人工心肺非使用冠動脈バイパス術
岩手医科大学心臓血管外科
教授 岡林 均
  本邦においては人工心肺を使用しない冠動脈バイパス術は単独冠動脈バイパス術 (以下OPCAB)の約60%を占めるまで普及してきた。その背景にはLIMA stitchやスタビライザー、ハートポジショナー等の登場により、安定した回旋枝への血行再建が可能となったことが挙げられる。

【手術手技】

適応:

  OPCABを安全に施行するために重要なことはOPCAB施行中に体外循環に移行することをいかに回避するかということにつきる。まず適応については施設としての技量、手術に関わるチームの技量によって異なってくるので、その施設での適応の決定は慎重に行なう必要がある。絶対的禁忌としては血行動態の不安定、心室性不整脈の頻発である。冠動脈の石灰化や冠動脈径の細さについては必ずしも禁忌とはならず、通常の冠動脈バイパス術と同じと考えてよい。

手技:

 心臓への到達方法:
 両側内胸動脈を使用することが多いので通常胸骨正中切開で到達する。OPCABの場合は動脈グラフトの長さ、太さが吻合の容易さに反映されるので、スケレトナイズ法で採取することが薦められる。その際超音波メスが有用である。採取後は使用するまでの間、採取時の血管攣縮を除去、あるいは予防するため血管拡張剤を浸したガーゼで内胸動脈を包んでおく。
 心膜を切開する際、吻合後の内胸動脈の走行に障害とならないよう心膜に切開を加え、心膜を閉鎖しても内胸動脈の走行に問題が生じないようにすることが重要である。

 LIMA stitch:
 通常心臓後面の心膜に3本の糸をかけテープを間に通しネラトンのターニキットで締めておく。心臓の展開にはこの3ヶ所、6本の糸、テープを牽引することにより回旋枝、心臓下面などを視野に入れることが可能となる(図1)。LIMA stitchの代わりにハートポジショナーを用いても良い。

 吻合操作:
 吻合する冠動脈の部位にスタビライザーを装着し冠動脈の剥離を行なう。冠動脈の血流遮断に際しては種々の方法(ブルドック鉗子での単純遮断、糸やテープによる血流遮断、内シャントの挿入等)があるが、基本的には術者の慣れた方法で良い。著者らはブルドック鉗子での単純遮断下に吻合操作を行なっている。体外循環を使用した冠動脈バイパス術と根本的に異なるのは、心拍動下の手術である以上術者の吻合操作のやり易さを優先するのではなく、許容される血行動態での術野に術者が合わせて吻合操作を行なう点である。すなわち吻合操作に必要な運針方法が通常の冠動脈バイパス術と異なる。運針方法として順針、逆針、絶壁での順針、絶壁での逆針を習得する必要がある(図2,)。
 吻合に用いる糸は体外循環下で施行する冠動脈バイパス術と何ら替える必要はない。

 吻合中の麻酔管理:

 吻血圧のコントロール
 OPCABでは吻合操作以外に麻酔管理が重要である。心臓を展開すると必ず血圧は下がるので、下がっても許容できる範囲内の血圧にコントロールする必要がある。その方法としてはいくつかの方法がある。
  1. 十分に輸液が行なわれているにもかかわらず血圧が低い場合はhead down positionとし、それでも血圧が低い場合はノルアドレナリンを少量点滴する。他のカテコラミンでは不整脈を誘発することがある。
  2. 心拍数が少なく血圧の変動がある場合は心房ペーシングを80/minで施行すると血圧が上昇し安定することが多い。
 体温管理
 体外循環を使用しないので動脈グラフト採取に時間を要すると体温の低下を招き、吻合するときには体温が35℃台前半にまで下がっていることがある。体温が下がると被刺激性が高まり少しの刺激で心室細動となることがある。術中体温の低下防止には注意が必要であり、麻酔をかける前に身体を温めておくことや輸液を暖めるHOT LINE®(図4)等の器具が有用である。

 吻合後のチェック:
 OPCABの利点は吻合直後に流量計で流量をチェックして吻合のQualityをチェックすることが可能であることである。もし吻合後の流量やフローパターンが予期したものと違った場合、すぐに吻合をやり直すことができることがOPCABの最大の利点である。体外循環下心停止下での吻合の場合、大動脈遮断を解除してからのグラフトの評価しかできない。また体外循環下心拍動下での手術であれば吻合直後に評価は可能であるが、吻合のやり直しをすることにより体外循環時間が延長する。

 術後管理:
 体外循環を使用しないことにより、凝固系が温存されることや術後に過凝固状態になることを考慮する必要がある。大動脈を触らないOPCABの術後であっても術後早期に脳梗塞を生じることがある。その施設での周術期の輸液量によっても影響を受ける可能性があるが、われわれはOPCAB後の脳梗塞の予防に早期からヘパリンの投与を施行している。OPCABを施行せざるを得ない症例は種々の問題点を抱えている症例であることが多いので、一つでも合併症を生じるとそれが引き金となって悪循環に陥ることがあるので脳梗塞は絶対避けなければならない合併症である。

【Legend】

図1:LIMA stitch

3本のLIMA stitchをかけテープを通しネラトンのターニキットで締めておく

図2:運針の仕方

絶壁での順針の持ち方

図3:運針の仕方

絶壁での逆針の持ち方

図4:HOTLINE®

体温低下防止のため輸液を温めるのに有用である

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