人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン
日本呼吸療法医学会
人工呼吸中の鎮静ガイドライン作成委員会
妙中信之(宝塚市立病院集中治療救急室):委員長
行岡秀和(行岡病院麻酔・救急・集中治療科)
足羽孝子(岡山大学病院看護部)
鶴田良介(山口大学医学部附属病院先進救急医療センター)
磨田 裕(埼玉医科大学国際医療センター麻酔科)
長谷川隆一(公立陶生病院救急部)
氏家良人(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科救急医学)
目次
はじめに第1章 鎮静・鎮痛のあり方
- 人工呼吸中の鎮静・鎮痛の基本的考え方
- 人工呼吸中の鎮静・鎮痛の目的
- 鎮静を行う前に考慮すること
- 鎮静の評価
- 鎮静によるリスク
- 鎮静スケールの使用と目標とする鎮静レベルの決定
- 鎮静薬の調節と鎮静の評価
- 鎮痛の評価
- 鎮痛の必要性と重要性
- 鎮痛薬の全身投与による鎮痛
- 患者制御鎮痛法(pca: patient controlled analgesia)
- 持続硬膜外鎮痛法
- 鎮静薬使用の考え方
- 主な鎮静薬
- 筋弛緩薬使用の考え方
- 主な筋弛緩薬
はじめに
人工呼吸中には鎮静が不可欠であるが、少なくとも日本国内には、鎮静のためのガイドラインとして明確に標準化され繁用されているものはなく、各施設ではさまざまな薬剤が用いられ、鎮静深度の判定なども施設ごとに工夫して行われてきたのが現状である。そのため、①必ずしも適切でない薬剤が用いられる、②鎮静深度の調節が不十分であるため患者の安楽や安
全が守られなかったりすることがある、③統一された方法がとられていないため施設間の比較が難しい、④情報交換にも支障をきたす、⑤多施設が共同で臨床研究を行うことが難しい、などといった支障をきたしていた。
これに対し日本呼吸療法医学会では、1999年に急性呼吸不全調査委員会が「ARDSに対するClinical Practice Guideline1)」を発表し、その後、2004年には多施設共同研究委員会が「同第2版2)」を発表して、それぞれ人工呼吸中の鎮静薬・筋弛緩薬の使用法についても記載してきた。しかし、これらの中には、最近の薬剤や硬膜外鎮痛法など国内でよく用いられている方法に関する記載がなく、鎮静深度評価や薬剤投与量調節のための指標などについてもほとんど記載されていなかった。また、諸外国には鎮静ガイドラインが存在するが3-6)、日本で発売されていない薬剤が推奨されていたり、鎮静深度評価に用いられる外国語表記のニュアンスが日本人の感覚と一致しにくいなど、そのままわが国のものとして応用するには難点が多かった。そこで今回、日本の現状に即したやり方も重視した、医師のみでなく看護師や理学療法士、呼吸療法認定士などコメディカルにも利用しやすいガイドラインを作成した。なお、そのような性格上、人工呼吸中の鎮静に関する知識が豊富でない医療スタッフにもわかりやすいものとすることに留意し、記述は教科書あるいは解説書のようにした部分も多い。また、同様に、薬剤の説明もできるだけ詳しく記載するよう努力した。
1.作成の基本方針
人工呼吸患者には新生児から成人までが含まれ、また、集中治療室に収容されるものから在宅人工呼吸が行われるものまであり、最近は気管挿管を行わない非侵襲的人工呼吸も利用されるようになってきている。ひとくちに人工呼吸といっても、対象により鎮静の目的や必要性には異なる点が多いので、今回の対象は、最も重症かつ標準的な人工呼吸患者として、集中治療室(ICU)に収容される成人患者で、気管挿管または気管切開下に人工呼吸を行うものとした。それ以外の人工呼吸患者のための鎮静ガイドラインは、これを参考に別途に作成すればよい。なお、せん妄は重要なテーマではあるが、診断や治療にはまだ問題点も多く、今回は対象とせず、参考として人工呼吸中のせん妄の評価法について触れるのみとした。具体的な作成方針は次のごとくとした。
1)ICUに収容される成人患者を対象とする
2)気管挿管または気管切開下に人工呼吸を行うものを対象とする
3)医療安全・患者の安楽を第一に考慮する
4)わが国で繁用されているものに重点をおく
5)鎮痛も対象とする
6)鎮静評価には、医療者のアセスメントのほか、器械を用いたものにも触れる
7)せん妄は対象としないが、評価法について参考として触れる
2.作成の根拠(推奨度など)
基本的にはいわゆるEvidence based approachを重視し、臨床研究論文のランク付けや推奨のランク付けは、本学会の「ARDSに対するClinical Practice Guideline 第2版2)」にならって表1および表2のごとく行った。ガイドライン本文中の表記の形式としては、推奨度Aでは「~する(しない)」「必要である」など断定的表現や「強く推奨する」「すべきである」などとし、推奨度Bでは「~した(しない)ほうがよい」または「望ましい」などとし、推奨度Cでは「~しても(しなくても)よい」、「不明である」などとした。
表1.臨床研究論文のランク付けレベル | 内容 |
Ⅰ | 最低1つのRCTやMeta-analysisによる実証 |
Ⅱ | RCTではない比較試験、コホート研究による実証 |
Ⅲ | 症例集積研究や単なる専門家の意見 |
推奨度 | 内容 |
A | 強く推奨する、または、強く推奨しない |
B | 一般的に推奨する、または、一般的に推奨しない |
C | 任意でよい |
3.その他
本文に記載しきれないことや、説明を加えたり追加したりするほうが理解しやすいと考えられたことには、<解説>や<参考>を付加して補足を行った。また、引用文献はそれぞれの章ごとに記載することとした。
文献
- 日本呼吸療法医学会急性呼吸不全調査委員会:ARDSに対するClinical Practice Guideline 人工呼吸 16:95-115,1999
- 日本呼吸療法医学会多施設共同研究委員会:ARDSに対するClinical Practice Guideline 第2版 人工呼吸 21:44-61,2004
- Jacobi J, Fraser GL, Coursin DB, et al: Clinical practice guidelines for the sustained use of sedatives and analgesics in the critically ill adlit. Crit Care Med 30: 119-141, 2002
- Gross JB, Farmington CT, Bailey PL, et al: Practice guidelines for sedation and analgesia by non-anesthesiologists. An updated report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Sedation and Analgesia by Non-Anesthesiologists. Anesthesiology 96:1004-1017,2002
