国立循環器病研究センター 集中治療科勤務。麻酔科専門医、集中治療科専門医および呼吸療法専門医として従事し、その中でも小児集中治療(PICU:Pediatric Intensive Care Unit)が専門。2024年から一般社団法人 日本呼吸療法医学会理事長としても活躍。呼吸療法に関する情報の発信のほか、他医学会との連携・情報共有の強化などを目指しています。

国立循環器病研究センターは、日本の厚生労働省が所管する国立高度専門医療研究センターの一つ。心臓病や脳卒中、高血圧といった循環器疾患に特化した、日本最高峰の医療・研究機関です。高度集中治療体制(ICU・CCU・脳神経外科/内科ICU)といった集中治療室の比率が非常に高いのが特徴。そのため、病院全体で質の高い呼吸管理が求められており、一部のユニットだけでなく、全館を通じて高度な呼吸管理の実践と教育体制を整えています。
2024年に「呼吸療法専門医研修施設」の認定を受けた国立循環器病研究センター。一般社団法人日本呼吸療法医学会の理事長でもある竹内医師は、特に専門でもある小児の呼吸管理にも注目。大人に比べて症例数が圧倒的に少ないため、明確なデータ(エビデンス)を出すことが非常に難しいという現状を改善しながら、日々治療に当たっている竹内医師に、目指している理想の呼吸管理を中心にお話を伺いました。
竹内 宗之(たけうち むねゆき)
ここは単なる医療機関としての枠を超え、企業の研究施設や自治体と連携した「医療クラスター(産業集積拠点)」の中核としての役割も担っており、隣接する棟には企業も在籍。また、講演会などがオープンに開催されるカフェも併設されています。
「呼吸」は停止すれば即座に命に関わり、生命維持に直結する最も基本的な機能。それだけに医療における「呼吸療法」が必要になる場面は多岐にわたり、主に手術後や重症疾患によって呼吸機能が低下し、酸素投与や人工呼吸が必要となった患者さんには重要です。「呼吸療法において私たちが決して忘れてはならないのは、呼吸困難は人間にとって『最大級の苦痛』であるという事実です。息ができないという恐怖は、パニックを引き起こします。急性期であれ慢性期であれ、患者さんにとって『呼吸が楽になる』ことの価値は、計り知れないほど大きいのです」と語る竹内医師は、呼吸療法とは単に人工呼吸器のスイッチを入れるだけではなく、「快適な呼吸」のためには様々なスキルが必要なため、より研究を深め、多くの人がその理解を深める重要性を感じているそう。現在、センター内には集中治療科が関与するICU(集中治療室)、PICU(小児集中治療室)をはじめ、CCU(心臓血管系集中治療室)、脳神経外科ICU・脳神経内科ICUなどの高度な集中治療エリアがあります。「私たちの目標は、超急性期から在宅患者さん、そして小児から成人まで、日本のどこにいても患者さんが適切な呼吸療法を受けられる基準を確立することです。そのために、医師、看護師だけでなく、臨床工学技士や理学療法士といった多職種がワンチームで動く体制を重視しています」と、呼吸療法の確立にも注力しています。
竹内医師が現場で最も厳しく説くのは、医療者が陥りがちな「日常化」への警戒です。ICUで日々重症患者に接していると、高度な処置も医療者にとっては「日常」の一部になりかねません。しかし、患者さんにとっては人生を左右する一生に一度の危機です。「大人の治療では、体格の差が比較的小さいため、つい『ワンサイズ・フィッツ・オール(一律の対応)』のセッティングに頼ってしまう傾向があります。しかし、同じ病名であっても、性別、体形、そしてその瞬間に感じている『重篤感』は一人ひとり全く異なります。男女差があるのは当然ですし、昨日と今日でも状態は変わります。『これくらいでいいだろう』という画一的な対応は、患者さんの尊厳を無視することになりかねません。入院中のあらゆる瞬間において、もっと繊細に、もっと個別化されたオーダーメイドの管理を追求すべきです」と意識し、呼吸においても個別管理の重要性を強調されています。
竹内医師が特に情熱を注いでいるPICUでは、成人診療とはまた別の洞察力が求められます。大人と違い子供たちは自分の苦痛を言葉にできないため、不快であればただ泣き叫び、暴れることしかできません。「その時、『体力も消耗するから鎮静剤を使う』とだけ考えるのは医療側の敗北です。なぜこの子は泣いているのか? 加湿が足りずに鼻が乾燥しているのか、あるいは呼吸器のセッティングが子供の自発呼吸とズレているのか。彼らのわずかなサインを読み取り、機械を子供に合わせて調整してあげる。そうして呼吸がふっと楽になった瞬間、子供の表情は劇的に変わります。その『楽にしてあげたい』という想いこそが、私たちの原点です」。竹内医師は、過去には蘇生が必要になった患者さんのかなりの割合で「痰詰まり」が原因であったという経験をされており、小児の呼吸管理は、まずはサイズが小さいという問題に向き合った上で、発達段階に応じた特徴を理解する必要があると述べられています。
各地の病院や医師と連携して呼吸管理にまつわる実験も行ってきた竹内医師。「人工呼吸で肺を壊さない、横隔膜を傷つけない」「人工呼吸器が心臓の邪魔をせず、むしろ助けになるようにする」という思いを、実験によって得られたデータを元に臨床現場のプロトコルへと還元しています。さらに、呼吸と心臓が互いに与え合う「呼吸循環相互作用」の研究にも熱意を注いでいます。国立循環器病研究センターという専門性を活かし、単に肺を膨らませるだけでなく、心臓に最も負担をかけない、あるいは心臓の助けとなるような「最適な呼吸補助」のあり方を追求。「こうした積み重ねにより小さな命から高齢者まで、適切な呼吸療法が『当たり前』のものとして提供される社会を目指すことが使命」と、患者に寄り添います。例えば、酸素を供給するための酸素カニューレ、気管チューブ、呼吸器回路などは、苦痛の原因になることも。「サイズが合っていないと不快ですが、バリエーションが少ないため、それぞれの体格に合わせたものが提供できると、より呼吸の質(QOL)を向上させられると思います」と、まだまだ多くの改善点があるとのこと。こうした「繊細な呼吸」を整えてくれる医療施設なら、子供から大人まで安心して命を預けられるに違いありません。