■ カンボジア政界の末期症状

1996年06月15日


 カンボジア政界の混乱も、「そろそろ行き着くところまで来た」という印象がある。おそらく、2年後の総選挙まで、現状の政体はもたないだろう。

 近年、フン・セン第二首相は、次々に権力を掌握し続けている。軍の権力機構もフン・セン一色に塗り替えられ、ASEAN諸国との利権もフン・セン経由でのみ話が進められている。その一方、ベトナムとの国境問題や水路の使用問題などの難題が、ラリナッド第一首相の仕事として押し付けられている。

 また、注目のサム・レンシー元蔵相によるクメール民族党には、政府により解散命令が下り、武装警察による執拗な新党つぶしが進められている。昨年11月には、党運動員が殺害されるなどの悲劇もあった。

 さらに、先月は『ウッドマガエテ・クメール』新聞のトン・ブン・リ編集長が、プノンペン市内の路上で射殺された。同紙は、人民党の腐敗ぶりを批判し続けており、同編集長はクメール民族党の幹部でもあった。

 一見、カンボジア政界は、フン・センに権力を集中させ、安定化の方向にあるかのようだが、実際は、フン・センはその過程で、党の内外に敵を作り続けている。それゆえ、自己保身のため、彼はより権力を集中させ、周囲を側近で固めることに奔走しているのである。この悪循環は、歴史的によくある権力者の末期症状といえよう。

 すでに、ラリナッド第一首相は連立政権の解消を公言しているし、フン・センにはヘン・サムリン時代からの保護者であったベトナムとの軋轢が表面化しつつあるようだ。

 さらに、最近の政界内部の混乱を、援助国は危ぶんでおり、欧米との摩擦も表面化しつつある。たとえば、米国は2月末、カンボジアを麻薬の通過地点として指摘し、「麻薬対策が遅れるようならば援助を停止する」と警告したが、フン・センは「わが国は欧米の援助なしでも十分やっていける」と述べ反発した。どうも、シアヌーク国王に見られた絶妙のバランス感覚が、フン・センにはないようだ。カンボジアは国家予算4億ドルのうち、実に4割を日本や欧米などからの援助に頼っている。実際、援助なしには、カンボジア国家は成立し得ないのが現状だ。

 自国の麻薬対策に失敗し、生産者側に因縁をつける最近の米国の姿勢は、確かに不愉快だが、そのような道理が通る国際社会ではない。フン・センは政界内部を混乱させ、外交政策にも失敗しつつある。

 おそらく、来年乾季にはポル・ポト派の拠点であるパイリンが陥落するだろう。その後、13万人の兵力と、国家予算の20.7%を占める約8400万ドルの国防費について削減する話が持ち上がったとき、その時がフン・セン政権のヤマだと考えられる。

【高山義浩・山口大学医学部学生】


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