- Innes G, Murphy M, Nijssen-Jordan C, et al: Procedual sedation and analgesia in the emergency department. Canadian Consensus Guidelines. J Emerg Med 17:145-156,1999
- Hung CT, Chou YF, Fung CF, et al: Safety and comfort during sedation for diagnostic or therapeutic procedures. Hong Kong Med J 8:114-122,2002
第1章 鎮静・鎮痛のあり方
1.人工呼吸中の鎮静・鎮痛の基本的考え方
Sedation(鎮静)の語源は「sedare」であり、これは、和らげる、安定させるという意味である。鎮静の目的は、患者の不安感を和らげ、快適さを確保することであり、「眠らせること」ではないことを十分理解しておかなければならない(推奨度A)。
また、鎮静・鎮痛管理においては、医師・看護師のほかその患者の診療にかかわる医療者間で「鎮静の目的」、「目標とする鎮静深度」を明確にし、薬剤投与のプロトコールや鎮静・鎮痛スケールを活用するなど、施設内で共通認識を持っておくこと(推奨度A)。可能であれば、鎮静薬の減量や中止のプログラムも作成しておくとよい。鎮静の目的や必要性、目標とする鎮静深度などは、患者や家族と協議し協力を得なければならない場合もある。
2.人工呼吸中の鎮静・鎮痛の目的
人工呼吸中の患者は、苦痛を軽減し安静を得るために表1に示すような目的で鎮静薬・鎮痛薬の投与が必要となる。また、体動やシバリングに伴う血行動態の悪化がある場合など、筋弛緩薬の投与が必要となることもある。
表1 鎮静・鎮痛の目的(文献1)より引用)- 患者の快適性・安全の確保
- 不安を和らげる
- 気管チューブ留置の不快感の減少
- 動揺・興奮を抑え安静を促進する
- 睡眠の促進
- 自己抜去の防止
- 気管内吸引の苦痛を緩和
- 処置・治療の際の意識消失(麻酔)
- 筋弛緩薬投与中の記憶消失
- 酸素消費量・基礎代謝量の減少
- 換気の改善と圧外傷の減少
- 人工呼吸器との同調性の改善
- 呼吸ドライブの抑制
3.人工呼吸中の鎮静を行う前に考慮すること1)
まず、鎮静薬を用いないで解決できる問題がないか検討すること(推奨度A)。例として以下のような方法を考慮する。これらのほか、人工呼吸器の換気条件設定がその患者にとって適切なものか観察し、必要であれば修正しておくべきである(推奨度A)。その上で、必要であれば鎮静の目的に応じた鎮静薬を選択して投与する(推奨度A)。
- 患者とのコミュニケーションを確立する。
非言語的コミュニケーション技術(筆談・読唇術・文字ボードなど)を用いて、患者の意思やニードを明らかにする。 - 患者の置かれた状況の詳しい説明を行う。
患者の理解度に合わせ、現状の説明や処置・ケアについて説明を行い、現状が理解できるように働きかける。「期間」「予定」など具体的に説明を行うことは、患者の目標や励みになる。また、人工呼吸器装着による弊害(声が出ない、気管チューブ留置による違和感、器械による換気のイメージ)および鎮静薬の使用が可能であることなどを説明する。 - 安静による苦痛を取り除くため、体位交換、除圧マット類などを用いることによって体位を調節する。
- 気管チューブによる疼痛や術後疼痛など、疼痛はスケールによる評価を行ない、積極的に取り除く。
<解説>人工呼吸中の患者は、気管チューブそのものによる疼痛や人工呼吸器装着による不快感、気管内吸引や体位変換にともなう苦痛、創部痛などさまざまな苦痛を感じている。それらの苦痛を軽減させる鎮痛を行うことは、患者のストレス反応を減少させ、咳嗽や深呼吸を容易にし、呼吸器合併症の予防にもつながる。適切な鎮痛が行われれば、鎮静を行う必要性も少なくなり、過度の薬物投与を避けることができる。 - ベッド周辺の環境を整える。
音・照明の調節、プライバシーへの配慮を行なう。医療者の足音や話し声にも配慮を行なう。医療スタッフとの人間関係(信頼関係)も重要な環境のひとつである。 - 日常生活のリズムと睡眠の確保を行なう。
日時を伝え、光の調節や睡眠リズムを整える。 - 患者家族の面会を延長し、家族とともにいる時間を多くする。
4.人工呼吸中の鎮静の評価
鎮静の必要性や鎮静状況を適切に評価することにより、人工呼吸器装着日数やICU在室期間、入院期間の短縮が得られ、気管切開の頻度も減少する2)レベルⅠ。また、1日のうちに一時的に持続鎮静を中断し患者を覚醒させ鎮静の必要性を再評価することによって、不要な鎮静を減らし、鎮静期間を短縮できるとの報告3)レベルⅠもあるように、人工呼吸中の患者の鎮静レベルを評価し必要な鎮静レベルを維持することが求められる。しかし、現実的には、鎮静薬を中止し必要性を評価することは、興奮・不穏状態(agitation)を助長し、チューブトラブルなどが起こる危険性も増すため、薬剤を減量するなどの調節により、鎮静の必要性を検討することが望ましい(推奨度B)。また、必要とされる鎮静のレベルは、患者に加わるストレスの強さや処置時に医療者が必要とする麻酔深度、せん妄や興奮などの患者の精神状態により異なり、すべての患者に共通の「至適鎮静レベル」というものは現在のところ明らかにされていない。そのため、症例に応じた鎮静の目標あるいはエンドポイントを医療者間や、必要に応じて患者および家族とも協議・設定し、定期的に見直す必要がある。そして、その定期的な評価は必ず記録に残すべきである(推奨度A)。具体的な鎮静評価については後述する。
5.鎮静によるリスク
- 鎮静薬自体の影響
1)呼吸不全患者では、交感神経系が過緊張状態にあることが多く、鎮静により交感神経活動が減弱して血圧低下を起こす危険性がある(呼吸不全患者以外においても循環抑制を起こす可能性がある)。ウイーニング中は1回換気量や呼吸数の低下にも注意する(推奨度A)。
2)長期の鎮静薬投与により、鎮静効果の遷延や意識レベルの判定困難のほか、腸管麻痺などを起こすことがある。場合によっては、中枢神経障害など何らかの合併症の症状が不明確となり発見が遅れる危険性がある。また、薬剤に対する耐性から、有効な鎮静レベルを保つことが困難となる場合がある。鎮静スケールを用いて鎮静レベルを定期的に評価し、バイタルサインを含めた全身状態を細かく観察することが必要である(推奨度A)。また、長期投与後に中止する場合は、退薬症状の出現にも注意する必要がある(推奨度A)。
- 鎮静状態が与える影響
1)過剰鎮静
過剰鎮静には次のような弊害があることを認識しておく(推奨度A)。- a)鎮静され、安静臥床が長期に及ぶと廃用萎縮(表2)を起こす4)レベルⅢ。
表2 廃用萎縮(文献4)より引用)
- 1.骨格筋:筋萎縮、骨粗鬆症、関節拘縮、尖足
- 循環系:運動能力の低下、起立性低血圧、幻暈、浮腫
- 呼吸器系:低換気、下側肺障害
- 代謝系:異化作用の亢進
- その他:尿閉、腎結石、便秘、褥創、無力
