
0 基礎情報
1 研究課題<SUBJECT OF STUDY>
2 研究の主要要素<KEY ELEMENTS OF STUDY>
3 クリニカルエビデンスの詳細<DETAILS ABOUT CLINICAL EVIDENCE>
4 経済分析
5 結果
6 批判的コメント<COMMENTARY>
7 インプリケーション<IMPLICATION OF THE STUDY>
0 基礎情報
松本慶蔵, 下方薫, 山本雅史, 麻生憲史.インフルエンザウイルス感染症に対するザナミビルの医療経済学的検討.化学療法の領域
2002; 18(1): 99-109.
1 研究課題<SUBJECT OF STUDY>
1.1 医療技術<HEALTH TECHNOLOGY>
抗インフルエンザウイルス薬ザナミビルの既存の治療と比較しての検討
1.2
Bacterial infections and mycoses
1.3 介入形式<TYPE OF INTERVENTION>
治療
1.4 仮説/問題<HYPOTHESIS/ STUDY QUESTION>
○<全般目的>抗インフルエンザ薬ザナミビルの既存の治療に対する医療経済学的検討。
○<比較対照の明確な記述>明確に述べられている。
○<比較対照>
既存の治療群:抗生物質を用いて治療を行う。
○<比較対照選択の正当性>
現在の標準的診断法と思われ、正当だと考えられる。"
2 研究の主要要素<KEY ELEMENTS OF STUDY>
2.1 経済評価方法<ECONOMIC STUDY TYPE>
○<分析手法>費用効果分析
○<分析の立場>不明(治療費をレセプトから算出+機会費用を平均労働賃金から算出)
2.2 研究対象<STUDY POPULATION>
一般患者:15歳以上のインフルエンザに罹患した患者群
ハイリスク患者:インフルエンザに罹患したハイリスク患者群"
2.3 設定<SETTING>
○<設定>3次医療
○<国・地域>日本
2.4 データ収集日時<DATES TO WHICH DATA RELATE>
<資源利用・価格>
ザナミビル費用:2001年2月(薬価収載)
その他の診療費用:1999年9月(国内医療費調査)
労働賃金:1999年度(賃金センサス)
2.5 有効性データの出所<SOURCE OF EFFECTIVENESS DATA>
3Bおよび3C
2.6 モデル<MODELLING>
仮想の治療経過に関して決定樹解析を行っている。
2.7 有効性データとコストデータとのリンク<LINK BETWEEN EFFECTIVENESS AND COST DATA>
3 クリニカルエビデンスの詳細<DETAILS ABOUT CLINICAL EVIDENCE>
3A 1つの研究<SINGLE STUDY>
3a.1 サンプル<STUDY SAMPLE>
3a.2 研究デザイン<STUDY DESIGN>
3a.3 有効性の分析<ANALYSIS OF EFFECTIVENESS>
3a.4 有効性の結果<EFFECTIVENESS RESULTS>
3a.5 臨床上の結論<CLINICAL CONCLUSIONS>
3B レビュー
3b.1 アウトカム<OUTCOMES ASSESSED IN THE REVIEW>
主要症状軽減までの日数・日常生活復帰までの日数・合併症発症率
3b.2 研究デザインとレビューに組み入れの基準<STUDY DEGIGNS AND OTHER CRITERIA FOR INCLUSION IN THE REVIEW>
述べられていない。
3b.3 1次研究の同定に用いた資料<SOURCES SEARCHED TO IDENTIFY PRIMARY STUDIES>
述べられていない。
3b.4 1次研究の妥当性確認の基準<CRITERIA USED TO ENSURE THE VALIDITY OF PRIMARY STUDIES>
述べられていない。
3b.5 文献の妥当性評価とデータの抽出方法<METHODS USED TO JUDGE RELAVANCE, VALIDITY, EXTRACTING DATA>
述べられていない。
