症例報告

生活期の摂食嚥下リハビリテーションが有効であった心疾患手術後患者の経験

池野雅裕, 目谷浩通, 福永真哉, 椿原彰夫
Jpn J Compr Rehabil Sci 7: 39-44, 2016

開胸術後には摂食嚥下障害を呈することが多く,長期の気管挿管によって高率に摂食嚥下障害が持続する.また,術後の適切な評価,リハビリの重要性も報告されている.われわれは,開胸術後に摂食嚥下障害を呈し,生活期(在宅療養時期)になって長期間を経て嚥下リハビリテーションを実施することで経口摂取へと回復した症例を経験した.症例は90歳男性で,開胸術後に反回神経麻痺に基づく重度の摂食嚥下障害と診断され,胃瘻造設を受けて,在宅療養していた.術後から当院通院までには6か月が経過しており,その間にも非経口摂取による機能低下が悪化していた.介護支援専門員からの情報提供によって当院通院後に嚥下造影検査を行い,舌運動訓練,頸部等尺性収縮手技を実施した.その後直接嚥下訓練を開始し,同時に代償法(姿勢調整,嚥下の意識化)を指導し,術後8か月で全量経口摂取が可能となった.本症例の嚥下障害が改善された機序として,術後に呈していた反回神経麻痺は自然治癒し,非経口摂取期間中に起こった摂食嚥下機能の廃用に対しての訓練が効果的であったと考えられた.本症例のリハビリを通して,生活期に移行した段階においても専門的かつ継続的な評価,リハビリ介入が必要であることが示唆された.

【キーワード】生活期リハビリテーション,医療連携,摂食嚥下障害

第7巻 目次