- b)不動化により、褥創、深部静脈血栓症・肺梗塞のリスクが増加する。
- c)鎮静薬使用による臥床と陽圧換気によって下側肺傷害を生じる。
- d)呼吸筋の萎縮や筋力低下により、人工呼吸器離脱が困難となり、人工呼吸器装着期間が遷延する。
- e)持続鎮静は、人工呼吸器関連肺炎(VAP)発症の独立危険因子である5)レベルⅢ。
- f)免疫機能の低下により易感染状態となる。鎮静により高度意識障害をつくると肺炎などの感染症が惹起しやすくなる。意識レベルや精神状態と免疫能は密接な関係がある(neuro-immuno transmission, neuro-immuno modulation)6)。
- g)ICU入室中の場合、入室中の記憶を残さない状態でいると、ICU退室後の病状回復後に抑鬱状態などの精神障害の原因となる場合がある7) 8)。
2)過少鎮静
鎮静が過少な場合は、鎮静の目的である①患者の快適性・安全の確保、②酸素消費量・基礎代謝量の減少、③換気の改善と圧外傷の減少が達成されない上、不安やストレスの増大により、興奮・不穏状態(agitation)を呈することがあるので注意が必要である(推奨度A)。興奮・不穏状態は、過少鎮静のみならず、重篤な合併症(表3)による場合もあるため注意を要する9)。そして、興奮・不穏状態に対して、安易に鎮静薬を投与するのではなく、その原因を検索し対応することが望まれる。特に、疼痛については、十分な鎮痛を図った後に鎮静を行うべきである10)レベルⅡ(推奨度A)。
表3 興奮・不穏状態の原因(文献9)より引用。一部改変)
- 疼痛
- せん妄(ICUにおける興奮・不穏状態の原因として最も多い)
- 強度の不安
- 鎮静薬に対する耐性、離脱(禁断)症状
- 低酸素血症、高炭酸ガス血症、アシドーシス
- 頭蓋内損傷
- 電解質異常、低血糖、尿毒症、感染
- 気胸、気管チューブの位置異常
- 精神疾患、薬物中毒
- 循環不全
また、興奮・不穏状態にあると、安静が保たれないだけでなく、気管チューブの抜管などライン類の不慮の抜去の原因ともなる。不慮の抜管による患者の死亡率や肺合併症の増加はなかったとの報告11)レベルⅢもあるが、発見が遅れたり、適切な対応がなされなければ生命に危険を及ぼす可能性があり、避けられるべきである。そして、不慮の抜管に備えた準備を行っておくことも必要である(推奨度A)。
<参考>気管チューブの自己(事故)抜去防止12)レベルⅢ
チューブ類の自己(事故)抜去は頻度の高いインシデントであり、特に気管チューブの場合は生命に危険を及ぼす可能性がある。患者への障害を最小限にするよう、患者の状態を適切に評価するとともに、身体拘束や鎮静薬の使用を含め抜去予防や抜去後の対処を適切に行なう必要がある。具体的な自己(事故)抜去防止対策を以下に示す(推奨度A)。①あらかじめ人工呼吸管理が必要であることがわかっている場合には、事前に患者と家族に鎮静と身体拘束の必要性について説明し、同意を得ておく。緊急の場合においても処置後に家族に説明する。
②気管チューブの自己(事故)抜去の危険性を予測するために、患者がせん妄状態にあるかどうか評価する。患者の状態に合わせた身体拘束方法を選択する。気管チューブが不要になった場合は、早期に抜去すると同時に身体拘束も解除する。
③気管チューブの固定を確実に行なうため、1日1回は医師または看護師2名以上でテープの固定を行うのが望ましい。再固定を行なう際は、チューブの挿入の長さ、チューブの太さ、カフ圧を確認し、記載しておく。
④自己(事故)抜去後の環境整備として、チューブ抜去後の標準対応マニュアルを作成する。また、医療スタッフへの身体拘束やチューブ管理に関する研修を実施する。 - a)鎮静され、安静臥床が長期に及ぶと廃用萎縮(表2)を起こす4)レベルⅢ。
表2 廃用萎縮(文献4)より引用)
文献
- 日本呼吸療法医学会多施設共同研究委員会:ARDSに対するClinical Practice Guideline 第2版.人工呼吸 21:44-61,2004
- Brook AD, Ahrens TS,Schaiff R,et al :Effect of a nursing-implemented sedation protocol on the duration of mechanical ventilation. Crit Care Med 27 :2609-2615, 1999.
- Kress JP,Pohlman AS,O'Connor MF, et al :Daily interruption of sedative infusions in critically ill patients undergoing mechanical ventilation, N Engl J Med 342 :1471-1477, 2000.
- 木下佳子:鎮静下での合併症を防ぐために. 看護学雑誌 65:719-722, 2001
- Rello J,Diaz E,Roque M, et al :Risk factors for developing pneumonia within 48 hours of intubation. Am J Respir Crit Care Med 159 :1742-1746, 1999.
- Marvin S:Stress, depression, and the immune system. J Clin Psychiatry 50:35-40, 1989.
- JonesC,Griffiths RD,Humphris G,et al:Memory, delusions, and the development of acute posttraumatic stress disorder-related symptoms after intensive care.Crit Care Med 29: 573-580, 2001.
- Scragg P, Jones A,Fauvel N :Psychological problems following ICU treatment .Anaesthesia 56:9-14, 2001.
- 行岡秀和:ICUでの鎮静・鎮痛のオーバービュー:鎮静・鎮痛の評価法 .ICUとCCU 30:903-910, 2006.
- Jacobi J, Fraser GL, Coursin DB, et al:Clinical practice guidelines for the sustained use of sedatives and analgesics in the critically ill adult. Crit Care Med 30 :119-141, 2002.
- Boulain T :Unplanned extubations in the adult intensive care unit. Am J Respir Crit Care Med 157 :1131-1137, 1998.
- 鎌田裕子:チューブ類挿入患者の自己(事故)抜去の防止策. 医療安全推進ジャーナル 17 :4-5, 2007.
