6. 空白の6分 夫がカバー

私たちが救命処置を開始した時、心臓が停止状態になってすでに6分が経過していた。

「ベッドではだめだ」「床に下ろせ」「酸素全開」「心電図モニターをつけろ」。強い

口調の言葉が飛び交う中、不安そうにじっと見守っている夫や息子さん。

 しかし、厳しい状況だ。担架が入ることができない。狭い廊下や階段をCPR=心肺蘇

生(そせい)法=を続けながら救急車まで行くこともできない。1分以上も中断すること

は全体できない。私は夫の目を見ながら患者の状態を伝え、ここでいくつかの処置を行

うことを説明して救急車に走った。

 そして他の救急隊の応援を要請し、秋田大学付属病院のホットラインを呼んだ。状況

報告をし、収容を依頼した。集中治療部は満床だったが、担当の医師は「OK。頑張れ」

と言ってくれた。この医師は私たち救急救命士を教育してくれた麻酔科の先生であっ

た。この間、救急隊は除細動(心臓への電気ショック)点滴など、次々救命処置を行っ

た。

 救急車内に収容された患者に変化が表れた。心電図に回復の兆しがあり、下のあごが

呼吸しようと動いているのである。「かあさん、もう少しだ。血圧が上がるまで頑張

れ」と患者に向いて叫んでいる隊員がいる。その声に私も勇気づけられた。

 血圧が安定し、呼吸の回数も増え、心電図には力強く波形が刻まれている。119番通報

から46分後、私たちは何人もの医師や看護婦が出迎えている秋大付属病院の救急専用入

口に到着した。直ちに、麻酔科心臓血管外科の医師や看護婦らによって集中治療が開始

されたー。

 翌日、私に二つの電話があった。いずれも、前日に意識が戻り、二日目には体を動か

すことができるようになったとのことである。感激であった。そして、第二内科の医

師、集中治療部の婦長が「ありがとう」と言ってくれた電話に胸が熱くなった。

 そして、もう一つ感動した事実。それは私たちが現場に到着するまでの空白の時間「6

分」を夫が埋めていたことである。「119番の電話うけてくれた人が、心肺蘇生法を教え

てくれたんです。いつか新聞やテレビで見たのを覚えていたからできました」という。

 救急医療の流れにうまく乗ることができた50歳の女性はまもなく退院する。私たちの

今後のさまざまな活動の励みになる事例であることは言うまでもない。

(秋田消防署・救急救命士・清野洋一)

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