第55回日本アレルギー学会秋季学術大会 主題:21世紀のアレルギー学の発展と展望
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アレルギー学の発展と展望

1.アレルギー学の発展と自然免疫
 アレルギー学は、免疫学の発展に伴って発展した学問です。我が国のアレルギー研究の先駆者である石坂公成先生の第54回学術大会での御講演によりますと、アレルギーの研究はRicher とPortierのアナフィラキシーの発見(1902年)に始まります。この2人のフランスの学者はモナコ国王の招待に応えて観光地であるモナコ海岸のクラゲ毒対策のために海洋調査を行い、帰国して後、入手可能なイソギンチャクの毒素の研究をおこないました。少量の毒素を注射しても無症状であった犬に数週後再度同量の毒素を注射したところ、激烈な下痢や吐血、呼吸困難を生じ、この犬は死亡してしまいました。1796年のイギリスのJennerの種痘に始まる「疫病をのがれる」はずの免疫が、アナフィラキシーとして「宿主を殺す」こともあるとの発見は、当時驚きとして迎えられました。von Pirquet (1906) は、感染防御に必須である免疫に対し、生体にとって不利益な過敏症を統合する概念としてアレルギーという言葉を提唱しましたが、1950年代になっても、なぜ免疫応答の結果が時には免疫として働き、時には過敏症(アレルギー)としてのアナフィラキシーとして働くかは長い間議論の的でした。何か悪さをする物質が介在すると考えこれをレアギンと呼びましたが、この物質の正体は不明でした。
 この論争に終止符を打ったのが、石坂公成先生のIgEの発見です。当時、抗体活性を持つタンパク質は一種類ではなく他種類あり、その抗体の種類により結合する受容体も異なり、それを有する炎症細胞も異なることが次第に明らかにされつつありましたが、このうちIgAに属すると考えられていた“レアギン”が、石坂先生の手により独立した分画として精製され、IgEと名付けられました。この受容体は主に肥満細胞と好塩基球にあり、これと抗原との結合によりヒスタミンが大量に放出されることが、アナフィラキシーの本体であることなどが次々と明らかにされました。これが、石坂公成先生が「アレルギー研究の父」と呼ばれるゆえんです。しかし、異なる抗原刺激によりなぜ異なる抗体が生じるのかは、長い間不明でした。
 これに答えを出したのが、Toll-like receptor(TLRs)の発見です。1996年のLemaitreらによりるショウジョウバエの発生分化にかかわるToll受容体が真菌感染の抵抗性にもかかわる事が発見されて、それ以降1997 年のMedzhitovらによるヒトにおけるTollホモログ(現TLR4)のクローニングに続いてそのファミリー分子が現在までに10種(TLR1〜9、RP105)報告されています。これらは主としてマクロファージ・樹状細胞の表面にあり、自然免疫(innate immune)として最初の防御機構の関門を形成します。病原体が進入するとその種類によって異なるTLRが刺激を受け、異なる炎症性サイトカインやケモカインの産生を誘導し、感染拡大の抑制に働くとともに、獲得免疫応答としての抗体の産生にも影響を与えます。これにより、従来経験的に提唱されていたhygene hypothesisの機序が分子レベルで説明可能になりました。例えば、マクロファージ表面のToll-like receptor 9はグラム陰性菌の膜表面のリポ多糖体や細菌DNAのCpG配列などと結合し、細菌を細胞内に取り込んで処理し、その抗体を産生するようリンパ球に働きかけます。この時IL-10を産生して、Th2への変異を抑制し、Th1への変異を促進し、IgG やIgA, IgMの産生を増強します。よって感作時にCpG-DNAを与えておくと、Th2への刺激が止まりIgEの産生が抑制されます。このためアレルギー反応の主体を占めるTh2系統のサイトカイン産生を抑制し、アレルギー体質の獲得を阻止します。現在このCpG-DNAはアレルギー治療薬として既に臨床検討の段階に入っており、今やアレルギーの制御は、マクロファージ表面の受容体の制御としても注目を集めるようになってきています。この意味でも、アレルギー疾患の研究は新たな領域に踏み込んだといえると思われます。

2.ポストゲノム時代の免疫・アレルギー学の発展
 最近の免疫・アレルギー学の発展はTLRsファミリーの発見にみられるように、遺伝子解析の成果によるところが少なくありません。特にポストゲノム以降、先行する関節リウマチの領域では、不特定多数からなる疾患群と非疾患群との遺伝子塩基配列の差異から疾患に特異的な遺伝子多型(SNPs)を検出し、その機能を解析する手法により極めて興味ある成果をあげています。東京大学の山田亮らは日本人の関節リウマチ患者の41の候補遺伝子のうち142の遺伝子多型をもとに解析を行い、アルギニンをシトルリンに変換するPeptidylarginine deiminase (PADI) type 4を形成する遺伝子変化がRA患者に存在し、このためRAに特異的な自己抗体であるpeptidyl citrullineとして免疫寛容機構を破壊し、RAの発展に貢献すると報告しています。これにより、新たな見地からRAの疾患の成立が説明され、RAの診断基準も変貌を遂げるものと推定され、世界的にも注目を集めています。