第2章 鎮静・鎮痛の評価
1.鎮静スケールの使用と目標とする鎮静レベルの決定
鎮静薬投与を開始するに当たって、個々の患者で目標とする鎮静レベルを事前に決定しておくことが重要である(推奨度B)。個々の患者の至適鎮静レベルは、医師と看護師など医療スタッフで協議し、必要に応じて患者および家族とも協議して決定する。このために、適切な鎮静スケールを使用することを推奨する(推奨度B)。その施設で用いる鎮静スケールを患者のカルテあるいはチャートに綴じ込むなどして、誰でもその患者の決定された鎮静レベルが一目で分かるようにしておくことが望ましい。患者の状態が変化して目標鎮静レベルを変更する場合には、鎮静レベルの表記も変更する。鎮静スケールにはさまざまなものが報告されているが、Richmond Agitation-Sedation Scale (RASS、表1) 1)レベルⅠを推奨する(推奨度B)。
鎮静レベルの客観的評価法の一つに、脳波を分析し数値化して麻酔深度を判定するように工夫されたbispectral index (BIS)がある2) 3)。鎮静スケールを用いた評価は1~数時間ごとに行われるので、その空白の時間帯を補う方法としてBISの使用は望ましい(推奨度C)。また、筋弛緩薬の使用中など、鎮静スケールを用いての鎮静レベルの主観的評価が困難である場合は4) 5)、BISの有用性が示唆される(推奨度C)。
<解説>RASSを推奨する理由
理想的な鎮静スケールとは、1)使いやすく覚えやすい、2)それぞれのレベルの正確な識別と判定するのに必要なレベルの数を備えている、3)不穏・興奮の判定が可能である、4)適切な患者背景で評価者間の信頼性と妥当性の厳しいテストを受けたものである、などの条件をみたすものである4)。さらに、さまざまな症例を対象とした十分な検証が行われていることや、日本語に訳した際に原本と同じ意味をもつ(そのためのインストラクション・マニュアルがある)ことも重要な条件となる。Ramsay scaleは1974年に提案され、鎮静深度を評価するものとしてわが国でもよく利用されているが、不穏・興奮を判定できない欠点がある。1994年、Hansen-Flaschen Jが「beyond the Ramsay scale」と題して、信頼性と妥当性の検証の必要性を含め理想的なスケールのひとつの要項を提案し6)、その後、これらを満たすことが世に認められる鎮静スケールの条件となっていった。こうして誕生したのがSedation-Agitation Scale (SAS)7)、Motor Activity Assessment Scale (MAAS)8)、Vancouver Interaction and Calmness Scale (VICS)9)などであり、2002年以後には、Richmond Agitation-Sedation Scale (RASS) 4)とAdaptation to the Intensive Care Environment (ATICE) 10) が開発されるに至った。これらのうち、この項の冒頭に述べた「理想的な鎮静スケール」に近いものが RASSとATICEである。このうちATICEは内科系ICUにおける人工呼吸患者のみで検証されているが、RASSではそれよりも有用性の検証が進んでいること、さらに、せん妄評価にも利用できること(日本語版CAM-ICU)、また、今日の臨床現場への認知度が高いことなども考慮して、RASSを推奨することとした。
ステップ1:30秒間、患者を観察する。これ(視診のみ)によりスコア0~+4を判定する。
ステップ2:
1)大声で名前を呼ぶか、開眼するように言う。
2)10秒以上アイ・コンタクトができなければ繰り返す。以上2項目(呼びかけ刺激)によりスコア-1~-3を判定する。
3)動きが見られなければ、肩を揺するか、胸骨を摩擦する。これ(身体刺激)によりスコア-4、-5を判定する。
スコア | 用 語 | 説 明 | |
+4 | 好戦的な | 明らかに好戦的な、暴力的な、スタッフに対する差し迫った危険 | |
+3 | 非常に興奮した | チューブ類またはカテーテル類を自己抜去;攻撃的な | |
+2 | 興奮した | 頻繁な非意図的な運動、人工呼吸器ファイティング | |
+1 | 落ち着きのない | 不安で絶えずそわそわしている、しかし動きは攻撃的でも活発でもない | |
0 | 意識清明な 落ち着いている |
||
-1 | 傾眠状態 | 完全に清明ではないが、呼びかけに10秒以上の開眼及びアイ・コンタクトで応答する | 呼びかけ 刺激 |
-2 | 軽い鎮静状態 | 呼びかけに10秒未満のアイ・コンタクトで応答 | 呼びかけ 刺激 |
-3 | 中等度鎮静 | 状態呼びかけに動きまたは開眼で応答するがアイ・コンタクトなし | 呼びかけ 刺激 |
-4 | 深い鎮静状態 | 呼びかけに無反応、しかし、身体刺激で動きまたは開眼 | 身体刺激 |
-5 | 昏睡 | 呼びかけにも身体刺激にも無反応 | 身体刺激 |
2.鎮静薬の調節と鎮静の評価
医師はその理想とする鎮静レベルが得られるように、鎮静薬の種類と投与量を決定する。その量の増減においては、看護師が評価する鎮静レベルを参考にする。鎮静レベルの評価は、1~数時間ごとに行うのが望ましい(推奨度B)。各々の施設で鎮静スケールと鎮静薬の種類や投与量に関するプロトコールを作成し、それに従い鎮静薬投与を行うことを推奨する2) 11)レベルⅠ(推奨度B)。ICU専従医がいる場合には、そのつど、医師と看護師が協議して鎮静薬の種類や量を変更する方法でも構わない12)。
3.鎮痛の評価
鎮静薬だけでは患者の快適さが得られないと思われる場合には、鎮痛薬の併用を行う(推奨度A)。人工呼吸中の患者は気管チューブ留置による疼痛を感じているとする報告がある。疼痛の評価法として、患者とコミュニケーションが取れる場合には、視覚アナログ尺度visual analogue scale (VAS)、数値評価スケールnumeric rating scale (NRS)が利用可能である。一方、コミュニケーションが取れない場合は疼痛の評価は難しいが、体動、表情、姿勢などの患者の行動と、心拍数、血圧、呼吸数などの生理学的パラメーターを通して疼痛レベルを評価し、鎮痛薬の効果をこれらの指標の変化で評価する2)。この場合の鎮痛スケールとして、しかめ面などの表情、上肢の屈曲状態、人工呼吸器との同調性をスコア化したbehavioral pain scale (BPS、表2)を推奨する13) 14)レベルⅠ(推奨度B)。適切なスケールを用いて一定の間隔で評価すると、正確さが増すという意見がある(推奨度C)。なお、鎮静評価の際、不穏・興奮(RASSの+1~+4)の原因の一つに疼痛が関与していないか注意する(推奨度A)。
<解説>
VASは、10cmの水平線の両端に「痛みなし」と「激しい痛み(今までに経験のない強い痛み)」と書き、患者に今の痛みがどこに位置するか指し示してもらうことで判定する。NRSは、0(痛みなし)~10(最強の痛み)の数字のうち、患者に今の痛みがどの数に値するか指し示してもらって判定する。
項 目 | 説 明 | スコア |
表 情 | 穏やかな 一部硬い(たとえば、まゆが下がっている) 全く硬い(たとえば、まぶたを閉じている) しかめ面 |
1 2 3 4 |
上 肢 |
全く動かない 一部曲げている 指を曲げて完全に曲げている ずっと引っ込めている |
1 2 3 4 |
呼吸器との同調性 |
同調している 時に咳嗽,大部分は呼吸器に同調している 呼吸器とファイティング 呼吸器の調節がきかない |
1 2 3 4 |
<参考>せん妄の評価