3b.6 研究に用いられた1次研究の数<NUMBER OF PRIMARY STUDIES INCLUDED>
述べられていない。
3b.7 1次研究の結合の方法<METHODS OF COMBINATION OF PRIMARY STUDIES>
述べられていない。
3b.8 1次研究間の相違の検討<INVESTIGATION OF DIFFERENCES BETWEEN PRIMARY STUDIES>
述べられていない。
3b.9 レビューの結果<RESULTS OF THE REVIEW>
<主要症状軽減日数>
既存の治療群:一般患者6.0日・ハイリスク患者7.0日
ザナミビル群:一般患者5.0日・ハイリスク患者5.5日
<日常活動復帰日数>
対照群:ハイリスク患者9.0日
ザナミビル群:ハイリスク患者7.0日
<合併症発症率>
対照群:一般患者18%・ハイリスク患者25%
ザナミビル群:一般患者13%・ハイリスク患者16%
効果の差:一般患者5% (95%CI:1%-8%)・ハイリスク患者9% (95%CI:2%-59%)
3C 意見
3c.1 有効性推定の方法<METHODS USED TO DERIVE ESTIMATES OF EFFECTIVENESS>
著者の仮定
3c.2 主要な仮定と有効性の推定<ESTIMATES OF EFFECTIVENESS AND KEY ASSUMPTIONS>
<決定樹上の推移確率>
ザナミビル群の入院日数を対照群と同じ12.8日と仮定した。
合併症発症率は下気道感染症の発症率を用いた。
<臨床効果>
対照群の治療効果は海外の臨床試験の統合成績からプラセボ群の臨床効果を引用した。"
4 経済分析
4.1 健康関連の便益の評価項目<MEASURE OF BENEFITS USED IN THE ECONOMIC ANALYSIS>
○<アウトカム指標>主要症状軽減までの日数およびQALY
○<QALY算出方法>EQ-5Dを用いた英国の試験成績の引用
4.2直接コスト<DIRECT COSTS>
○<量とコスト>直接コストはすべてについて単価が明示されている。
<外来費用単価>
初診6,363円 (95%CI:±1,664円) ・再診3,188円 (95%CI:±1,557円)
<ザナミビル単価>
3868円
<抗生物質単価>
1,689円 (95%CI:±453円)
<入院費単価>
33,248円 (95%CI:±14,739円)
○<算入された直接コスト>診療報酬明細から遡及的に調査された直接医療費
○<出所>名古屋掖済会病院・愛野記念病院でインフルエンザ治療の診療報酬明細および薬価基準表
○<単位コストの出所>現行症例群(実際のデータ)
○<割引>割引に関する記述はない。
○<コストの種類>平均コスト。
○<価格データ>インフレの調整はなされていない。資本コストなどの除外などについて適切な理由説明はない。
"
4.3 間接コスト<INDIRECT COSTS>
平均労働賃金を1999年度平均賃金センサスから引用。全労働者の平均賃金の推定値16235円/日を利用。治癒までの時間が短いので割引の必要性はないと思われる。
4.4 通貨<CURRENCY>
○<通貨>Yen
○<通貨換算>なし。
4.5 コストの統計分析<STATISTICAL ANALYSIS OF COSTS>
決定論的な点推定値が用いられている。
<コストの呈示・一般患者>
○<外来費用>対照群で7,090円・ザナミビル群で7,036円
○<薬剤費用>対照群で422円・ザナミビル群で4,138円
○<入院費用>対照群で21,279円・ザナミビル群で17,437円
○<以上合計・患者一人当たりの直接費用>対照群で28,792円・ザナミビル群で28,611円
<コストの呈示・ハイリスク患者>
○<外来費用>対照群で7,070円・ザナミビル群で7,023円
○<薬剤費用>対照群で422円・ザナミビル群で4,138円
○<入院費用>対照群で32,727円・ザナミビル群で25,070円
○<以上合計・患者一人当たりの直接費用>対照群で40,219円・ザナミビル群で32,346円
"
