5. 突然襲った「心肺停止」
「妻の様子がおかしい---」。「ううっ」という、うめき声に気付いた夫が、今まで
隣に寝ていた妻を見ると、呼吸が感じられなくなっている。動かない体を揺さぶりなが
ら声をかけても全く返事がない。目も開けてくれない。
4月19日野午前6時10分。50歳の女性の最大の危機。突然襲った「心肺停止状態」であ
る。
夫はすぐに「救急車を」と大声で息子に伝える。6時12分。息子がかけたダイヤル
「119」によって「救急救命のシステム」が作動した。現場と唯一繋がっている消防本部
の通信指令課では、この女性を助けるためのいくつかの作業が素早く開始され、同時に
出動中の私たちには「50歳女性の心肺停止。秋田大学付属病院に心疾患の既往あり」と
次々に情報を送る。
救急車を運転する隊員は最短距離で現場に到着できる道路を選択し、後方の処置室で
は、最悪の状況を想定した医療器材をすぐに運び出すことができるよう、もう一人の隊
員が準備している。私たち救急隊3人の頭の中にあるのは凄惨(せいさん)な現場のイ
メージと、もちろん「命の砂時計」である。
現場に到着すると、手を振って合図してくれた息子さんが案内してくれた。両手に医
療器材を抱えて患者の居場所へ走るが、通路が狭い。患者がいるのは階段を上がり、細
い廊下の先の一番奥の寝室である。
私たちが患者の枕元についたのは6時16分。119番通報してから4分後であった。50歳の
女性はベッドで仰向けになっていた。呼吸も停止している。脈も全く感じられないとい
う心肺停止状態で----。
そのそばに不安そうに立っている夫も目の前で、私たちは救命するために活動した。
(秋田市消防署・救急救命士・清野洋一)