ICU患者の82%にせん妄を認め、せん妄群は非せん妄群に比べて入院期間が有意に長く、更に6ヵ月後の死亡率が有意に高かった(34% vs 15%)とする報告がある15)レベルⅠ。そこで用いられた評価法は、ICUのためのせん妄評価法(confusion assessment method for the ICU:CAM-ICU)である。せん妄評価には、日本語版CAM-ICUを推奨する(推奨度A)。人工呼吸中のせん妄評価法で日本語版が確立したものは本評価法のみである。これは、RASSを用いた鎮静評価とせん妄評価の2ステップになっており、RASSでスコア-3~+4の場合、せん妄評価に進む。スコア-4または-5である場合は鎮静レベルが深すぎるため、せん妄の評価ができないからである。せん妄評価は、精神状態変化の急性発症または変動性の経過(所見1)、注意力欠如(所見2)、無秩序な思考(所見3)、意識レベルの変化(所見4)をもって行い、4つの所見のうち所見1+所見2+所見3(または+所見4)がそろえば、せん妄と診断される(表3)。
(http://www.icudelirium.org/delirium/CAM-ICUTraining.html)
表3:日本語版CAM-ICUの説明(文章は原著の責任者と相談のもと和訳したものであるため前後の文章と文体が異なる)
ステップ1:RASSによる評価を行う。
RASSが-4または-5の場合、評価を中止し、後で再評価しなさい。
RASSが-4より上(-3~+4)の場合、以下のステップ2に進みなさい。
ステップ2:せん妄評価。
所見1+所見2+所見3(または所見4)がそろえばせん妄と診断
CAM-ICU 所見と種類 | ||||||||||
所見1. 急性発症または変動性の経過 | ある | なし | ||||||||
A.基準線からの精神状態の急性変化の根拠があるか? あるいは B.(異常な)行動が過去24時間の間に変動したか? すなわち、移り変わる傾向があるか、あるいは、鎮静スケール(例えばRASS)、グラスゴーコーマスケール(GCS)または以前のせん妄評価の変動によって証明されるように、重症度が増減するか? |
||||||||||
所見2. 注意力欠如 | ある | なし | ||||||||
注意力スクリーニングテストAttention Screening Examination(ASE)の聴覚か視覚のパートでスコア8点未満により示されるように、患者は注意力を集中させるのが困難だったか? | ||||||||||
所見3. 無秩序な思考 | ある | なし | ||||||||
4つの質問のうちの2つ以上の誤った答えおよび/または指示に従うことができないことによって証明されるように無秩序あるいは首尾一貫しない思考の証拠があるか? 質問(交互のセット Aとセット B):
1.評価者は、患者の前で評価者自身の2本の指を上げて見せ、同じことをするよう指示する。 2.今度は評価者自身の2本の指を下げた後、患者にもう片方の手で同じ事(2本の指を上げる事)をするよう指示する。 |
||||||||||
所見4.意識レベルの変化 | ある | なし | ||||||||
患者の意識レベルは清明以外の何か、例えば、用心深い、嗜眠性の、または昏迷であるか? (例えば評価時にRASSの0 以外である)
|
||||||||||
CAM-ICUの全体評価(所見1と所見2かつ所見3か所見4のいずれか): | はい | いいえ |
注意力スクリーニングテスト Attention Screening Examination(ASE)―聴覚テストと視覚テスト
指示:次のことを患者に言なさい、「今から私があなたに10の一連の数字を読んで聞かせます。あなたが数字1を聞いた時は常に、私の手を握りしめることで示してください。」以下の10の数字を通常のトーン(ICUの雑音の中でも十分に聞こえる大きさ)で、1数字1秒の速度で読みなさい。2314571931
スコア:患者が数字1の時に手を握り締めた回数と患者が数字1以外の時に握り締めなかった回数の総和
ステップ1:5つの絵を見せる
指示:次のことを患者に言いなさい。「_______さん、今から私があなたのよく知っているものの絵を見せます。何の絵を見たか尋ねるので、注意深く見て、各々の絵を記憶してください。」そしてPacket AまたはPacket B(繰り返し検査する場合は日替わりにする)のステップ1を見せる。ステップ1のPacket AまたはBのどちらか5つの絵をそれぞれ3秒間見せなさい。
ステップ2:10の絵を見せる
指示:次のことを患者に言いなさい。「今から私がいくつかの絵を見せます。そのいくつかは既にあなたが見たもので、いくつかは新しいものです。前に見た絵であるかどうか、「はい」の場合には首をたてに振って(実際に示す)、「いいえ」の場合には首を横に振って(実際に示す)教えてください。」そこで、どちらか(Packet AまたはBの先のステップ1で使った方のステップ2)の10の絵(5つは新しく、5つは繰り返し)をそれぞれ3秒間見せなさい。
スコア:このテストは、ステップ2の間、正しい「はい」 または「いいえ」の答えの数をスコアとする。高齢患者への見え方を改善するために、絵を15cm×25cmの大きさにカラー印刷し、ラミネート加工する。
注:眼鏡をかける患者の場合、視覚 ASEを試みる時、彼/彼女が眼鏡を掛けていることを確認しなさい。
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第3章 鎮痛
1.鎮痛の必要性と重要性
人工呼吸中の患者では、創部痛のほか、ドレーン、チューブなどの留置に伴う痛みのため患者の快適性が得られないことも多い(表1)。このような患者で鎮静薬を使用する時、まず、適切な痛みの除去、軽減をはからなければならない1,2)レベルⅢ(推奨度A)。
鎮痛方法は、鎮痛薬の全身投与と局所投与に分けられる。全身投与には麻薬、およびその他の鎮痛薬が用いられる。
表1.鎮痛の対象となる疼痛- チューブ類の留置による疼痛・苦痛
- 手術後疼痛
- 外傷による疼痛
- その他の疼痛
2.鎮痛薬の全身投与による鎮痛
- 麻薬
米国集中治療医学会のガイドライン1)では、鎮痛薬としてフェンタニル、モルヒネ(モルヒネ注R)が推奨されている(推奨度C)。これらは強力な鎮痛作用があるため非常に有効である(推奨度C)。
1)フェンタニル
速効性があり最適とされる。鎮痛効果はモルヒネの50~100倍だが、持続時間が短いため持続静脈内投与で使用する。この場合の投与量は1~2μg/Kg/hrである。心筋収縮力抑制作用や血管拡張作用が少ないため、循環状態が不安定な場合はモルヒネよりフェンタニルの使用が推奨される(推奨度B)。フェンタニルはパッチによる剤型もあるが、皮膚吸収にはばらつきが大きく効果が一定ではないので、推奨しない(推奨度A)。2)モルヒネ
術後痛には5~10mgの筋肉内投与、人工呼吸中の鎮静効果も期待して用いる場合は5~10mgの静脈内投与が行われ、作用は4~5時間持続する。作用時間が長いため持続静脈内投与より間歇的投与がよい(推奨度C)。間歇的投与の場合は、投与間隔を開けすぎない注意が必要である。血管拡張作用、ヒスタミン遊離作用があるため低血圧が起こりやすい。腎障害がある場合は、モルヒネ代謝産物が蓄積しやすく作用が遷延する。3)麻薬の副作用
麻薬には次のような副作用があるので注意が必要である(推奨度A)。- 呼吸抑制
人工呼吸中ではあまり問題にならず、呼吸ドライブが抑制されるなどむしろ好都合である場合もある。PSV(pressure support ventilation)、CPAP(continuous positive airway pressure)など、自発呼吸モードでは呼吸数低下、一回換気量低下に注意する(推奨度A)。また、一回換気量は過大な増加がみられることもあり、注意を要する。 - 低血圧
循環状態が不安定な患者では起こりやすい。モルヒネでは特に注意する。 - 意識レベルの低下
