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第3回日本医療用光カード研究会論文集、23-24、1992年

[シンポジウム2]

カードメディアの効果 沢内村の事例

増田 進
沢内病院長

はじめに

 カードメディアの使用によるなんらかの前進的な効果を考える時,地域に全く新しくカードシステムを作ってそれによる効果を考える場合と,地域に既になんらかの情報パックメディアのシステムがあって,それをカードシステムに切り換えて,それによってどう変わったかをみる場合が考えられる。
 沢内村の場合は後者に当たるが.一般には前者が多いのではないかと思う。したがって,まず地域医療における情報パックメディアの使用効果と問題点を,そして情報パックメディアの中でのカードの優位性あるいは問題点を考えていかねばならないであろう。

沢内村のカード以前のシステム

 沢内村では昭和38年(1963)から全住民の健康管理台帳をつくり村人の健康情報の集積を行ってきた。それらの台帳はリスク,地区,性別ごとに,要治療は赤,要注意は黄,要観察は青,異常なしは白,というように色分けされており,その棚を見れば地域の健康状況がわかるようになっている。
 その健康管理台帳の内容を転記した健康手帳が,それぞれの個人の手元にあり,村人は検診や健康相談,健康教育の際,あるいは病院受診の際(村立病院では村人には診察券は発行せず,健康手帳で受付するようになっている)に使用してきた。だから健康手帳という健康情報パックメディアの利用状況に関しては,沢内村は非常に素晴らしい実績をもっていると思う。健康手帳の内容は,健康教育の頁,歴年の健診結果,血圧グラフ(臨床検査データや症状も記載)歯科の状況などとなっている。事項の記入は病院の健康相談室の看護婦や保健婦達が行っている。  このようなシステムを利用した活動によって,沢内村はガン死亡の減少など大きな効果を上げてきた。

コンピュータおよびICカードの導入

 昭和63年(1988),沢内村の上記のような手書きシステムのコンピュータ化,ICカード化が行われた。村立病院のコンピュータ室にホストコンピュータ(K-300R)を置き,病院の健康相談室と検診室,行政側の健康管理課と住民福祉課にそれぞれワークステーション(K-10R)計5台がある。
 ICカードは8Kバイツで現在4000枚が配布されている。カードのリーダ・ライターとしてハンディタイプのコンピュータ(FMR-30BX)が4台あり,もっぱら保健婦が使用している。
 ICカードの内容は,乳幼児においては母子健康手帳とほぼ同じもの,成人については健診結果と,私達が「伝言板」と称している関係者のためのコミュニケーション・スペースとなっている。
 利用状況は,乳幼児においてはよく利用されている乳幼児健診では,その流れの中でカードへの出入力ができ,データをグラフ化して見せたりする時間的余裕もあるし,予防接種の入力も対象数が少ないこともあって利用はスムースと言える。
 しかし,成人についてはその利用はいいとは言えない。というのは,全てのデータはホストコンピュータに一旦入り,そこからカードに転記されるのだが,人間ドックの場合は一回の人数が少ないのでいいものの,集団健診の結果入力には時間を要し,カードが健康管理課にある時間の方が住民の手元にあるより長くなっているのが現実である。

情報パックメディアの効果

 ここではまず健康手帳について考えてみると…。
 健康教育のテキストとして保健婦が多く活用している。
 一般診療の際,外来,入院,往診でも以前の健診データ・臨床検査データを知ることができる。
 血圧等の経過,症状が得られる。
 家族歴・既往歴についてのデータも知ることができる。(しかし,これは本人の記入欄で,記入状況はあまりよくない。だが,当村のような小村ではお互いに知っている事情もあって支障はない)
 禁忌薬物は表紙に朱書きしてあり,注意をひくようになっている。

 カードの場合の効果については
 プライバシーの強い保護
 集団健診の際の受付のペーパーレス化(しかし,カードそのものによるアクセスでは時間がかかるので,住民番号をハンディ・コンピュータのキーボードから入力している)
 以上が実際の状況であるが,現在も健康手帳とカードが並行して使われている。

健康手帳とカードの比較と将来について

 カードの出人力に必要なキーボードの操作は,保健婦や看護婦もかなり慣れてきたものの,まだ抵抗が感じられる。いわばそれで健康手帳が未だ使われていると言ってもよいであろう。
 手書きが省かれるといってもカードのアクセスには時間がかかり,ハード面での改良が必要と思っている。また,使用頻度の高い住民番号だけでもバーコードにしたいと考えているが,それだけでもカードの利用は大幅に進むと思う。(しかし,これは健康手帳についても言えることだが)
 将来の問題としては,村内での情報パックメディアの利用だけを考えるならば,健康手帳のみで充分である。しかし,村外の医療機関や施設での利用が可能となった時,村内ではあまりメリットのない住民のIDや既往歴,さらにプライバシー保護などの面でカードの効果が発揮されると思う。
 しかし,かかる情報を村外の医療機関などは本当に必要と感じているのだろうか?


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