69. 119を押す勇気
「どの位の状態になったら救急車を呼んだらいいのですか?」
これは私たちが応急手当の講習会に出向いたとき,よく受ける質問のひとつである。
このような質問に対し,私たちは早く治療を始めれば始めるほど,救命されやすいこと
をまず説明している。
以前から東北特に秋田市は,大都市に比べて119通報が遅い地域だと言われている。
多くの市民,特に高齢者は「がまん」することを美徳と考え,これくらいで救急車を呼
んでは世間体が悪いなどと考えるために,通報が遅れてしまう。
例えば,同じ胸部の痛みを伴う病気でも肋間神経痛と心筋梗塞ではその緊急度,重症度
は大きく異なる。心筋梗塞を肋間神経痛と思いこんで「放置」叉は,「がまん」すると
治療が遅れ,生命の危機に陥いりやすく,心肺蘇生法が必要な状況も起りやすい。この
ような例を説明しながら,早期119番通報の重要性を強く訴えている。
実際には,救急出動の約半数は軽症であり,その日のうちに帰宅できる患者である。軽
症患者の搬送が増加することにより,重症患者への対応が遅れてしまうという問題も起
きうるであろう。しかし,家庭や職場で遭遇した急病に対して,一般市民がその状態か
ら,緊急度や重症度を短時間に判断するのは,決して容易ではない。意識がない,麻痺
がある,出血しているなどの症状に出会えば,比較的早く通報するが、頭痛,めまい,
胸部痛の症状の場合は通報せずにとりあえず様子を見てからということが多いようであ
る。現実にはこういう場合にも、緊急度の高い病気の症状が隠されている事が応々にし
てある。
「どれ位の症状で救急車を呼ぶのがいいかという」という問いに対して,迷わず通報
する様にとお願いしているのは次のような場合である。意識があっても顔色が悪い場
合,冷や汗をかいている場合,今までに経験した事がないほどの痛み、数分以上続く
前胸部痛や肩、腕、頚に放散する痛みがある場合、呼吸困難がある場合である。
たとえ結果として,重症度,緊急度の低い症例に対しての出動であっても,我々救急隊
は患者の速やかな回復を願っているので、何ら問題はない。
いかに優れた救急医療システムも,迅速な通報がなければそのシステム自体が作働しな
い。それを作働させるのは“あなたの119を押す勇気”である。
土崎消防署 阿部憲悦