麻薬には多幸感や鎮静効果もあり、意識レベルは低下する。咳嗽反射も抑制される。人工呼吸患者では、人工呼吸器との同調性が得られたり、酸素消費量が減少するなどむしろ好都合な場合も多い。 - 胃・消化管機能の抑制
胃内容の停留、腸管蠕動抑制、イレウス、便秘などの発生に注意が必要である。モルヒネには胆道内圧上昇という副作用もある。
4)麻薬の拮抗薬
ナロキソン(ナロキソンR)は麻薬の作用に競合的に拮抗し、麻薬に起因する呼吸抑制などの作用を改善する。しかし、疼痛の出現や、急性の麻薬離脱症状を引き起こすことがあり、血圧上昇、頻脈、不整脈などの副作用があるほか、本剤より作用時間が長い麻薬の拮抗薬として用いた場合、呼吸抑制などが再発することもあり、使用は推奨しない(推奨度B)。5)麻薬投与中止時の注意点
大量または7日間以上使用した麻薬の投与を中止するときは、離脱症状予防のため計画的に漸減するのが望ましい(推奨度B)。 - 呼吸抑制
- 麻薬拮抗性(非麻薬性)鎮痛薬
ブプレノルフィン(レペタンR)、、ペンタゾシン(ペンタジンR)、ブトルファノール(スタドールR)などは、麻薬拮抗的に作用するため、米国集中治療医学会のガイドラインでは、長期間の麻薬投与においては麻薬離脱症状を起こしやすいこと、麻薬投与が行いにくくなることなどの理由で推奨されていない。したがって推奨しない理由としての強い根拠があるわけではなく、また、本邦ではこれらの薬物もしばしば使用されており、使用禁止薬とはいえない(推奨度C)。
1)ブプレノルフィン(レペタンR)
鎮痛効果はモルヒネの25~40倍であるとされ、持続時間は6~9時間と長い。依存性は少ないとされている。2)ペンタゾシン(ペンタジンR)
15mgの投与で3~4時間の鎮痛が得られる。15~30mgを筋肉内または静脈内投与する。呼吸抑制があるほか、末梢血管収縮作用があるので、血圧、肺動脈圧を上昇させることがあり、心筋酸素消費量を増加させるので、心疾患のある患者に投与する場合は注意が必要である。術後痛に使用した後、習慣性、依存性が出現することがあるので注意が必要である。 - 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:non-steroidal anti-inflammatory drugs)
ジクロフェナクナトリウム(ボルタレンR)、アスピリン、インドメタシン(インダシンRなど)、フルルビプロフェン(ロピオンR)などNSAIDsは、麻薬など他の鎮痛薬の使用量を減少させるなどの利点がある(推奨度B)。しかし、低血圧、腎障害、消化管出血、血小板機能抑制など重大な副作用の危険性があり、使用対象症例は限定される。
- デクスメデトミジン(プレセデックスR)
デクスメデトミジンは鎮痛作用も有する鎮静薬であり、モルヒネの投与量を減少させることができるが、本薬単独による鎮痛効果が十分であるかどうかは今後の検討課題である。本薬については次項(第4章)で詳述する。
3.患者制御鎮痛法(PCA: patient controlled analgesia)
術後や慢性疼痛管理ではPCAが適用されることも多い。これは、患者自身の意思・判断により薬液注入スイッチを押す方法である。しかし、人工呼吸患者では鎮静薬や他の鎮痛薬が投与されることが多く、患者自身でのコントロールが困難であることが一般的で、実際には適応しにくい。
4.持続硬膜外鎮痛法
硬膜外麻酔法は局所的な鎮痛方法として優れており、体幹部の手術における全身麻酔に併用して広く用いられている。上腹部手術や開胸手術の後は、創部痛が強いと呼吸機能に悪影響を及ぼし呼吸器系の合併症を発症する率が高まる。こうした手術の術後には、術中に使用した硬膜外麻酔法を術後も継続し、持続硬膜外鎮痛法を使用することを強く推奨する(推奨度A)。また、外傷患者の鎮痛にも有効であり、胸部外傷患者では、使用により人工呼吸日数の短縮が認められており3)レベルⅡ使用することを推奨する(推奨度B)。
持続硬膜外麻酔法には、鎮痛薬の全身投与に比較して、意識レベルを落とさない、呼吸抑制が少ない、麻薬に比較して消化器症状が少ないなどの利点がある。しかし、本法には硬膜外血腫形成、カテーテル留置に伴う硬膜外感染症などの合併症がある。ICU患者や人工呼吸患者では、血液凝固障害、重症感染症、菌血症などの全身合併症を有することがしばしばあるので、このような症例において本法を実施するかどうかは意見の分かれるところであり4)、禁忌と考えられている病態もある。
- 適応
手術後患者、特に体幹部手術の術後患者はよい適応である。術前に留置された硬膜外カテーテルを利用して行う。外傷患者のほか、硬膜外鎮痛法が有効と考えられる症例にも用いられる。
- 禁忌
出血傾向、血液凝固障害のある患者では、カテーテル留置に伴って硬膜外血腫形成を起こし脊髄障害や神経麻痺などをきたす可能性があるため、禁忌となる場合がある。ただし、どの程度の血液凝固障害があれば禁忌とするかは定説がない。例として、表2のような限界値が目安となる。また、抗凝固療法や血栓溶解療法を実施中または実施予定の場合、菌血症の場合などが禁忌となる。なお、外傷患者では、頭蓋内圧上昇や脊髄損傷も禁忌となるので注意が必要である。
表2.硬膜外カテーテル留置を避けるべき病態- 血液凝固障害
a.血小板<5万/μl(5万~10万/μlの場合は各施設の判断による)
b.APTT>50秒
c.PT-INR>1.5
- 抗凝固療法、血栓溶解療法を実施中または実施予定の場合
- 感染症
a.菌血症(重症敗血症を含む)
b.穿刺部位の皮膚感染
- 頭蓋内圧上昇
- 脊髄損傷
- 血液凝固障害
問題点
硬膜外カテーテル挿入手技は容易なものではなく、ある程度の熟練が必要である。また、硬膜外血腫、硬膜外感染、神経損傷などの合併症もある。カテーテル抜去時には血液凝固機能に注意し、ヘパリンなど抗凝固薬は中止してから抜去する。目安として、未分画ヘパリンでは中止後2-4時間、低分子ヘパリンでは中止後10時間が経過してから抜去する。また、カテーテル抜去後のヘパリン再開は、未分画ヘパリンでは1時間後、低分子ヘパリンでは4時間後とする。
鎮静されているときに硬膜外カテーテル挿入留置手技を行うと、穿刺時に神経刺激症状などがあるかどうかを把握できないので、鎮静中のカテーテル挿入はリスクと有用性とを比較して判断する。
持続硬膜外鎮痛法に用いる薬
ロピバカイン(アナペインR)などの局所麻酔薬、モルヒネ、フェンタニル、ブプレノルフィンなどのオピオイドが用いられる。局所麻酔薬では低血圧などが起こりやすいとされ、局所麻酔薬とオピオイドを併用して用いられることも多い。
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第4章 鎮静
1.鎮静薬使用の考え方
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人工呼吸中に用いる鎮静薬は、使用目的、投与経路、投与時間、薬物動態などを考慮して選択する1)レベルⅠ(推奨度A)。
<解説>人工呼吸中の患者では、一般に静脈ルートが確保されており注射薬が用いやすいが、近年は経腸栄養の普及により早期から内服薬の投与も可能である場合が多い。経口による鎮静薬投与でも、フェンタニルなどの鎮痛薬を併用することで、比較的浅めではあるが鎮静レベルを良好に維持できる場合もある2)レベルⅡ(推奨度C)。
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鎮静により健忘効果(前向性・逆向性健忘、長期記憶の障害、エピソード記憶の障害など)が得られる場合があり、ベンゾジアゼピン系薬やプロポフォールなどにその効果が期待できる。しかし、人工呼吸中の健忘が予後に与える影響は不明であり3) レベルⅡ、必ずしも健忘効果が得られる鎮静薬を選択しなくてもよい(推奨度C)。
