エブスタイン奇形
徳島大学大学院 心臓血管外科学分野
北川 哲也
  この20数年間にEbstein奇形に対する外科治療はその病態解明と新たな治療法の開発により大きく進歩した.どのように三尖弁閉鎖不全(TR)を修復するか,心房化心室を処理するかが本疾患の外科治療の要点であるが,その三尖弁と右室形態はバリエーションに富み,弁膜症と心筋疾患の複合疾患としてとらえ,個々の形態と病態に応じた,適切な治療戦略を考慮すべきである。

【外科解剖】

  典型的なEbstein奇形では,1)中隔尖,後尖が様々な程度にdownward displace (plaster)し,一方,2)正常の三尖弁輪にある大きい前尖は腱索間隙interchordal spacesの消失と心室壁への癒着によりsail-like aspect (tethering)を呈し,3)TRを生じて心房化心室,三尖弁輪と右房は拡大し,4)心房化心室壁は菲薄化し,5)乳頭筋等の弁下構造の形態・位置異常によって機能的右室が狭小化する。
  とくに三尖弁形態と機能的右室の容積,収縮力,流出路狭窄等の程度により,個々に問題となる病態生理が異なり,それらの点からみたCarpentier分類1図1)は,具体的な外科治療法をイメージする上で極めて有用である。

【手術適応】

  高度のチアノーゼ,心不全ならびに不整脈がみられるときに手術適応となる。心不全は2つの要因から起こりうる。1つは,重症TRによる右心不全で,もう1つは機能的右室の狭小化または閉塞による低心拍出量である。息切れ,発作性上室性頻拍がみられるようになればできるだけ早く外科治療を施行すべきである。具体的には,1)幼児期から成人期に症候性となる場合に,biventricular repairまたはone and a half ventricular repairを,2)胎児期から新生児期に低心拍出量と呼吸障害が現れる場合は,univentricular repair のための第一期手術かbiventricular repairを考慮する。
  とくに三尖弁の人工弁置換術では,遠隔期の弁機能不全や肺血栓塞栓症,小児に適用し難い等の問題があり,如何にして三尖弁機能を再建するか,弁形成に焦点をあてた外科解剖と手術について習熟する必要がある。

【手術手技】

1) 幼児期から成人期のEbstein奇形に対する外科治療

  biventricular repairとして,1988に発表されたCarpentier手術1が基本となる。まず,a)大きな前尖から後尖まで弁輪から2mmほど離れて切離し,右室壁から受動した後,b) 菲薄化した心房化心室をつぶすように,その心尖部側から拡大した三尖弁輪,それにつながる右房の順に菱形にlongitudinal plicationして右室形態を再構築し,c) a)で受動した前後尖を解剖学的三尖弁輪に時計回りに逢着し,三尖弁機能を再建する(図2)。
  2007年に発表されたDa Silvaのcone reconstruction2は,Carpentier手術を進化させ,三尖弁機能をよりよく再建しようとする術式である(図3)。tetheringやdisplaceした三尖弁尖を刺激伝導系が走行する10-12時の部分を除いて,右室心尖部につながる扇の要の前乳頭筋,腱索と各弁尖の最も心尖部側の付着のみを残しながら,その原因となっている腱索と筋肉を切離し,受動する。弁尖の心尖部側1/3では,右室拡張末期に十分な右室充満を得られるように適切にスリットを入れて開窓するが,近位側2/3では孔等があればTRの原因とならないように閉鎖する。次に,これらの弁尖を適切に縦に逢着して,ほぼ全周に弁高のある右室心尖部を頂点とする円錐型の三尖弁を形成する。そして,心房化心室をlongitudinal plicationした後,先の円錐化三尖弁を解剖学的三尖弁輪に逢着する。ASDはその下縁を上縁の頂点のみに固定し,術後の右心不全が強い時にはvalved fashionによるRL短絡が機能するように残しておく。
  これらの三尖弁修復は安全かつ有効か,現時点での問題点について述べる。

  1. 三尖弁修復は弁置換に勝るか?
    Quaegebeur3等のCarpentier手術シリーズでは,小児期の自己弁温存は,残存するTRにもかかわらず,遠隔期に良好な運動耐用能を示したが,成人例で同程度のTRが残存すると,運動耐用能が低下し,しばしば三尖弁置換術を要した。しかし,本症の三尖弁人工弁置換術では,大きなサイズの人工弁を移植できるためか,生体弁の耐久性は他疾患,他弁位のものより良好である。
  2. 三尖弁機能はdisplaced annulusから解剖学的正常弁輪に再建すべきである。Carpentier1, Da Silva2, Hetzer4等の術式はそのコンセプトでは共通している。
  3. Carpentier手術は大きな前尖によるmonocuspid systemにより,cone reconstructionはtricuspid systemにより三尖弁機能を再建するが,遠隔期の弁機能維持の点で前者が後者に劣るというエビデンスは未だ見られない1, 2
  4. 正常形態の右室を再構築するには,心房化心室の縫縮は必要か?必要なら,どのように縫縮すべきか?
     右室形態をよりよく再構築するには,通常longitudinal plicationが適切であろう1, 2。しかし,Hetzer等は,心房化心室を縫縮せずに,最も可動性のある弁尖により,正常三尖弁輪に弁機能を再建すれば,心房化心室をつぶす必要はないとする4。十分な右室充満を確保し,心房化心室に肺循環の一部をになわせると,菲薄化した心房化心室の残存心筋が肥大し,遠隔期に右室収縮力を改善できると期待しているが,今後の検証が待たれる4
  5. 本症に伴う上室性頻拍に関して,心内修復と共におこなうアブレーション等の不整脈処置は早期死亡率を増大させず,心内修復の付加的処置として積極的に行うべきである3
  6. Hanley等は,幼児期の重症Ebstein奇形に対して,三尖弁形成を伴う心内修復と共に両方向性グレン短絡により右室の容量負荷を軽減するone and a half ventricular repairにより,良好な運動耐用能と右心機能の改善が得られると提唱した5。考慮すべき戦略である。

