☆症例 1-5(左房後方に巨大腫瘤を形成した悪性リンパ腫)1998.06.02
東京都立広尾病院 検査科 橋本 健一(はしもと けんいち)技師
☆はじめに
心臓超音波(心エコ−図)において悪性リンパ腫(B細胞型)は特徴的な低エコ−輝度
を呈することが知られている。今回、心エコ−図上、他の縦隔腫瘍とは異なる特徴的
な画像を呈した悪性リンパ腫の一例を経験したので報告する。
☆症例
73歳 男性 平成9年7月より、食欲低下、悪心、嘔吐を繰り返した。入院4日前よ
り経口摂取ができなくなり倦怠感が出現したため平成9年8月当院内科に紹介入
院となった。
☆病歴および心エコー検査所見
胸骨左縁長軸断層図
左房後方に巨大腫瘤を認め、腫瘤径は6cmであった。
腫瘤は左房後壁を前方に押しやっている。腫瘤の後方に認められるのが下行大動脈です。
腫瘤は比較的均一な低エコ−輝度を呈し、解剖学的
に下行大動脈に接していたため、下行大動脈の解離性動脈瘤との鑑別が問題となった。
その他の所見としては左室壁運動のび慢性低下、軽度の求心性左室肥大、軽度の大動脈
弁閉鎖不全、少量の心膜液貯留を認めた。
心尖部四腔断層図
左房を圧排する腫瘤最大径は5.6センチX5.1センチ。
☆胸部CT検査所見
ダイナミック胸部CT
画面最前部にみえるのが上行大動脈でその後方に位置するのが左房です。
画面中央の円形でロ−デンシテイ−を呈しているのが腫瘤です。その左
後方に見えるのが下行大動脈です。CT上からも左房は腫瘤に圧排されています。
後縦隔下部に最大径7cm大の軟部腫瘤が10cmに渡って認められ腫瘤は下行大動脈
の半周を取り囲んでいる。腫瘤による食道圧迫・狭窄の所見を認め左房は背側から強く圧迫さ
れ高度に扁平化しており、このため、心臓全体も前方に圧排されている。縦隔リンパ節腫大の
所見が認められる。なお解離性大動脈瘤の所見は認めなかった。
☆病理組織所見
内視鏡にて食道粘膜の生検を行ったところ細胞間接合のない異型細胞の浸潤を認め、異型細胞は
円形で重層扁平上皮下に浸潤していた。非ホジキン びまん性 中細胞 B-cell type
の悪性リンパ腫と診断された。
☆考察
本症例は、12誘導心電図にてV1からV3にかけ異常Q波が見られることから陳旧性
心筋梗塞が疑われ、心エコ−図検査が依頼された。心エコ−図では後方より左房を圧排する巨
大腫瘤を認めた。悪性リンパ腫のBモード画像は低エコ−として描出されることが多いとされ
ている。今回、私達の経験したリンパ腫においても比較的均一な低エコ−を示した。下行大動脈
の瘤との鑑別点としては、
1)この腫瘤は低エコ−呈していたが心内腔や大動脈内腔よりはやや高輝度である。
2)傍胸骨左室長軸断面にて巨大腫瘤の中、後方に円形の輪郭をつくった部分に低エコ−部が
みられ、これが下行大動脈であると思われた。
悪性リンパ腫としての診断が確定後、化学療法(CHOP)を開始した。
治療の効果は劇的にみられ、2カ月後の心エコ−図検査において左房を圧排する巨大腫瘤は消失していた。
☆連絡先
東京都立広尾病院 検査科 橋本 健一 電話03−3444−1181 内線 2623
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