■ 2人の独裁者  〜それぞれの生き残り戦術〜

1998年02月15日


 イラクへの武力行使がカウントダウンされている。

 イラクが生物化学兵器や核兵器の部品を製造していないことを確認するためには、国連による無条件査察の受け入れが不可欠と見られている。しかし、フセイン大統領は、国連の査察チームが、大統領関連施設を含む一部の建物に入ることを拒んでおり、今回のイラク危機は、この査察拒否に端を発している。ある米政府高官が、NBCのインタビューに匿名で次のように答えている。

「たとえば、ティクリート(フセイン大統領の生地で、イラクの中北部にある)に資産を保有している人は、今のうちに売却しておくことをお勧めする。また、共和国防衛隊に所属している人間は、今のうちにヨルダンに向かって歩き出した方がいい。もしかしたら、逃げのびられるかもしれない」

 さらに、フセイン大統領の権力構造を支える政府関連施設や建物を重点的に狙い撃ちするだろうとも述べている。とりわけ大統領宮殿は、大量破壊兵器の隠し場所になっている可能性もあり、攻撃対象となる可能性が高いようだ。

 一方、イラク側の唯一最強の武器は「人間の盾」となるだろう。こうした攻撃対象となる地区に、民間人を移住させる戦略である。卑怯だが、最も効果的であることは間違いない。この戦争が終わるまで、民間人の犠牲は戦略的に増加しつづけることだろう。

 ところで、一部のメディアは、「クリントン大統領は、自分のセックススキャンダルから国民の目をそらすために、戦争をはじめようとしている」と論評している。大統領側には十分なイラク叩きの理由があったわけで、必ずしも鵜呑みはできないだろう。ただ、たしかに無視できないタイミングでもあり、要因のひとつには挙げられても仕方がないのかもしれない。落ち目になった政治家が、内政問題に国民の目をむけさせないため、戦争をでっちあげ、生き長らえようとするのは、歴史的にも珍しいことではなかった。これといって政治に目新しさが欠けるとき、政治指導者に魅力が失われているとき、政治家の質とは、政権にあった期間で測られるものだ。

 イギリスのサッチャー元首相は、ブッシュがクリントンに敗北したのち、次のように語っている。

「侵略者フセインはまだ力を持っています。ブッシュは大統領の座を失い、私もまた首相の座を退きました。真の勝者は誰でしょう?」

 いまも続く湾岸戦争の焦点は、フセイン大統領がいつまで生き残れるか、存外ここにあるのかもしれない。

【高山義浩・山口大学医学部学生】


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