■ 東南アジアの医療産業  〜そのころ現地の医師たちは〜

1998年04月01日


 奇妙な事態が続いている。

 東南アジアの冷え込んだ経済状態のなかで、医療産業は総体として活気を失っていないようだ。シンガポール経済開発庁によると、アジアの医療市場は現状で推定1500億ドル、今後5年間で70%の伸びが見込まれている。中産階級の仲間入りをした人々は、不景気にあっても医療支出の削減にはあまり積極的ではないようである。

 かつて、東南アジアでは、政府あるいはNGOが運営する病院以外に医療の選択肢はほとんどなかった。しかし、経済成長にともなって、先進諸国でしか利用できなかった高度な医療サービスに対する需要が、高まりを見せている。自己負担となる民間病院が、ここ数年、東南アジア各国で建築ラッシュとなっていた。

 「我々が狙っているのはアジアの人口の1〜2%にすぎない最上層だが、それでも2億〜3億人はいる。必要な病院を建てるのにあと100年はかかるだろう」と、パークウェー経営幹部のリム・チョク・ペンは"Far Eastern Economic Review 9月10日号"のインタビューに答えている。

 パークウェー社とは、シンガポールの上場企業で、東南アジア最大級の医療産業である。現在、シンガポールで3つの病院を運営し、国内民間病院の総ベッド数の70%をも支配している。国外においても、クアラルンプール、ジャカルタなど、アジア各地において病院を経営し、現在建設中の病院も複数あるという。

 バークウェー社の戦略とは、先端治療を受ける必要がある患者を、アジア各地の関連病院からシンガポール国内の拠点病院に移すというものである。これによる外貨収入は、シンガポールにとって既に無視できない規模となっている。

 逆に、周辺諸国にとっては、病人をくいものにする外国企業への警戒感も強くなっている。

 マレーシアは、これに対抗できるだけの企業を育てあげているといえよう。クムプラン・プルバタン・ジョホールは、マレーシアとインドネシアで9つの病院を経営しており、国内最良の医師をそろえつつある。

 もちろんアメリカも黙ってはいない。アメリカの有力医療機器メーカー、ベクトン・ディキンソン社は、アジアでの医療器具売上げを年率20〜25%で成長させつづけている。米医薬品大手シェーリング・プラウは、シンガポールにアジア初の工場をオープンしたが、アジアでの売上げ高は2000年までに30%拡大すると見込んでいる。

 タイは、こうしたあおりをくった形かもしれない。国内民間病院のうち、この先2年間で経営に行き詰まる病院が、10は出ると予想されており、生き残れるのはバンコク病院、トンブリ病院など5病院くらいしかないという予測もある。先月7日のタイ英字紙"Nation"における報道は、その苦境をまざまざと浮き彫りにするものであった。『今後二年間における医療界に経済危機が与える影響』と題されたタイ医師会年次会議において、バンコク医療機関グループ代表のポンサック医師が「外貨を得るためにも看護婦たちを海外に送るべきだ」と発言したというものである。同医師は、これは医療界が外貨を得ることで苦境を乗り切るばかりでなく、タイ医療が、外国人向け医療のレベルアップを図る事ができるとも説明している。タイとしては、シンガポールが中心となっている高度医療を、国内でまかないたいという思いがあるのだろう。

 今後も、東南アジア医療産業は加熱を続けるだろう。これに、欧米の医療機器・薬品メーカーが熱いまなざしを向けている。すでに、投資家は熱狂している。そうしたなか、日本人はもくもくとボランティアに美しい汗を流しているという。

【高山義浩・山口大学医学部学生】


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