2)新生児期の重症Ebstein奇形に対する外科治療

  新生児期に重症TRと機能的肺動脈弁閉鎖から,低心拍出量,低肺血流量,更に拡大した右心系が肺を圧迫して呼吸不全ならびに低酸素血症を認める。1991年に発表されたStarnes手術6と2002年に佐野が開発したright ventricular exclusion手術7は同じコンセプトを有し,三尖弁閉鎖を作成し,心肺機能に害悪な右室を隔離あるいは切除することにより,段階的に将来のフォンタン循環または心移植を目指す(図4)。これらの姑息手術により,機能的単心室の容量負荷を軽減し,有効な心拍出量と生存可能な肺血流を得,結果として著明な心拡大を軽減する.Starnes手術とright ventricular exclusion手術の違いは,後者が右室自由壁の大部分を切除する故に,術直後から心室中隔の正常運動を得,拡大した右室による肺の圧排を排除できる点である。
  もちろん,成人例と同様に,三尖弁修復術が適用できる場合もある。Knott-Craig8等は,症候性の新生児例においても,大きな前尖を有する場合には,自己弁温存によるbiventricular repairが可能で,良好な遠隔予後を期待できるとしている。
  以上,近年のEbstein奇形の外科治療のコンセプトと手術法を述べた。重要なことは,Ebstein奇形を,弁膜症と心筋疾患の2つの観点から捉え,個々の解剖や病態生理に応じた治療戦略をたてることである。

【関連文献】

  1. Carpentier A, Chauvaud S, Mace L, Relland J, Mihaileanu S, Marino JP, Abry B, Guibourt P. A new reconstructive operation for Ebstein’s anomaly of the tricuspid valve. J Thorac Cardiovasc Surg 1988; 96: 92-101.
  2. da Silva JP, Baumgratz JF, da Fonseca L, Franchi SM, Lopes LM, Tavares GM, Soares AM, Moreira LF, Barbero-Marcial M. The cone reconstruction of the tricuspid valve in Ebstein’s anomaly. The operation: early and midterm results. J Thorac Cardiovasc Surg 2007; 133: 215-23.
  3. Chen JM, Mosca RS, Altmann K, Printz BF, Targoff K, Mazzeo PA, Quaegebeur JM. Early and medium-term results for repair of Ebstein’s anomaly. J Thorac Cardiovasc Surg 2004; 127: 990-9.
  4. Hetzer R, Nagdyman N, Ewert P, Weng YG, Alexi-Meskhisvili V, Berger F, Pasic M, Lange PE. A modified repair technique for tricuspid incompetence in Ebstein’s anomaly. J Thorac Cardiovasc Surg 1998; 115: 857-68.
  5. Malhotra SP, Petrossian E, Reddy VM, Qiu M, Maeda K, Suleman S, MacDonald M, Reinhartz O, Hanley FL. Selective right ventricular unloading and novel technical concepts in Ebstein's anomaly. Ann Thorac Surg 2009; 88: 1975-81.
  6. Starnes VA, Pitlick PT, Bernstein D, Griffin ML, Choy M, Shumway NE. Ebstein’s anomaly appearing in the neonate: A new surgical approach. J Thorac Cardiovasc Surg 1991; 101: 1082-7.
  7. Sano S, Ishino K, Kawada M, Kasahara S, Kohmoto T, Takeuchi M, Ohtsuki S. Total right ventricular exclusion procedure: An operation for isolated congestive right ventricular failure. J Thorac Cardiovasc Surg 2002; 123: 640-7.
  8. Knott-Craig CJ, Overholt ED, Ward KE, Ringewald JM, Baker SS, Razook JD. Neonatal repair of Ebstein’s anomaly in the symptomatic neonate: An evolution of technique with 7-year follow-up. Ann Thorac Surg 2002; 73: 1786-93.


【図の説明】

図1)Carpentier分類:Ebstein奇形の4タイプ1
図は論文1と「心臓外科Knack and pitfalls小児心臓外科の要点と盲点」高本真一監修,角 秀秋編集から引用
図2)Carpentier手術1
図は論文1から引用
図3)The cone reconstruction 2とone and a half ventricular repair5
図は,前者は論文2から,後者は「心臓外科Knack and pitfalls小児心臓外科の要点と盲点」高本真一監修,角 秀秋編集から引用
図4)Starnes手術6とSano’s right ventricular exclusion手術7
図は,前者は論文6から,後者は「心臓外科Knack and pitfalls小児心臓外科の要点と盲点」高本真一監修,角 秀秋編集から引用

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