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鎮静薬の過量投与の防止や神経機能の確認のため、1日に一度、鎮静薬投与量を調節し意識レベルの確認と神経学的診察を行うことを推奨する(推奨度B)。
<解説>現在ほとんどの施設で人工呼吸中に鎮静が行われ、弊害として人工呼吸時間やウイーニング時間、ICU入室期間の延長が問題となっている4)。一方持続鎮静を毎日中断することで人工呼吸離脱までの時間が短縮され、事故や合併症は増加しないとする報告があり5)-6) レベルⅠ、鎮静レベルが深くなり過ぎないように鎮静薬投与のプロトコールを各施設で作成し用いることを推奨する(推奨度B)。中枢神経機能の観察のためには鎮静薬の減量・中断が必須であるが、これは急激な循環変動や不穏を招く可能性もあり、十分な配慮のもとに行い、観察が終われば再度適正なレベルで鎮静を継続するのが望ましい(推奨度B)。
2.主な鎮静薬
現在ICUで用いられている鎮静薬は多数あり、これらはさらに単剤で用いられる場合と、組み合わせて用いられる場合がある。しかし各々の効果についてはきちんと検討されたデータが少なく、従って本章ではこれまでにいくつかの検討が行われたものを主に取り上げて解説する。
- ベンゾジアゼピン系薬
1)ミダゾラム(ドルミカムR)
中枢神経のγアミノ酪酸(GABA)受容体に結合して、クロールチャンネルを開き興奮性ニューロンを抑制する。作用発現は速やかで(0.5~5分)、脂溶性が高いため速やかに脂肪組織などに再分布し、作用時間は短い(<2hr)。0.03~0.06mg/kgのボーラス投与量で安定した鎮静レベルが得られ、長時間の鎮静を行う場合には持続静注する。0.03mg/kg/hrから開始し、鎮静効果をみて適宜増減する。48~72時間以上の持続投与を行うと、蓄積した代謝産物(1-hydroxylmethylmidazolam)の作用や、脂肪組織から薬剤が血中に再動員され覚醒が遷延する場合があるので、使用はできるだけ短時間とすべきである(推奨度A)。
2)ジアゼパム(セルシンR、ホリゾンRなど)
鎮静作用の他にも抗不安作用や抗痙攣作用を得ることを目的として、2~10mgを間歇的に静注するが、呼吸抑制は比較的少ないとされる。一方、末梢静脈から投与するとしばしば局所の疼痛や静脈炎を起こす、作用時間が長く調節性が悪い、長期間の連用で覚醒遅延を生じる、など問題も多いため緊急時のボーラス投与のみに使用することを推奨する(推奨度B)。また高齢者では若年者に比しクリアランスに差はないが、消失半減期は延長し、分布容積も増大するため、効果が上がりにくい一方で、覚醒にいっそう時間がかかる。<解説>ミダゾラムやジアゼパムによる覚醒遅延は、フルマゼニル(アネキセートR)により拮抗することが可能であるが、フルマゼニルの血中半減期はおよそ50分と短いために、一旦覚醒した後に再度鎮静効果が出現する場合がある。またベンゾジアゼピン系薬にて長期に鎮静を行った症例にフルマゼニルを用いて覚醒させると、離脱症状や心筋虚血を生じる場合があり、緩徐に投与するなど注意するのがよい1) レベルⅡ(推奨度B)。
-
プロポフォール(プロポフォールR、ディプリバンR)
作用点はベンゾジアゼピン系薬と同様にGABA受容体であるが、結合部位は異なると考えられている。短時間作用性であり、鎮静量を静注すると1~2分で効果が現われ、10~15分持続する。原則的に持続投与で用い、投与は0.5mg/kg/hrより開始し、5~10分ごとに0.5mg/kgずつ効果をみながら増量し、維持量(0.5~3mg/kg/hr)とする。従って、抜管直前や神経学的所見の確認など、急速な覚醒が必要な場合に用いるとよい(推奨度B)。なお、静注時に血管痛をみることがある。脂肪移行性が高く、長時間の持続静注を行うと半減期は延長して300~700分に達するが、覚醒遅延が問題となることは少ない。また副作用として低血圧、呼吸抑制があるが、肝・腎機能の低下した症例に対しても比較的安全な薬剤として使用を推奨する1,3) レベルⅠ(推奨度B)。
使用期間が2日を越える場合は血中脂質レベル(トリグリセリド)の上昇を来す症例があり、定期的なトリグリセリドの測定を行うことが望ましい1,7-8) レベルⅠ(推奨度B)。また筋融解や代謝性アシドーシス、心不全、不整脈などの全身症状(propofol infusion syndrome)も知られている9-10)。なお小児への投与は安全性が確立しておらず、禁忌である11-12) レベルⅢ(推奨度A)。
プロポフォールは脂肪製剤なので、製剤や輸液ラインの細菌汚染のリスクがあり、12時間ごとの交換が必要である(推奨度A)。またポリカーボネート製三方活栓の接続部においては、クラック(破損)が起こりやすく、接続時は必要以上に締め付けず頻回の観察をおこなうことを推奨する(推奨度B)。なお製剤としては1%と2%のものが市販されており、2%製剤では脂肪負荷の減量が可能だが、濃度を誤ると過量投与につながるため、両者を同一部署で用いる場合には両者を明確に識別するための工夫をすることが望ましい(推奨度B)。
<解説>プロポフォールとミダゾラムを比較した検討では、プロポフォールの方がミダゾラムより鎮静レベルの調節性が良好で、人工呼吸器の離脱時間が短いとしてプロポフォールの有用性が示されているが、予後やICU入室期間に有意差はみられていない13-14)レベルⅡ。またプロポフォールとミダゾラムの併用では、プロポフォール単独より覚醒・抜管までに時間はかかるが、併用した方が鎮静の調節は良好とされる15)レベルⅡ。
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ハロペリドール(セレネースRなど)
ブチロフェノン系抗精神病薬で、経口および注射薬があるが、人工呼吸中は主に後者を用いる。作用発現は2~5分で、血中半減期は2時間。1~10mgを緩徐に間歇静注する。不穏を呈する症例に頻用されるが、せん妄の治療薬として保険適応はとれてはいない。しばしばパーキンソン病様の筋硬直や錐体外路症状,QT延長といった副作用を生じる。呼吸抑制や循環変動は比較的少ない。まれに悪性症候群を来すことがあるが、ブロモクリプチンやダントロレン、筋弛緩薬で対処可能である3)。
<解説>ハロペリドールは単独では鎮静レベルをコントロールする作用が弱いが、他の鎮静薬で不十分な場合や不眠時の催眠剤として使用してもよい(推奨度C)。人工呼吸中の患者はしばしば不穏を呈するが、ハロペリドールで不穏をコントロールすると人工呼吸患者の生命予後が改善する可能性があるとの報告がある16) レベルⅡ。
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デクスメデトミジン(プレセデックスR)
鎮静・鎮痛作用を有する選択的α2アゴニスト。脳内の青斑核に分布するα2受容体に作用して、Gタンパクの活性化から神経末端のノルアドレナリン放出を抑制し、大脳皮質など上位中枢の興奮・覚醒レベルを抑え効果を発現する。半減期が短いため通常持続静注で用いるが、急速飽和を行う場合は6μg/kg/hrの投与速度で10分間静脈内へ持続注入する(初期負荷投与量;約1μg/kg)。以後は0.2~0.7μg/kg/hr程度で至適レベルに調節する。デクスメデトミジンによる鎮静の特徴は、鎮静中であっても刺激により容易に覚醒することであり、自然睡眠(ノンレム睡眠)に類似した脳波パターンを示す17)。また記憶や認知機能を障害しない唯一の鎮静薬であるとともに、抗不安作用や鎮痛作用も有することから、鎮痛薬の投与量を減少させる効果が期待できる18-22) レベルI。
副作用として、呼吸抑制はほとんどないが、血圧低下、徐脈、負荷投与時の血圧上昇など循環系の副作用が多く報告されており23-24) レベルⅠ注意が必要である(推奨度A)。また臨床使用量では深い鎮静レベルの維持が一般に困難であり、フェンタニルなど鎮痛薬との併用やミダゾラム、プロポフォールなどへの変更が必要になる場合がある。
