勇気ある行動


 ほんの数分前までの楽しい団らんが、一転して悲惨な光景に変わってしまう突

然の事故。体を動かすことも、ましてや声を出すことさえできずにいる人が、救

いの手を待っている。


 ある日、夕食を終え、家族3人で楽しい会話をしていると、突然、50歳になる

父親が、2人の目の前で崩れるように倒れた。長女が「お父さん、お父さん。」と

叫びながら、何度も体をゆすったり、呼びかけてもまったく反応しない。彼女は

異変を感じ、手を震わせながら119番。「お父さんが倒れた。救急車をお願いし

ます」と長女の慌てた声が電話を通して司令室にこだました。119通報を受けた

指令課員は「私の質間に応えてください。救急車は出動しています。」 指令課

員は動揺している彼女を何とか落ち着かせ、父親の状態を磯認すると、呼吸と心

臓が停止している可能性が高いど判断し、「これから私の言うことをよく聞いて

ください。」指令課員は、電話口で人工呼吸と心臓マッサージの指導を行なっ

た。出動の途中、無線を通してその内容を聞き、私たちは更に緊張感を増し、手

におのずと力が入った。


 現場に到着し、玄関に足を踏み入れた瞬間、心臓マッサージをする声を耳にし

て、引き込まれるように部屋に入ると、救急隊が到着したにもかかわらず、額に

大粒の汗をかきながら必死になって父親の大きな胸をその小さな手で、力強く心

臓マッサージをしている長女の姿があった。妻は涙でグシャグシャになリなが

ら、夫の足にすがリつき叫ぶことしかできないでいた。


 私たちは彼女から引き継ぎ、「勇気ある行動を無駄にしてはいけない。助けた

い!」その一心で、できる限リの資器材を使い、最大限の処置を施した。しか

し、効果が現れない。焦リと不安の思いがよぎったその時、心臓が脈打ち、その

あとで大きく深い呼吸が戻ってきた。が、意識は戻らず予断は許さない。私たち

は「お父さんがんばれ!、負けるな!」と心の中で叫びながら、家族と共に病院

に向かった。病院では医師による処置が施されたが、状態は変わらない。あとは

父親の生命力に望みを託した。


 数か月後、中年の夫婦が消防署へ訪ねてきた。あの時心肺停止になった本人

が、長い闘病生活を経て、後遺症もなく無事退院するこどができたのだ。私たち

は、「娘さんの心肺蘇生法があなたを救ったんですよ。」と言うと、夫婦の目か

ら涙があふれてきた。


 現在、救急隊が現場に到着するまで約6分。この間、何らかの応急手当が必要で

す。動かしてはいけない、かかわリたくないという思いを拭い去り、勇気を振り

絞って勇気ある第一歩を踏み出してほしい、そのためにも、救命講習を何回でも

受講し、応急手当を身につけ、自分自身の不安を取リ除くことが大切です。普段

から一人ひとりが「いのち」への危機感をもって生活を送っていただきたい。


 応急手当の重要性を身をもって感じ取った家族は、新たな絆を深めたであろ

う。


 ありがとう、あなたの勇気ある行動!

秋田消防署新屋分署 救急隊


近藤信哉

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