■ リー・クアンユー倒れる!

1996年02月15日


 シンガポールのリー・クアンユー上級相(72)が先月20日、シンガポール総合病院で冠状動脈の手術を受けた。リー上級相は19日に心臓の痛みを訴えて検査のため入院したが、20日冠状動脈に2カ所「狭さく部分」が発見され、専門医の執刀で手術を受けたもの。この間、東南アジアのご意見番と言われるリーの病状をめぐり、様々な憶測がながれ、東南アジアは少々騒然としていた。また、株価も低迷するなど、リーの存在がいかに重要であるかを再認識させた。結局、リーは、23日、治療を終え退院した。

 シンガポールで「国父」と尊敬され、ベトナム、ラオス、ミャンマーなど東南アジア諸国のみならず、パレスチナなどからも、手本とされるリー・クアンユーとはどのような政治家なのだろうか。

 リーは、マレーシアのマハティールと共に、アジア型民主主義を唱えたことで有名である。リーは、東南アジアのオピニオン・リーダーともいうべき政治家で、開発をめざすアジア諸国の権威主義を、堂々と正当化した点で注目されている。

「1人1票制はベストの制度とは考えない、理想的には、40歳から59歳までの家庭持ちの有権者に2票を与え、60歳になったら一票制に戻す方が良い。」

「米国での犯罪の多さは自由を認め過ぎた結果で、個人の権利を前面に出す欧米と、社会の安定や和を重んじるアジアでは価値観が異なる。」

「民主主義とか、民主主義ゆえに進歩発展するのだとかいう、西洋の考え方を持ち込んで、問題をややこしくしないでほしいのです。民主主義なんかスローガンですよ。」

 このように、リーの発言は強い調子の反欧米で貫かれている。

 民主主義を国家の理念とし、その実現を目標とする欧米人にはわかりづらいことかもしれないが、先進国入りをめざす東南アジア諸国の目標とは「発展」そのものであり、民主主義とは、その手段の一つにすぎない。

 このような国家に対し、人権外交や民主化要求などを、ときに経済問題をからめつつ進めようとすると、それは、「東南アジアの国家目標を、欧米が、自分たちの国家目標にすげ替えようとしている」と捉えられ、植民地主義的な圧力と認識さてしまう。特に、森林資源の保護など環境問題は、理不尽な言いがかりと映りがちだ。

 さきほどのリーの言葉は、「欧米のヘゲモニーに屈しつつあるアジア」という視点からの反発ともいえる。

 リーの欧米批判は、次の単純な三段論法からなる。

(1)欧米社会は民主主義を理念としている。
(2)その欧米社会は腐敗している。
(3)よって、欧米の民主主義は社会を腐敗させる。

 たしかに、欧米の民主主義制度は、いま東南アジアが必要としている強力なリーダーを生み出せないばかりか、国民に公民意識が定着していない場合、容易にマスコミ、労働組合、圧力団体、NGO、地方有力者に力を与える仕組みになっており、政府の力を弱めている。欧米、そして日本にみられる腐敗には、形式的な民主主義に由来するものも多いと思われる。しかし、実際には、多くの問題による複合的な腐敗であることは、誰もがよく知っている。また、欧米、そして日本の腐敗が、仮に民主主義に由来するにせよ、それは民主主義の機能不全によるものであり、民主主義の否定、権威主義の肯定にはつながらない。さらに、リーが「アジア的」という、シンガポールの家父長的統治も、もとをただせば、エリートによる統治を目指した英国植民地主義の遺産にすぎないという見方もある。

【高山義浩・山口大学医学部学生】


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