4. 死を逃れる最善の手段
4分間。それは一生においてほんのつかの間にすぎないが、この短い時間が人の生死を
分けてしまうこともある。
4分間の心臓停止で脳は重大な障害を受け始める。心臓は4分以上停止していても、元
のように拍動を再開するが、脳の場合は植物状態や脳死と呼ばれる状態を引き起こして
しまう。
これらを防ぐには心臓が停止してから4分以内に何らかの方法で心臓の動きを助けてや
らなければならない。しかし、そこにはどうしても手の届かない空白の時間がある。救
急隊が現場に到着するまでの全国の平均所要時間は「6分」である。
1年間の救急出動がすでに5,000件を越えた秋田市の場合、呼吸や心臓が停止するなど
の極めて重篤な患者は毎年二百人を数える。心筋梗塞(こうそく)、脳卒中、窒息、溺
(でき)水、交通事故戸さまざまであり、子供、若者、お年寄りと、年齢も関係ない。
そしてその多くは死を避けられない状態ではなく、何らかの方法で救うことができた命
である。
その方法とは、口の中に異物があれば取り除き、呼吸がなければ人工呼吸をし、脈が
なければ心臓マッサージをするーというものだ。欧米諸国の中学生以上であればほとん
どの人ができる心肺蘇生(そせい)法である。この方法こそが唯一、空白を埋める手段
であり、命を救うための最前の手段となる。
「心肺停止状態」。一生のうちで最大の危機に瀕(ひん)したその人は助けを求める
目に見えない手を差し伸べている。それにこたえるのは、すぐに救急システムを作動さ
せるスイッチ(迅速な119番通報)を押すこと、そして何よりも重要なのは、その場に居
合わせた人が誰であろうと直ちに心肺蘇生法をスタートさせることである。
当然ことながら、私たちの目標は人間としての精神活動を含めた価値ある生命の回復
にほかならない。
ここまで書いた後、私はある救急現場に出動した。「心肺停止」である。この時の出
来事は私にとって生涯忘れることのできないものとなろう。次回で紹介したい。
(秋田消防署・救急救命士・清野洋一)