■ ベトナム農業の未来像

1997年11月01日


 ベトナムは、今年の年間目標だった米輸出250万トンを9月の時点でクリアすることに成功した。昨年の米生産量はベトナムが2630万トン。米輸出高では世界第1位のタイであるが、昨年の生産量は2130万トンとベトナムを下回り、農業大国としてのベトナムの地位は確実に高まりつつある。

 元来、ベトナムは東南アジア随一の農業大国であった。ところが、共産主義政権下の集団農場が失敗し、80年代には自国の米供給すらまかなえず米輸入国へと転落していた。しかし、ベトナム政府が開放路線であるドイモイに着手、土地私有制が88年認められ、個人農場が復活するやいなや、その翌年には米輸出国に復帰した。

 現在、ベトナム政府は、米と石油の輸出を2本柱として貿易赤字の削減を狙っている。ただし、ベトナムが往年の農業大国の姿をとりもどすには、まだまだ乗り越えるべき課題が山積しているようだ。

 まず、ベトナム米の品質向上が課題である。ベトナム米のライバル、タイ米は1トン平均320ドルで取り引きされているが、ベトナム米のそれは245ドルと3割ほど安い。しかし、この点については、日本からの旺盛な技術移転が進められており、先行きは明るいといえるかもしれない。その是非はともかくとして、生産量増大と品質向上の鍵は化学肥料の確保にあるが、外貨不足もドイモイを背景とした市場経済導入により改善の方向にあり、これに従って化学肥料の輸入量も増大している。

 ベトナム農業がかかえる最大の問題は、雨期の洪水被害、乾期の塩害などメコンデルタの環境問題である。

 ベトナム農業の生命線はメコン河にあると言っても過言ではないだろう。ところが、近年、このメコン河の異変が顕著になってきている。まず、3年に1度程度だった洪水が毎年のように起こるようになった。これは、上流のラオス・カンボジアにおける過度の森林伐採が原因であると言われている。そして、乾期のメコン河の水量が大幅に減少しており、標高の低いベトナムのメコンデルタに満潮時どっと海水が流れ込んでくるようになった。これは、本流からの流入よりも人工的な運河や灌漑路からの流入被害が多いと言われている。このように水量が減少してしまったのは、上流域で急速に展開されている水力発電ダム開発が一因といわれる。メコン河が南シナ海に吐き出す水量は年間4750億立方メートルにおよび、日本全国の河川の総放出量(4500億立方メートル)を上回る。このエネルギーを高度経済成長のさなかにある東南アジアは電力として欲しており、あおられるようにラオスはダム開発計画推進へ奔走している。今年初頭の段階で、ラオス政府が外国企業と開発へ向けた覚書を交わしたものだけで25件、計画段階にあるダム開発は主なものだけでも150件を数える。これら計画について、日本は得意分野として意欲的に参入している。

 ベトナム農業の未来は、ベトナム一国で語ることはできない。メコン河上流域国、そして日本をはじめとする開発援助国、機関など、これらが連携し、「自然の力をいかに持続可能なかたちで引き出すか」議論してゆかなければならない段階にある。

【高山義浩・山口大学医学部学生】


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