心系のIE
   6)所定期間の抗生物質投与にもかかわらずに起こった再燃例
   7)10日以上持続する発熱がありながら培養が陰性である例

人工弁感染性心内膜炎
 ●絶対適応
   1)弁機能不全による心不全
   2)真菌性心内膜炎
   3)人工弁縫着部の過剰運動
   4)繰り返す塞栓症
   5)心内腔の膿瘍、瘻孔形成
   6)3日以上抗生物質投与しても持続する菌血症
   7)vegetation付着に伴う人工弁機能障害
   8)抗生物質の効果が不十分
 ●相対適応
   1)Streptococcus以外の起因菌例
   2)所定期間の抗生物質投与にもかかわらず再燃した例
   3)10日以上持続する発熱がありながら培養陰性例

上記は2000年6月15日都臨技主催心エコー研修会の配布用資料として作成したものです。

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