4.6 感度分析<SENSITIVITY ANALYSIS>
インフルエンザ感染症患者・入院日数および入院費用(二元配置)・合併症発症率(一元)に関して信頼区間の範囲内で感度分析を行っている。
5 結果
5.1 経済分析で用いられた推定便益<ESTIMATED BENEFITS USED IN THE ECONOMIC ANALYSIS>
<主要症状軽減日数>
既存の治療群:一般患者6.0日・ハイリスク患者7.0日
ザナミビル群:一般患者5.0日・ハイリスク患者5.5日
<日常活動復帰日数>
対照群:ハイリスク患者9.0日
ザナミビル群:ハイリスク患者7.0日
<合併症発症率>
対照群:一般患者18%・ハイリスク患者25%
ザナミビル群:一般患者13%・ハイリスク患者16%
効果の差:一般患者5% (95%CI:1%-8%)・ハイリスク患者9% (95%CI:2%-59%)
治療の副作用の考慮はなされていない。理由に関しては日本において重篤な有害事象の発現事例がなかった為とされている。
5.2 コスト<COST RESULTS>
コストの総額は記述されていない。
有害事象の影響については考慮されていない。
5.3 コストと便益の統合<SYNTHESIS OF COSTS AND BENEFITS>
コスト/病気日数1日軽減・コスト/QALYで表されている。いずれもdominantである。罹病日数が短期間であるため割引はない。
<感度分析>
○インフルエンザ感染症患者・入院日数および入院費用(二元配置)・合併症発症率(一元)に関して信頼区間の範囲内で感度分析を行っている。
○インフルエンザ感染症患者に関しては一般/ハイリスク共にdominantである。
○入院日数・入院費用:一般患者で1,991円?-3,097円、ハイリスク患者で340円?-9,799円。
○合併症発症率:一般患者で2,888円?-2,481円、ハイリスク患者で1,959円?-13,048円。
5.4 著者の結論<AUTHOR'S CONCLUSION>
ザナミビルの使用によって主要症状やQoLの早期改善・医療費削減などの効果が得られる。ザナミビルはインフルエンザ感染症に対して医療経済学的に優れた薬剤である。
.
6 批判的コメント<COMMENTARY>
6.1 比較対照の選択(Selection of comparators)
対照群は「既存の治療」であり、比較対照の選択基準は正当だと考えられる。
6.2 有効性推定の妥当性(Validity of estimate of measure of effectiveness)
既存の統計データと研究論文から決定樹解析の移行確率を導いている。データの統合方法・取捨基準などに関しては記述がない。合併症発症率の推定に用いた論文に関してデータの詳細が一切述べられていない。
6.3 便益推定の妥当性(Validity of estimate of measure of benefit)
便益の推定は決定樹解析から導出されたデータをそのまま用いている。
6.4 コスト推定の妥当性(Validity of estimate of costs)
分析の立場は医療費負担者及び者の立場をとっており、診療報酬明細から得た平均医療費に加えて平均労働賃金を考慮している。病院の資本コストなどはいっさい考慮されておらず、除外理由の明示もない。医療資源の使用量に関しては決定樹解析の結果を基にしている。感度分析の対照・設定範囲は妥当である。
料金がコストの代理として用いられている。シミュレーションの持続時間およびそれに応じた割り引きに関しては記述がない。価格は円で表示されている。
6.5 他の議論(Other issues)
著者は他の研究との整合性に関する比較は行っていない。一般化可能性に関する記述もない。研究の限界に関しても記述がない。
7 インプリケーション<IMPLICATION OF THE STUDY>
コストの収集対象・集計方法に関しての詳細な記述がないことや、ICERの算出法に問題があることなどから、この経済評価の結果をそのまま適応することは難しいと思われる。一般化可能性などを十分に考慮した上での再解析が望まれる。