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対談
アメリカにおける尊厳死法について
New Mexico大学 Carol Suzuki      
東京大学大学院医学系研究科・箕岡医院 箕岡 真子
2013年4月18日,来日中のNew Mexico 大学法学部Carol Suzuki教授に,2時間以上にわたって尊厳死法についてのお話をお伺いした.対談後,以下の問いにお答えをいただいた.
(英語全文および参考文献はホームページ英語版に掲載)
Q1;アメリカにおける尊厳死法の現状について教えてください.特にアメリカでDeath with Dignityという場合,州によっては,@患者の意思による延命治療の差し控え・中止,A延命治療の差し控え・中止が家族の代理判断で決定された場合だけでなく,B自殺幇助についても議論されているようですが.
A1;一般的に,延命治療の差し控え・中止は,患者が尊厳を保って自然な経過で死んでいくことを許容する手段であるといえます.ここアメリカでは,「Death with Dignity」という言葉は,日本で使われている「尊厳死」という言葉と異なった意味合いでも用いられていることがあります.なぜなら,いくつかの州では,自殺幇助Physician aid in dyingも「Death with Dignity」に含まれているからです.オレゴン州・ワシントン州・バーモント州の尊厳死法では,意思能力のある患者が,6か月以内に死亡するであろう治癒不可能で不可逆性の病気に罹っている場合には,適法に処方された致死量の薬物を自己投与することが許容されています.モンタナ州でも,2009年の判例によって,自殺幇助が認められています.
Q2;現在,日本では,尊厳死法案について盛んに議論がなされています.それは『終末期の患者が延命治療を望まない意思を文書で示していれば,人工呼吸器をつけたり人工栄養を補給したりしないで死に至っても,医師は法的な責任を問われないと定めるもの.一度始めた延命治療の中止を認める案も検討されている(朝日新聞)』というもので,Q1の@に相当するものです.これについて,ご意見を聞かせてください.
A2;事前指示,例えばリビングウィルの法制化は,患者の自律Autonomyと尊厳に寄与します.事前指示は,患者がもはや自身の意思を表明出来なくなった時に,医療提供者・後見人・代理判断者等が,今後の治療方針について決定するための方向性を指し示します.
日本で議論されている尊厳死法は,終末期の患者が文書で,延命治療を差し控える願望を示していれば,医師は延命治療を差し控えることができるというものだと聞いています.さらに加えて,既に実施されている延命治療を中止することを許容するという提案もなされているということですね.
アメリカでは,患者のリビングウィルや事前指示に沿って延命治療の差し控え・中止をする場合には,それぞれの州法を参照しなければなりません.
患者は,医療ケアの内容や代理判断者について,十分な考慮をして選択する機会をもつために,突発的なことが起こる前に事前に指示をしておく必要があります.日本では,患者の願望が文書化され,それが実行に移されることが保証されるためには,事前指示が法制化されることが役立つと思います.それは,患者の文書化された意向に従って医療を実践した医療提供者を守ることにもなります.
Q3;本人の意思・事前指示が明らかでない場合,アメリカでは延命治療の差し控え・中止は家族の判断でできますか?
A3;患者に意思能力がなく,延命治療についての事前指示の文書もない場合は,各州の法律に従うことになります.その患者の願望は何なのかについて,明確に見定めることが,患者の自己決定権や自律を尊重するうえで重要です.きわめて重要なケースがナンシー・クルーザン裁判です.そこでは,連邦最高裁が,人はアメリカ憲法のもと治療を拒否する権利があることを明言しました.しかし,延命治療を拒否するという明確で信頼に足る証拠も要求しました.このケースでは,文書化された事前指示はありませんでしたが,彼女は以前口頭でこのような延命治療を望まないと言っていたという参考人の証言を聞いた後,裁判所は後見人に,治療をやめることを許容しました.
今後の方針を決めるためには,私たちは,いつもそれぞれの州法を参照します.そして,代行判断の趣旨のもと,"患者の価値観を反映するような以前の発言はあったのか?"といったように,私たちは,もし,患者に意思能力があったなら,その人はなにを望むのだろうかということを明確に見定めようとします.それでは,ある状況を仮定してみましょう.ある患者が現在意思能力がなく,いままでに治療に関する事前指示がなく,本人の願望が不明で代理判断者も指名していないという状況です.その患者が医療に関する代理判断者を指名しておらず,また治療方針を決定する後見人などもいない場合には,州法は法律にのっとって代理人を決め,患者の最善の利益に沿った決定をすることを要求しています.もしその患者の最善の利益のために代弁する人がいない場合には,医療提供者は,延命治療を実施することが一般的です.倫理的には,自律尊重原則に代わって,善行原則に基づいて患者の最善の利益を考慮することになります.
Q4;日本の亀田総合病院のケース『意思能力のある本人の明確な治療中止(意思疎通ができなくなったら人工呼吸器を取り外してほしい)の文書による要望があり,家族も同意.倫理委員会も1年間の十分な審議の後,要望を認めたにもかかわらず,訴訟を怖れた院長の判断で今後も治療を中止することができなくなった』これについてどう考えますか?またアメリカでもこのようなことは起こり得ますか?
A4;アメリカでは,延命治療の継続か終結かをめぐって医療提供者・倫理委員会・患者・患者の代理人や後見人の間に意見の不一致がある場合には,関係者のだれかが,司法の指示を仰ぐために,裁判を起こす可能性があります.
私たちは,医療を拒否する患者の権利が,州側(公共)の利益と,医師による死の幇助を禁止する刑法と,どのようにバランスがはかられているのかを知るために,それぞれの州の法律や判例を参照する必要があるでしょう.意思能力のある成人の患者が,人工的水分栄養補給を含む延命治療を拒否することを認めた先例があります.例えば,エリザベス・ボービアのカリフォルニア州のケースです.ボービアは意思能力のある28歳の女性で,重度の脳性四肢麻痺を患っていました.彼女は独力では食事を摂ることができなかったので,餓死したいという意向を表明した後に,経管栄養チューブが挿入されました.十分な栄養補給により,さらに15年〜20年は生きられると予測されたのです.しかし,彼女は,治療を拒否することを求めて,裁判を起こしました.カリフォルニア州控訴審裁判所は,「意思能力があれば,ボービアは残りの本来の人生を尊厳と平穏に生きる権利を持っている・・・個人の尊厳とは,個人のプライバシー権の一部である」と述べ,経管栄養チューブを抜くように命じました.この判決は,彼女に,彼女が求めていた安堵を与え,裁判終了後に,彼女は治療を引き続き受けることを決心しました.
 

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