心房中隔欠損症
東京大学医学部附属病院
竹内 功

小さ目の皮膚切開で胸骨正中切開

  心房中隔欠損症(ASD)根治術は通常胸骨正中切開下に行うが、皮膚切開は美容上の観点から胸骨柄の高さより2-3cm下方を開始点とする。胸骨は通常完全に切開して行われるが、皮下組織を十分剥離することで皮膚切開は縮小可能である。

体外循環は軽度低体温

  通常体外循環は上下大静脈脱血、上行大動脈送血で32-34℃の温度下に行われる。大動脈遮断・心筋保護液注入による心停止下に行われるが、大動脈遮断・心筋保護液注入を行わず電気的心室細動下に行う場合もある。

MICSでは心膜の吊り上げが手術のポイント

  皮膚切開は両側の乳頭を結ぶ線より下方に4-5cm切開する。剣状突起を縦に二分割し胸骨下端は必要に応じて分割するが、皮切の高さを超えて分割する必要はない。胸骨を前上方に牽引固定した後胸骨下の組織を十分剥離し、さらに胸腺組織を心膜から剥離することで心膜自体の可動性を良くしておく。心膜切開は中央よりやや右側で行い横隔膜面で左方に切開(L字型)し、心膜の吊り上げを行った際に右心房がやや前方にくるようにする。大動脈翻転部付近まで切開した心膜を胸骨下骨膜へ吊り上げ固定することで、大動脈を前下方へ引き出す。この際胸腺の剥離が不十分であると大動脈を十分に引き出すことはできない。また、下大静脈(IVC)付近の心膜を前方へ吊り上げることによってIVCのカニュレーションが容易となる。大動脈へのカニュレーションはセルジンガー法が容易であるが、フレキシブルなストレートカニュラを使用する。SVCのテーピングが困難な場合、短時間であればカフ付の気管チューブを右心耳からSVCに挿入しカフを膨らませることでのテーピングが省略できる (図1)。

右開胸アプローチは通常と視野が異なる事に注意

  美容を考慮し右側方開胸が行われることがある。皮切は肩甲骨下端1cmから乳頭と肋骨弓の中間点に向かって加える。第4肋間開胸の後、心膜を右横隔神経の1-2cm前方で切開を加え横隔神経と平行に切開を延長する。心膜を吊り上げ全体に右外側へ引き上げるようにし視野を確保する。

2次孔欠損はパッチ閉鎖も考慮に入れ無理のない確実な縫合を

  心房切開線は房室間溝に平行に1.5cm程度の間隔をあけて心耳付近からIVC方向に向って切開を置く。SVC・IVC流入部・冠静脈洞を必ず確認した上で欠損孔の位置・性状を確認する。中には心房中隔が簀状(fenestration)に穴のあいている物があり、その周辺の心房中隔の性状から直接縫合が可能かパッチ閉鎖が良いかの判断をする。欠損孔が比較的小さいもの、スリット状のもの、幅の狭い卵円形のものは直接縫合が可能である。欠損孔が大きい場合にはパッチ閉鎖を行うが、自己心膜、ePTFE シートが広く用いられている。

心内の空気除去と遺残短絡の回避

  閉鎖はモノフィラメント糸による連続縫合で行うが、通常は下端から縫合を始め縫合終了直前に麻酔医に肺を加圧してもらい左心系の空気を除去する。縫合が終了後再度肺を加圧して遺残短絡がないことを再確認する。

静脈洞欠損では脱血管の位置を高く

  体外循環条件は2次孔欠損の場合と同様であるが、SVCの脱血管を通常より高い位置に置くようにし、場合によっては無名静脈に脱血管を挿入する。この場合心房切開は右心耳からsinoatrial junctionの前方に向っておくと良好な視野が得られる。肺静脈血流がASDを通して左心房に流れ込むようにパッチを充てるが、ASDの大きさが不充分な場合にはASDの前下方に切開を加え肺静脈からの血液がスムースに流れるようにする。パッチによりSVC血の右心房への流入が妨げられるような場合にはcavo-atrial junctionを跨ぐ形で右房壁にパッチを充てるか、SVCを離断し中枢側を縫合閉鎖しSVCの右房への流入口とASDをふさぐようにパッチ閉鎖し、末梢側を心耳に縫合する術式が可能である(Williams法2))。

冠静脈洞欠損では冠静脈血の左房への流入を確認

  左上大静脈遺残(PLSVC)があって無名静脈が欠損している場合もう一つの脱血管を入れる必要がある。房室間溝に沿った心房切開で欠損口を確認でき、単純にパッチ閉鎖が可能である。この際unroofed coronary sinus もしくはlarge coronary sinus fenestrationを確認し、冠静脈洞欠損口を閉鎖した場合冠静脈洞血が左房に問題なく流入可能であることを確認する必要がある。特にfenestrationが冠静脈洞口に近い場合には注意を要する。また欠損孔の上前部ではAV nodeが近くにあることを認識しこの損傷を避ける。

Unroofed Coronary SinusではAV nodeに注意

  PLSVCとunroofed coronary sinusを合併している場合心房中隔壁をできるだけ切除(この際AV nodeを損傷しないように十分注意する)した後、上下左右の肺静脈血が僧帽弁へ流入するように左房後壁へパッチを縫着する。

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