伊藤翔太,谷川広樹,近藤 輝,小関秀宙,伊藤俊貴,藤村健太,寺西利生
Jpn J Compr Rehabil Sci 16: 9-18, 2025
本研究は,慢性期脳卒中片麻痺患者におけるHand-Held Dynamometer(HHD)を用いた筋力測定の信頼性を評価したうえで最小可検変化量(MDC95)を算出することを目的とした.対象は脳卒中発症後180日以上経過した片麻痺患者で,HHDを用いて麻痺側下肢の筋力を測定し,歩行速度を評価した.筋力測定の評価者内信頼性は,股関節屈曲,股関節内転,股関節外転,膝関節伸展,足関節背屈,および足関節底屈での級内相関係数(ICC)が0.989から0.998であった.評価者間信頼性は0.886から0.939と良好であった.Bland-Altman分析では系統誤差を認めず,各関節運動のMDC95が算出された.股関節屈曲,股関節内転,膝関節伸展,足関節背屈,足関節底屈の筋力と歩行速度には有意な相関が見られたが,股関節外転の筋力とは関連がなかった.各筋力測定時のMDC95が確立され,測定誤差を超える真の変化を検出する基準が明確になった.本研究により,HHDは慢性期脳卒中片麻痺患者の下肢筋力測定において高い信頼性を持つことが確認され,個々の筋力と歩行能力との関係が明らかになった.これにより,歩行速度の向上を目指した治療部位の特定が可能となり,MDC95を用いることで介入効果の判定がより精密に行えることが示唆された.
【キーワード】:脳卒中,Hand-Held Dynamometer(HHD),筋力,信頼性,最小可検変化量(Minimal Detectable Change:MDC)