小児の心外膜リードによる心絞扼に関する注意喚起
日本胸部外科学会 倫理安全管理委員会
日本心臓血管外科学会 医療安全管理委員会
日本不整脈学会 植込み型デバイス委員会
1. 概略
小児のペースメーカー植込みに際しては、心外膜リードの使用が一般的である。患児の成長を考慮に入れてリードの撓みを心嚢内に設けて留置した場合、成長に伴ってリードによる冠動脈、右室流出路、肺動脈幹、心筋の絞扼につながる可能性があり、心臓の絞扼によって、胸の痛み、疲労感、失神等の臨床症状や心筋梗塞や心不全等の合併症の発生が報告されている。早期に発見されれば、リード留置部位の変更などの対応が可能であるが、対応が遅れれば重篤な合併症発生や死亡につながる可能性があるため、心外膜リードの植込み時にはリードの留置位置やたわみに留意することが重要である
2. 国内外での事例の報告
現在、国内では数社が心外膜リードを取り扱っている。PMDAから提供された情報、及び、文献検索により、少なくとも国内で2例、海外で7例、計9症例の報告がある。
1) No.
2) 概要
3) 発生年
4)発生場所
5) 転帰
6) 製品名
7) 論文名
1)No.1
2)ファロー四徴症根治術後に心外膜リードを植込んだ9才男児。術後6年を経過した遠隔期に両心不全を併発した。リードが肺動脈幹と左冠動脈の絞扼しており、リード抜去と肺動脈幹のパッチ形成を施行し、術後29日に退院となった。
3)1992
4)日本
5)生存
6)不明
7)Fallot四徴症根治術後遠隔期に急速な両心不全の進行をきたした1症例、胸部外科 1992;45:456-8
1)No.2
2)新生児期に心外膜リードを植込んだ乳児が10か月後に心不全を併発。リードが心絞扼しているのが確認された。リード除去後新たなリードの植込みを施行したが、術後6日に死亡となった。
3)2000
4)日本
5)死亡
6)Medtronic model 4965
7)Cardiac Strangulation in a Neonatal Case: A Rare Complication of Permanent Epicardial Pacemaker Leads. Thoracic and Cardiovascular Surgeon 2000;48:103-5
1)No.3
2)新生児期に心外膜リードを植込んだ乳児が20か月後に心不全を併発。リードが右冠動脈と肺動脈幹を絞扼しているのが確認された。リード除去後新たなリードの植込み施行し、術後2週間で退院となった。
3)1988
4)USA
5)生存
6)不明
7)Cardiac strangulation: two-dimensional echo recognition of a rare complication of epicardial pacemaker therapy. Am J Cardiol 1988;61:654-6
1)No.4
2)8か月で心外膜リードを植込んだ6歳男児が胸痛を訴え死亡。解剖の結果、リードが心尖部を絞扼していることが確認された。
3)1997
4)ベルギー
5)死亡
6)Medtronic 5815A
7)Cardiac strangulation, a rare complication of epicardial pacemaker leads during growth. Heart 1997;77:288-9
1)No.5
2)新生児期に心外膜リードを植込んだ9歳男児。労作時胸痛あり。精査の結果、左冠動脈をリードが圧迫していると診断される。リード除去後新たなリードの植込み施行し、左冠動脈狭窄は消失している。
3)2007
4)USA
5)生存
6)不明
7)Coronary Compression by an Epicardial Pacing Lead Within the Pericardium. J Cardiovasc Electrophysiol 2007;18:786
1)No.6
2)3か月で心外膜リードを植込んだ2歳女児が心不全を発症。精査の結果、リードが左冠動脈を絞扼していることが確認された。両心室ペーシング治療を行うため、リード抜去し、新リードの植込みを施行した。
3)2008
4)ドイツ
5)生存
6)不明
7)Cardiac Strangulation: a rare, but devastating complication of epicardial pacing causing progressive myocardial ischaemia. Eur Heart J 2009;30:435
1)No.7
2)新生児期に心外膜リードを植込んだ12歳女児。特に症状はなかったが、定期検診時に左冠動脈をリードが圧迫していると診断される。リード除去後新たなリードの植込み施行し、左冠動脈狭窄は消失している。
3)2011
4)USA
5)生存
6)不明
7)Dynamic Coronary Artery Compression by Pacekmaker Lead. Circulation 2011;124:1792-4
1)No.8
2)3歳女児で心臓の絞扼が確認された。リード除去後新たなリードの植込みを施行した。
3)2011
4)カナダ
5)生存
6)Medtronic model 4965
7)Cardiac strangulation from epicardial pacemaker: early recognition and prevention. Cardiology in the Young 2011;21:471-3
1)No.9
2)心外膜リードが心臓を絞扼し、心筋虚血により死亡したと報告された。
3)2012
4)カナダ
5)死亡
6)Medtronic model 4968
7)企業による自発報告のためなし。
3. 推測される心絞扼の機序
小児では心筋表面に脂肪が少なく、冠動脈が露出しており、心外膜リードが心外膜に癒着すると冠動脈狭窄を生じやすいと推測される。また、小児では胸骨と心表面の間のスペースが少なく、リードの撓みを心表面に設けた際には、撓んだリードによる圧迫症状が生じやすいと考えられる。
4. 適切な予防策
小児の心外膜リード植込みに際し、冠動脈の走行に注意すること。また成長を考慮して、リードを撓ませる際には、可能であれば心表面を避けて留置することが望ましいと考えられる。
5. 参考文献
1) Fallot四徴症根治術後遠隔期に急速な両心不全の進行をきたした1症例、胸部外科 1992;45:456-8
2) Cardiac Strangulation in a Neonatal Case: A Rare Complication of Permanent Epicardial Pacemaker Leads. Thoracic and Cardiovascular Surgeon 2000;48:103-5
3) Brenner J I, Gaines S, Cordier J. Cardiac strangulation: two-dimensional echo recognition of a rare complication of epicardial pacemaker therapy. Am J Cardiol 1988;61:654-6
4) Cardiac strangulation, a rare complication of epicardial pacemaker leads during growth. Heart 1997;77:288-9
5) Coronary Compression by an Epicardial Pacing Lead Within the Pericardium. J Cardiovasc Electrophysiol 2007;18:786
6) Cardiac Strangulation: a rare, but devastating complication of epicardial pacing causing progressive myocardial ischaemia. Eur Heart J 2009;30:435
7) Dynamic Coronary Artery Compression by Pacekmaker Lead. Circulation 2011;124:1792-4
8) Cardiac strangulation from epicardial pacemaker: early recognition and prevention. Cardiology in the Young 2011;21:471-3