■ 被援助国のマクロ経済バランス

1998年05月15日


◆緒言

 筆者が96年3月にカンボジアを訪れた際、同国の経済パフォーマンスにおいて、被援助国特有の問題が散在しているのではないかという、疑問を感じることが何度かあった。このレポートは、この疑問を検証する目的で、筆者が96年12月にカンボジアで調査を行い、作成したものである。議論の背景になっているのは「ミクロレベルでの善意がマクロレベルでの不幸をもたらすことがありえる」という発想である。つまり、具体的な過去のケースでは、80年代前半でのラテンアメリカの累積債務問題、東欧における債務ブーメラン効果などを思い出してほしい。

◆注目されたパフォーマンス

 最初にカンボジアを訪れたとき、筆者はカンボジアについて、マクロ経済的に、二つのことが大きな意味をもつように思われた。

 一つは、マレーシア銀行のカンボジア支店では、一年の定期貯金について10%の金利がついていたということ。このことは、もちろんカンボジア国内における資金需給のアンバランスを意味し、現在、オープン化している国際金融では普通考えられない状態である。戦後の日本のように為替管理が行われている可能性がある。もう一つは、ほとんど第二次産業が存在しないことである。ビール工場、タバコ工場というぐらいしか、めぼしい工場は見ることができなかった。

 まず筆者が直感的に考えたのは、「援助の疑似ダンピング効果」である。多量の現物援助が、同製品を作っている当事国産業を破壊してしまう可能性が考えられる。さらに、そのような状況のもとで資金援助が行われた場合、為替レートの上昇をもたらしながら貿易赤字を生み出してしまう。すなわち、援助によってカンボジアは購買力の増大をもたらせながら、その購買力を自国の産業発展のために使用できず、タイやベトナムへ流出し、結局はカンボジアに有償援助のの債務が残ることが予想される。このように考えてゆくと、カンボジアの政策当局に国際的な資金流出を制限するインテンシブが働き、その結果国内で資金不足による金利高が生じると考えたわけである。

◆調査結果

 ところが、第二回目の訪問における調査結果は、この仮説をくつがえさせるものであった。結論から言って、「援助のダンピング効果」は、実質的には存在しないと思われる。ある程度の消費生活が営まれている中で、ダンピングといえるほど多量に現物が援助されているわけではないようである。

 産業が育たない理由は、小さな国内市場のもとでは、もともと輸入代替政策をとることは困難だからであると思われる。第二次世界大戦後のアジアの経済発展をみても、輸入代替政策をとって完全に成功したと言えるのは日本と韓国ぐらいであるとされている。実際、IMFの政策も輸出振興政策へと変化しており、現在のNIESの発展はその成果であるといえる。

 カンボジアにおいても、第2回目の訪問時点では、主に輸出を目的とした紡績工場の進出がみとめられた。また、資金の流入制限は存在しなかった。国連などの国際機関に多くの援助を頼るカンボジアでは、為替政策においてもIMFの力強い影響がみられ、かなり自由な投資法が制定されている。金利自体も、約1年で10%から4〜5%への変化がみられた。

 その理由として、ポルポト勢力の低下によりリスク要因が小さくなり、金利が低下したのだと思われる。よって、以前の高金利はリスク分であったと考えるのが妥当なようである。

◆新たな疑問

 93年以降、GNP比10%以上の貿易赤字が発生しており、年々増大している(93年8%、94年14%、95年15%)。輸入額の上位で自動車、バイク、テレビ、クーラーが圧倒的に多く増えているのに対し、輸出品の第一次産品の率は頭打ちになっている。それにもかかわらず、外貨準備高は年々上昇し、通貨(リエル)も減価していないというのはどうした訳であろうか。

 これについての筆者の仮説は次のようなものである。

 カンボジアに対して、国際機関が援助を続ると宣言していることにより、リエルが市場から信任を得ている。もしくは、援助資金によって経常収支がファイナンスされてい可能性がある。経常収支がバランスが取れていれば、貿易赤字があっても短期的には通貨価値が下がることはない。

 しかし、次のような点は不透明なままである。

 市場の信任をもし受けていたとしても、実際に需給のバランスが取れていなければ減価すると思われる。また、国際収支援助は存在しGNP比10%前後にもにものぼるが、それでも、5%ほどの経常収支赤字は存在している。しかも、収支援助の中には技術支援援助も含まれていると推計される(誤差値10%以内・データ4年間)。であれば、実際に拠出された額は、もっと小さくなる可能性がある。すなわち、経常赤字はIMFの統計よりも大きいはずである。

◆赤字をファイナンスしているものは何か?

 92年から95年の間に実際に援助されたのは、13億ドルであり、これは約束額の59%にあたるが、これに対して、20億ドルの資金がUNTACによって18ヶ月のうちに使われている。その20億ドル分により、経常収支が埋められている可能性がある。

 いままで注目されなかった理由として、日本の朝鮮特需と違い、産業に対する波及効果が存在せず、主に、地主資本として吸収されており、国全体への波及に時間がかかったのではないか。この20億ドルが今のカンボジアの購買力を支えていると言えるだろう。

◆結論

 カンボジアの国際収支は多くの誤解を含みながら、一応のバランスはストックとして取られている。しかし、資金の流れには大きな不均衡があり、将来的にストックが底をつき次第、通貨不安が生じる可能性がある。今回の調査で問題になったのは、IMFなどの出す調査が信頼できるかであり、後発国特有の事情を無視しているように感じられた。

【瀬川武雄・東京大学経済学部学生】


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