■ 看護と国際保健(2)  国際保健活動の理念

1998年9月15日


 国際保健活動は、ヘルスケアを世界の人々に持続的に提供することを具体的な目標としています。このヘルスケアというのは、病人を治療することを主眼としているメディカルケアとは本質的に異なり、地域の人々の治療のみならず、疾病予防や健康増進にまで配慮し、その向上をねらったものです。メディカルケアが病院を城とした「待ちの健康戦略」とするなら、ヘルスケアは地域社会に入ってゆく「攻めの健康戦略」と言えるでしょう。

 国際保健活動におけるヘルスケアの特徴には、もうひとつあります。それは、活動の焦点を都市よりも農村などの地方へと定めているということです。

 現代の先進医療は世界の2、3割程度の人々のためにしか機能していません。現在の世界人口は約58億人ですが、そのうち約46億人が開発途上国に住んでいます。そして、その多くが、地方農村で生活して先進医療とは無縁でいるのです。健康を世界の人々の権利として公平に考えるならば、国際保健が地方農村のヘルスケアについて重点的に活動していることにも納得がいくのではないでしょうか。

 このような国際保健活動について、理論化を果たしている重要な概念があります。それは、WHOとユニセフによるアルマアタ宣言(1978年)において、「西暦2000年までに世界のすべての人々に健康を」実現するための戦略として認められたプライマリ・ヘルスケア(PHC)というものです。

 このPHCとは、最初に述べたヘルスケアをさらに住民主体のもの、つまり住民の自助と自決のもとに運営してゆこうという考え方です。これまでのヘルスケアが、医師や看護婦などの専門家が地域に足をのばすことで実現していたとすれば、PHCという新たな概念は、その地域の人々が、自分たちのイニシアチブと積極的参加でヘルスケアシステムを実現させることを目標としています。それでは、このPHC活動とはどのように実践されるのでしょうか。

 まず。もっとも重要とされるのは、地域住民が積極的にプロジェクトに参加していることです。住民自らが、自分たちにとって重要な健康問題は何であるか発見し、かつその解決には何が必要なのかを考えなければなりません。そして、それを維持管理するのも住民によらなければなりません。国際保健活動の専門家の役割は、その過程を見守り、必要があればアドバイスをすることなのです。

 また、住民の立案であっても、それがその地域の状況に不釣り合いであれば、もう一度考え直してもらわなければなりません。たとえば、日本で救急車は一次医療において不可欠なものですが、電話のない地域ではあまり意味がありません。PHC活動が目指すヘルスケアは、住民が利用しうる範囲内の技術で達成されなければなりません。そこで、もともと地域に存在している資源を最大限に活用してゆくことが期待されます。たとえば、伝統薬や寺院などの物的資源、長老、伝統的治療師などの人的資源などを巻き込んでゆくことが目標となるでしょう。与えるのではなく、育てるのが国際保健活動の原則なのです。

 最後に、PHCの大きな特徴として、自らを包括的な社会システムの発展計画のひとつとして位置づけていることがあります。政治や経済、教育といった他の分野と相互依存の関係にあります。だからこそ、これらとの連携を深め、総合的な発展を目指すことも、国際保健には求められています。

 ここでは、少し理念的なお話をしてしまって分かりにくかったかもしれません。それは、ある意味当然で、国際保健とは本来、実践のなかで理解されてゆくべきものだからでしょう。今回紹介しましたPHCという概念も、実践の積み重ねのなかで獲得されたものです。次回は、もう少し実際的な活動について、看護職に焦点をあててお話ししてみます。

【高山義浩・山口大学医学部学生】


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