☆症例 1-1(いくつかの落とし穴にはまった症例)1998.02.28

左図:胸骨左縁左室長軸像(左:収縮期、右:拡張期)、右図:心尖部左室流出路連続波ドプラ(Vmax=2.62m/sec, Vmean=0.73m/sec)

☆症例 1-1(いくつかの落とし穴にはまった症例)
患者:U.T. 28歳女、160cm、55kg、外来通院患者。
病歴:A院にて6歳時に十円玉大の心室中隔欠損(VSD)をパッチ閉鎖した。術後大動脈弁閉鎖不全(AR)+不完全右脚block(iCRBBB)。最近B院にてX線像でLV拡大、Erb領域にて収縮期雑音4/6度、拡張期雑音2/6度を聴取する。
検査目的:上記雑音の精査

病歴から推測した検査の重要ポイント
・幼少時にVSDに対しパッチ閉鎖術を受けており、その後何ら異常を呈していないことより、手術は成功したと考えられる。そのため、何らかの原因により、パッチ部もしくはその周囲の器質的な変化によりVSDの再形成(心室中隔穿孔:ventricular septal perforation:VSP )が起こり、雑音が生じたのではないかと推測した。
・術後のARは、術中に受けた直接的な傷か、パッチ閉鎖術による左室流出路の変形によるものなのか、また、術前から存在していたかはカルテ上では不明である。
・術後iCRBBBは、開胸心術における刺激伝導系の障害時にしばしば認められる。
・Erb領域は僧帽弁領域の雑音を検出しやすい部位であるが、心エコー検査において僧帽弁を詳細に観察すれば異常の検出は可能であると思われた。
以上の検査ポイントを念頭に検査を行った。

経胸壁心エコー検査での所見(初回)
・心室中隔膜様部付近で弱小なシャント血流(L→R)が観察され、VSPと判定した。
・moderate AR(+)。
・mild AS(+)。

心エコー検査の所見検討会で、「シャント血流が明瞭でない。左室流出路にモザイク状血流がある。」との指摘を受け、後日再検査となった。

経胸壁心エコー検査での所見(再検査)
・VSDなどの欠損孔、シャント血流の明瞭なものは観察されなかった。
・左室流出路にモザイク状血流(+)。
ただちに経食道心エコー検査を実施した。

経食道心エコー検査での所見
・左室流出路に膜状構造物(+)。

落とし穴
・病歴からVSPの存在を過信し、欠損孔を集中的に検索したため、弱小な血流をシャント血流と過大評価した。
・心室中隔を集中的に検索したため、左室流出路のモザイク状血流を見落とした。
・心尖部左室長軸断面で左室流出路〜大動脈弁に速い通過血流が観測されたにもかかわらず、その原因を精査もしくは再観察することなく単に軽度の大動脈弁狭窄と判断した。

アドバイス
・心エコー検査に関する知識は、近年盛んに出版された各種書籍などで容易に得られるようになった。しかし、実際の症例の検査時には、思わぬ落とし穴が待っていることがあり、適切な判断ができない場合には誤診を招くこともある。
・検者以外による心エコー検査記録の読影は重要で、特に下記のような所見の見落としを防止するのに役立つ。(心嚢液貯留、壁在血栓、壁運動異常、右心系異常など)

 
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