74. デジタル化(課)


「ああ、電話番か。」


 以前、ある消防本部に勤務する知り合いの救急隊員の一人に、私の勤務部署を教えたときこんな言葉が返ってきたのです。同じ消防人として複雑な気持ちになり、場所が変われば、指令課に対する認識がこんなに違うものかと思い知らされました。

 同じ消防職員が「電話番」的な感覚で指令課の業務をとらえている地域では、市民の「指令課」に対する認識度など、もはや浮かばれない状況にあるのでは---。何とも悲しいものです。

 確かに秋田市でもそんな時代があったのです。119番通報受信から出動指令まで3分や4分かかっていたのです。そんな中、ある1本の119番通報を担当した通信員により小さ命が救われたのです。喜びとともに大きな衝撃を受けました。そしてあることに気がつき、それまでの自分たちを恥じることになったのです。それは----。

 都立第三病院(お台場の某テレビ局内にある?)の救命救急の江口洋介先生や松嶋奈々子先生などは、救急搬送された重症患者を的確な判断と処置でドラマティックに救命していました。秋田市でもあのようなすぱらしい医療スタッフがいっぱいいます。
 しかし、大切なのは病院前の処置、もっと大切なのは119番通報受信時の消防の、いや指令課の対応なのです。「救命病棟」というよりは『救命病棟前救命』なのです。医師や救急救命士らがドラマティックな仕事ができる陰には、彼らと同じ志しを持つ私たちの役割が必要不可欠であると言うことを全国の指令課員に知っていただきたいのです。

 今や指令システムなどのハード面は、ヂジタル時代の波に押され事案処理はスピーディに、そしてコンパクトにと進化を続けていますが、119番通報を受信する人間や幹部の中にはまだまだアナログ的な方が多いのです。
 また、普通救命講習会で「救急車が皆さんの所に着くには平均6分かかりますよ。」とか「空自の6分で---、ドリンカー---。」と説明しているとしたら、今一度よく考えていただきたいのです。常識となっているこの6分とは、あくまでも救急隊の出動から現場到着までの時間であることを。仮に下の図のように事故発生から119番通報し、指令課で予告指令をして、本指令という段階を経て“6分”で現着したとしてもトータルで約10分の時間を要するのです。今後、住宅事情の変化により、住む場所が横から縦へと変わっていけば、救急隊が患者枕元までの要する時間はさらに長くなります。これが心肺停止事案だと救急隊は常にO%からの勝負となってしまいます。人を救命するためにはどの時点が一番重要であるか、そこにいるは誰か自ずと見えてくるはずです。患者の生死の境目ギリギリのところで接触しているのは、医師でも救急隊でもないのです。また、そこが救命の最大のチャンスであることも事実です。だからこそ、救命講習会等による応急手当の普及啓発活動と、私たちによる119番通報時の応急手当の指導(以下「口頭指導」)、この二つの強化が非常に重要で、国レベルでの取り組みも進んでいるのです。
 たとえ口頭指導の重要性は理解できたとしてもそれだけではうまくいきません。どのように指導するか、あるいはどうしたら通信員がやってくれるようになるかを考えていく事が口頭指導を円滑に運用 していく上での一番のポイントと言えます。国が定めればいいというものではないのです。また、マニュアルの作成や教育なども次の段階と考えます。
 それよりも前に述べたように情熱的な医師や救急隊と同じ志がなくては人は助からないんだという意識改草が必要なのです。ではどうしたらいいのか、簡単です。医師と救急隊と指令課が一緒に酒を飲んで言いたいことを言えばいいのです。秋田的な発想と思うかもしれませんが、お互い電話でしか接したことがない者同士、名前や顔を覚えることから姶まるのです。
 そして、指令課員はもっと自信を持っていいと思うのです。なぜなら、例えぱ「指を切って出血がある」と言う通報があれば「強く押さえなさい」、「やけどをした」といえば「水道水で冷却しなさい」、あるいは「喉にものを詰まらせた」といえぱ「背中を強<叩きなさい」と、どこの通信員でも指導しているはずです。それでいいのです。立派な口頭指導なのです。

 しかし、個人レベルで行っているところに問題があるのです。市民には平等でなくてはいけないのです。あの通信員だったら助かるが、あの通信員だと助からないでは市民に対して平等とはいえません。みんな(消防)が一つになることが最大のポイントなのです。消防古来の「アナログ」的発想は今すぐ脱ぎ捨て、市民のために何をしたらいいのか、赤(消防隊)、オレンジ(救助隊)、白(救急隊)そして指令課(なに色かな?)が真剣に考え「デジタル」へと進化しなけれぱいけないのです。

 一つの小さな命が救われたことをきっかけに、私たちは「電話番」ではなく、「最先着救急隊」なのだと気づき、意識の変化を遂げたのです。

 指令課は、決して派手に陽のあたる部門ではないけれど、それでいいのです。縁の下ですごいことをやってた方がカッコイイのです。

土の中にいる私たちは、やがて春が来ることを知っているのです。

秋田市消防本部指令課 佐々木靖彦

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