■ 返還後の香港を考える

1997年01月15日


 ついに香港返還の年を迎えた。今年7月の返還により、東アジア経済は急速に冷え込むのではないかという憶測も流されていた。ところが、そんな噂を尻目に、香港は今、返還景気に沸き返っているという。

 筆者は昨年の春と夏に香港を訪ねていたが、返還にピリピリしている香港を感じたのは、移民手続きを行なっている人民入境事務大楼周辺(春には大行列で、割込みをめぐっての喧嘩がしばしば見られた)とフィリピン人就労者が集まる日曜日の青空ミサ(セントラルの公園にて)ぐらいだった。結局のところ、香港の活気は、その無秩序ゆえに安定した印象を僕に与えた。

 香港返還が、今のところマイナス要因として働いていないのは、返還の不安よりも、中国本土への窓口としての期待感が勝っているからだろう。そして、中国側も「一国家二制度」を貫いてみせなければ、次の獲物、台湾が遠のいてしまうことを良く理解している。そこで、香港システムの保持を国際社会にアピールしようとしているわけだ。

 国際投資筋も、中国本土に血走った目を向けており、中国国家情報センターの先月5日発表では、今年の中国への外国投資額(実質ベース)が495億ドルと、昨年の水準を15%上回る可能性があるとの見通しを明らかにしている。

 そして、ついに昨年末、あのジョージ・ソロス氏が、中国国内航空券の販売事業に乗り出そうとしていることが明らかになっている。もちろん、あのブラックウェンズデーにおいてイギリス政府を屈服させた彼が、格安チケットで満足するわけはない。彼の長期的な戦略とは、おそらく、中国政府には制御不能なほど中国経済を刺激しつづけ、中国そのものを香港化してゆこうというものであろう。デリバティブを武器に投機家が中国経済を乗っ取るというのも、あながち夢物語ではないかもしれない。

 いずれにせよ、国際交易センターとしての香港は、さしあたって全関係者のメリットであり、繁栄はゆるぎないと考えてよいだろう。ところで、香港が中国本土の窓口として機能しはじめたとき、そこを通過して中国から大量に流れ出す恐れのあるものがある。それは、人民解放軍の有する武器である。

 もともと解放軍は、建軍以来、自給自足を伝統としており、解放軍は各地でホテル、カラオケバー、製薬会社(中国製医薬品の3分の2は解放軍ブランドである)などのビジネスに励んでいる。これは、ケ小平が奨励した軍産複合体の残滓であるが、実は、解放軍がこうしたなかでとりわけ利益を上げているビジネスは武器密輸であるといわれている。

 もちろん解放軍は『保利科学技術有限公司』という、公然の武器輸出企業を保有しているが、地域制限のある国際武器貿易に解放軍が満足するはずもなく、密輸ビジネスは末端の部隊にまで浸透している。カンボジアをはじめ、世界中の紛争地域で中国製の武器が活躍しているのはそういうわけなのだ。

 劉鎮武・初代香港駐屯部隊司令官の月給はわずか144ドルであるという。彼は、目の前を通り過ぎる高級車を眺めながら、どのような夢を描いているのだろうか。返還後、国際ネットワークの中枢にある香港が巨大な武器密輸市場となる可能性は大いにある。

 人民解放軍の武器の流れを監視してゆくことは香港人自身にとっては危険すぎることで、期待すべきではない。高度な情報収集能力と国際政治力を有するNGOが、そろそろ日本で育ちはじめてもいい頃ではないだろうか。

【高山義浩・山口大学医学部学生】


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