病気の解説と治療法の紹介

脊髄空洞症

病因・病態

脊髄空洞症とは脊髄の中に水が溜まり、脊髄が「ちくわ」のような形になってしまう病気です。この病気の多くは、後頭部の奥にある小脳が生まれつき脊髄の方へ下に落ち込んでいる(キアリー奇形といいます)ことが原因で起こります。他には脊髄損傷や、脳脊髄の癒着を起こすような病気でも起こることがわかっています。いずれも、脳と脊髄を循環している脳脊髄液と呼ばれる液体の流れが滞ることにより空洞ができると考えられています。脊髄は脳の命令を全身に伝える神経線維の束ですから、この部分に空洞ができると感覚障害や運動麻痺が現れてきます。発症年齢は30歳代が最も多くなっています。

症状

脊髄空洞症では、まず片手の痛みや温度に対する感覚が鈍くなり、やがて両手の力が入らなくなります。症状の進行はゆっくりですが、治療せずに放置した場合、約半数の人は20年以内に下肢にも麻痺が及び、車椅子が必要になるといわれています。
診断・検査
頚椎をMRI検査することにより、ほぼ診断を確定することができます。 ただし、「脊髄腫瘍」の合併症として発生した脊髄空洞症については、造影剤を用いたMRI検査が必要となります。 図は脊髄空洞症のMRIです。首の部分を横から見たところです。うえが頭で、左が前、右が後ろです。白い矢印で示した黒いところが、脊髄の中に脳脊髄液が溜まっている部分です。その黒い部分の周りが脊髄ですが、その部分の脊髄が膨らんでいるのがお分かりでしょうか?
手術・治療
現在のところ治療法は手術しかありません。手術法は空洞が発生している原因に合わせて選択しますが、手術の目標は空洞を縮小させることです。手術方法としては、主に次の2種類があります。どちらも全身麻酔で手術を行います。多くの場合(95%以上)で、手術は順調に行われ、手術後は1週間程度の入院となります。
空洞短絡術
背中の皮膚を切開して脊髄に達します。そして、顕微鏡で拡大しながら、脊髄空洞内に直接細いチューブ(カテーテル)を挿入し、空洞内にたまった水を他の場所に流すようにする手術です。「空洞-くも膜下腔シャント(SS shunt)」(空洞の水をカテーテルを通じてくも膜下腔に流す)が一般に行われています。空洞から、腹腔部、胸腔部に流す処置を取る場合もあります。
この手術は、比較的簡単で有効です。しかし、人工のチューブを用いるため,チューブがつまったり抜け落ちたりする危険性があります。また、そもそも原因となっている疾患(キアリ奇形など)の治療が行われないという欠点があります。
大後頭孔拡大術
頭蓋から脊柱管に移行する部分を拡げることによって、髄液の流れを良くするものです。これは、本来頭蓋内に収まっているはずの小脳の一部が脊柱管内に下垂している「キアリー奇形」により、脳脊髄液の交通が妨げられ空洞が形成されている場合に有効な手術です。首の付け根の真ん中の部分を5cmほど縦に切開しますが、髪の毛に隠れる範囲のものです。その後に切開を進めて、後頭骨の一部と頚椎の一番上の骨の一部を取り除きます。そして、脳と脊髄を包んでいる膜(硬膜といいます)を広げるような操作をします。
多くの場合、術後1ヶ月ほどで空洞を縮小させることができ、症状も改善します。
手術の合併症
  • 手術そのもので生命を脅かすような合併症がありませんが、全身麻酔、エコノミークラス症候群などと呼ばれている血栓症などが、どのような手術でも起きえます。
  • 機能的には、脊髄などを処置してきますので、脊髄の機能障害(手足のしびれや動きの悪化など)が起きることがあります。
  • 脊髄の周りを循環している脳脊髄液が、切開部位から漏れてしまい、のちにばい菌がつくなどのトラブルを起こすことがあります。
  • 人工の膜やチューブなどを使用することがありますので、異物としてのアレルギーやばい菌がつくようなことが起こりえます。
  • どのような手術でも、手術した部位にあとで出血を起こすことがあります。
予後
適切な手術を行うことにより重篤な合併症も少なく、大部分の例で目標を達成し、症状の増悪は阻止できます。しかし、残念ながら手術が成功して空洞が縮小しても、痛みや感覚障害はよくならない場合もあります。今後は残存する症状を少しでも軽減させるのが課題と考えています。