なおデクスメデトミジンは、添付文書に「24時間を越えない」投与時間とすることが明記されており、短期間の鎮静に用いられる。
<解説>人工呼吸中の重症患者はしばしばせん妄を発症するが、ミダゾラムやプロポフォールを使用した場合およそ半数がせん妄を生じるのに対し、デクスメデトミジンでは8%程度という報告があり25) レベルⅡ、デクスメデトミジンのせん妄予防効果が期待されている。一方、急性心不全や虚血性心疾患患者に用いた場合、徐脈や血圧低下作用が心筋虚血の発生率や死亡率を低下させる効果が示されており26-27) レベルⅠ、このような患者には適応がある(推奨度C)。なお循環器系への副作用を減ずる投与法として、初期負荷投与を行わずに、あるいは1時間程度かけてゆっくり行った後に、維持投与に移行する方法が検討されている。循環変動を小さくするには望ましい方法である(推奨度B)。
プロポフォールとデクスメデトミジンを比較した検討では、人工呼吸からの離脱時間に差は認めないが、デクスメデトミジンでは鎮痛薬の使用が有意に少なく、心拍数の低下がみられるとされ、デクスメデトミジンの有用性が示唆されている21-22)レベルⅠ。
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その他の鎮静薬
上記以外にもバルビツレート、ケタミン、吸入麻酔薬などが用いられる場合があるが、これらの薬剤ついては、有効性や安全性に関するデータの蓄積が必要である。
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第5章 筋弛緩
1.筋弛緩薬使用の考え方
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人工呼吸中には、筋弛緩薬はできるだけ使用しない1) レベルI(推奨度A)。しかし体動により呼吸・循環動態が悪化する場合や、患者の安全が確保できないと判断された場合、また通常とは異なる換気様式を用いる場合(例、低一回換気量戦略、高二酸化炭素許容換気、高頻度振動換気時など)に限っては、適切な鎮静薬を併用した上で筋弛緩薬を使用してもよい(推奨度C)。
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筋弛緩薬の使用時は、筋弛緩薬の投与量を最小限に止めるよう筋弛緩モニターを使用するのが望ましい1) レベルⅠ(推奨度B)
<解説>筋弛緩薬の使用により、しばしば遷延性の筋力低下を認めることがあり、筋弛緩薬の投与量および投与期間は最小限に止めるべきである(推奨度A)。従って筋弛緩薬の使用中は、臨床的な検査と併せて、電気刺激による筋弛緩モニターを用いて投与量を調整するのが望ましい(推奨度B)。適切な筋弛緩レベルは、train of four(TOF)で筋攣縮が1~2個確認できる程度がよい。
遷延性の筋力低下は、筋弛緩薬の代謝・排泄の遅延に基づくものと、急性の神経・筋の変性や機能低下によるもの(acute quadriplegic myopathy syndrome、floppy man syndrome、critical illness polyneuropathyなど)に分けられ、またステロイドやアミノグリコシド系抗菌薬、カルシウム・ブロッカー、βブロッカー、免疫抑制剤などとの相互作用により筋力低下は助長される1-2)。これらを防止するため、可能な限り早期に筋弛緩薬の投与を中止したり、間歇的な投与にしたりすることを推奨する(推奨度B)。
2.主な筋弛緩薬
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ベクロニウム(マスキュラックスR)
アミノステロイド化合物で、中等時間作用型の非脱分極性筋弛緩薬。迷走神経遮断作用はない。0.08~0.1mg/kgの静注後60~90秒以内に効果が出現する。持続時間は25~30分と短いため、筋弛緩作用を持続させるには持続静脈内投与が推奨され、0.05~0.08mg/kg/hrを維持量とする。
代謝産物である3-desacetyl vecuroniumも80%ほどの活性を有しており、主な排泄経路は胆汁および尿である。臓器不全などで代謝・排泄が低下している場合は作用が遷延しやすく、長期投与の場合は遷延性の筋力低下に注意が必要であり、一時的に中断したり、間歇的投与とするのが望ましい(推奨度B)。
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パンクロニウム(ミオブロックR)
アミノステロイド化合物で、長時間作用性の非脱分極性筋弛緩薬。0.06~0.1mg/kg静注により4分以内に効果が現われ75~90分持続する。0.02~0.03mg/kgを1~2時間ごとに静注し維持する。持続投与する場合は0.06~0.08mg/kgを静注し、0.02~0.03mg/kg/hrの速度で持続静注する。過剰投与をさけるため、一日一回は持続投与を中止して、麻痺の有無や痺れの部位などを確認することを推奨する(推奨度B)。
なおパンクロニウムは投与直後に迷走神経遮断による一過性の頻脈、血圧上昇をきたす。まれに皮膚発赤や軽度低血圧、気管支攣縮など、ヒスタミン遊離に伴う過敏反応をみる場合がある。なお肝・腎機能低下症例では、代謝や排泄が遅延して作用が延長するため注意する。
文献
- Murray MJ, Cowen J, DeBlock H, et al: Clinical practice guidelines for sustained neuromuscular blockade in the adult critical ill patients. Crit Care Med 30: 142-156,2002
- Giostra E, Magistris MR, Pizzolato G, et al: Neuromuscular disorder in intensive care unit patients treated with pancuronium bromide. Occurrence in a cluster group of seven patients and two sporadic cases, with electrophysiologic and histologic examination. Chest 106: 210-220,1994
おわりに
本ガイドラインの作成は、第29回日本呼吸療法医学会学術総会(氏家良人会長、平成19年7月6日~7日、岡山市)において計画されたシンポジウム「人工呼吸中の鎮静ガイドラインの作成」を原点として開始されたものである。結果として、本学会の「人工呼吸中の鎮静ガイドライン作成委員会」が作成した形となったが、本委員会はシンポジウムの座長とシンポジストをメンバーとして発展的に形成されたものである。したがって、ガイドラインを作成するための委員会の開催は、実質的にはシンポジウムの事前打ち合わせの段階から始まっていたことになる。下記にその実質的記録を記載する。
また、本ガイドラインは、平成19年10月29日に開催された理事会の審議を受け、学会員から集まったパブリックコメントの内容も加味し、最終的に平成19年11月12日付で理事会の承認を得て完成したものである。本ガイドラインの内容は今後一定の期間を経て見直されるべきである。
人工呼吸中の鎮静ガイドライン作成委員会開催記録
第一回委員会:平成19年3月2日、神戸市(ガイドライン作成方針を決定)
第二回委員会:平成19年5月28日、吹田市(ガイドライン原案の添削作業)
第三回委員会:平成19年7月7日、岡山市(シンポジウム打ち合わせ)
また、第29回日本呼吸療法医学会学術集会シンポジウム「人工呼吸中の鎮静ガイドラインの作成」(平成19年7月7日)において議論が行われた。その他、電子メールによる会議を多数回開催した。