3.アレルギー疾患における呼吸機能検査の重要性と新たな治療法の開発
 気管支喘息においては、リモデリングに由来する末梢気道病変が喘息の重症化・難治化をもたらし、また突然死の要因となるなど、その重要性が次第に明らかにされてきました。しかしながら、昔から末梢気道は「silent zone」と呼ばれ、通常の呼吸機能検査では検出が不可能とされていた領域です。
 私共は最近、東北大学、京都大学、広島大学の呼吸器科と協力するなかで、高頻度測定を可能にしたパルスオキシメーターを用いて、末梢気道病変の検出法を新たに考案しました。これは、安静換気における短時間の息こらえ中の酸素飽和度の低下により、その異常を検出するものです。非侵襲的かつ測定が簡便で、機器も安価なことから、一般医も外来で血圧計と同様に使用することが出来るものと考えています。基本原理としては、末梢気道病変が存在すると肺内に換気不均等が惹起され、換気の悪い肺胞内では潜在的に酸素分圧の低下が生じており、息こらえを行うと肺胞内酸素分圧の急激な低下と共に還元ヘモグロビンが酸素化されないまま動脈側に到達してしまい、その結果酸素飽和度の低下として検出されると考えられます。従来、息こらえによる時々刻々の酸素飽和度の低下がどの様な状況でどの様に生じ、どの程度生体に影響を与えるかの研究はほとんどなく、この新しく開発された器機により、未知の領域が検索出来ることとなりました。実際、喫煙者の肺は表面が喫煙本数に応じて黒くなっているのが一般的ですが、喫煙による肺病変は末梢気道に始まるため、比較的中枢部の抵抗を反映する従来のスパイロメーターを用いた測定では、喫煙者のうちのわずかな者にしか気道の病変を検出できない問題がありました。またスパイロメーターで一秒量に異常(一秒間に呼出できる量が低下)が検出される時期には、喫煙を中止してもこの閉塞性病変は改善しないという矛盾がありました。しかし、私共の新しい測定法では喫煙者のほとんどにおいて、息こらえにより高度な酸素飽和度の低下が検出でき、喫煙による肺の予備能力の低下を早期に検出できるようになりました。特に、この酸素飽和度の低下は、喫煙量の増大に応じて増悪することが示され、また喫煙を中止することにより改善に向かうなど、禁煙者を勇気づけ、禁煙の奨励に有効な役割を果たす事が期待されます。さらにこのことは虚血性心疾患や脳循環障害を有する喫煙患者においては、息こらえが重大な危険因子となることを意味しています。喫煙妊婦においては出産時の息こらえを必要とするときに酸素飽和度が低下し、胎児の死亡率や異常分娩を増大させる危険性が示唆されます。
 この検査は喘息においてもリモデリングの進行度合の検出に応用が期待されます。

4.アレルギー疾患診断治療技術の共有と安全の確保
 現在多くのアレルギー治療薬が、限られた期間のピークフローの改善や自覚症状の改善を元に審査をパスし販売許可となっています。しかし、本当に長期的にみて疾患を改善するに値する薬剤であるのか、生命予後を改善するに値する薬剤であるかを、発売一定期間後に見直す必要があると思われます。また、それほど効力でない薬剤でも、企業の熱心な宣伝により売り上げを伸ばしている例も見受けられます。また特殊な状況における薬剤の安全性についても日本では製薬企業からの情報公開が乏しいため、学会からの積極的な情報の提供が待たれている現状です。
 今回これに関連して、「妊婦のアレルギー治療ガイド」と「アレルギー疾患診断・治療の安全ガイド」を特別企画として発行し、来場の方々に配布させて頂く予定です。さらにこれらに関連して、米国のFDA(食品衛生局)から担当官を招いて米国の現状を知り、我が国の今後のあり方の参考にさせていただく予定です。

5.学会の国際性と若い研究者の育成
 当面の課題として、インターナショナルセッションを設けて、WAOの会長にもおいで頂き、若い東アジアのアレルギー研究者にも参加してもらい、日本の若い研究者と交流をはかり、若手研究者に研究奨励賞や会長賞も授与して、研究意欲を刺激していく考えです。また、全ての会場で日本語と英語の2ヶ国語を公用語として採用し、東アジアからの一般演題にも発表の機会を与えていく考えです。
 今や東アジアの国々のアレルギー学も発展し、少なくとも一部には我が国のそれを凌ぐものも見受けられます。今世紀に、日本がアレルギー研究において東アジアの、そして世界の国々に対して指導的な役割を果たしていくには、今私達は何をしなければならないか、若い独創的なアイデアを持った研究者を如何に育てるかを学会としても考えていく段階にあります。「常識で説明出来ない事実には、新たな自然の真理が隠れている」との石坂先生のお言葉を貴重な教訓として受け止める必要があると思われます。問題意識をもって研究し、その解決のために仮説をたて、実証するところに新たな未知の研究領域が広がることを、多くの先人が教えています。

 
     
   
 
お問い合せ先:事務局
岩手医科大学内科学第三講座
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