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 分科会 > 9.倫理(時事問題)クイックレスポンス
 
倫理時事問題「クイック・レスポンス」にどのように取り組むのか
山路 憲夫(白梅学園大学子ども学部家族・地域支援学科)
終末期のあり方をめぐる国民的な論議がようやく広がりつつあるかのようにみえる.日本はいま,これまで人類が経験したことがない高齢社会 に突入した.施設から在宅への流れも強まり,住み慣れた地域で,在宅での高齢者のケアという現実に否応なく向き合う.できれば安らかな死を迎 えたい.そうした環境も作り上げていきたいという終末期のあり方についての関心も高まってきた.そうしたなかで日本臨床倫理学会がようやく設立されることとなった.そのなかで「クイック・レスポンス」の分科会を設けることにしたのは,国民的な関心,論議の高まりに対応して,終 末期や生殖補助医療,あるいは最先端医療などをめぐる時折のテーマをタイムリーに取り上げ,できる限り過不足のない倫理的論点を提示し,可能な限り正確にしかもわかりやすく答えられる「レ スポンス」を提示していこうという狙いからである.
残念ながら,一過性のメディア報道には時折偏った視点や不正確な情報がままみられる.延命措置の是非をめぐる過去のさまざまな「事件」につ いてのメディアの取り上げ方をみても,医師の行為が死を招くかどうか,現行法上で刑事訴追にあたるかどうかの点に目が注がれがちで,終末期のあり方についての過不足のない議論に結びつける 報道が不足していたことは否めない.臨床倫理に日常的に向き合う,さまざまな専門分野の方々が 集う日本臨床倫理学会は,バランスのある論点を提示し,医療関係者だけでなく国民的なコンセン サスづくりにも資する「レスポンス」を提示できるのではないだろうか.
幸いというべきか,2012 年は終末期や尊厳死をめぐるさまざまな動き,論議が出てきた.自らの意思で,必要以上の延命治療を受けず最期を迎え る「尊厳死」について,超党派の国会議員が集う「尊厳死法制化を考える議員連盟」が尊厳死法案をまとめ,国会での提出を目指す動きが出た.法制化を強く求めてきた「日本尊厳死協会」は「現状で は患者の意思が明確でも希望がかなえられないことが多い.法律ができれば患者も医師も安心できる」と歓迎する一方で,経管栄養や人工呼吸器を必要とする難病患者や障害者団体などから反対の意見が出,医師にも終末期の定義をめぐって異論も出ている.昨年末には尊厳死を真正面から取り 上げた映画「終の信託」(周防正行監督)も上映され,大きな反響を呼んだ.
さらに元首相の麻生太郎財務相が今年1 月21日の社会保障制度改革国民会議で「いいかげん死にたいと思っても『生きられますから』なんて生か されたんじゃ,かなわない.しかも政府の金で(高額医療を)やってもらっていると思うと寝覚めが悪い.さっさと死ねるようにしてもらわないと」 と述べたことから終末期,尊厳死をめぐる論議も再燃した.
「クイック・レスポンス」分科会は,こうした終末期医療の問題だけでなく,国民がよりよい医療 を受けるために議論を必要としている臨床倫理に関する諸論点,たとえば,最近話題の胎児のDNA 診断の問題・代理出産などの生殖補助医療に関する問題・現在ガイドラインが作成中の透析導入に関する問題・小児の延命治療の差し控え中止問題 と医療ネグレクトの問題・遺伝疾患に関わる問題・脳死臓器移植に関する問題などの新聞の大見出しを飾る社会的に反響をよぶ問題から,さらに は日常のベッドサイドや介護における認知症ケアに関する問題・在宅医療に関する問題・拘束抑制の問題など医療介護従事者に苦悩や倫理的ジレンマを与えるたいへん身近な日常的問題まで,社会 の動きにも目を向けつつタイムリーな論議を深められるような提起をしていきたい.なにとぞ,ご理解,ご協力をお願いしたい.

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