第5回 愛媛クリニカルパス研究会大会
 
  『クリニカルパスの効果的な運用 』
 
◇ 抄録一覧
特別講演 「患者状態適応型パス(PCAPS)の実際」 名古屋大学医学部附属病院 医療経営管理部 吉田 茂
「DPCとクリニカルパス DPC導入に向けて」 四国がんセンター 診療情報管理士 白岡 佳樹
「DPCといかに戦うか?」 愛媛大学 大学院 医学系研究科 教授 石原 謙
「当院における大腿骨頸部骨折用地域連携パスの使用状況」 松山赤十字病院 リハビリテーション科 PT 高岡 達
「パスの効果的な運用 ~パスと看護記録~」 兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科 看護情報学領域 船田 千秋
   
   
   
◇ 抄録    
<抄録
   
  特別講演 患者状態適応型パス(PCAPS)の実際
   
名古屋大学医学部附属病院 医療経営管理部  吉田 茂
     
 

 一般産業界における作業工程表としてのクリティカルパスは、医療の世界に導入さ
れて、単に工程表としてのみならず、医療者から患者へ、また医療者間同士のコミュ
ニケーションツールとしての性格を有するクリニカルパス(以下、CPと略)として、
その有用性が高く評価されるに至った。しかし各診療科で導入が進むに連れて、医療
現場ゆえの問題も明らかになってきた。すなわち外科系のように、手術術式および術
後管理という診療工程が、ある程度画一化されており、術後経過という患者状態の変
化が比較的一定している疾患と異なり、内科系のように診断から始まって、まず初期
治療を行い、患者の状態変化を見ながら治療方針を調整していくような疾患の場合に
は、作業工程が複数あり、かつ多様に遷移するため、従来のような単一の時系列を持
つ表形式のCPでは、対処しきれないということである。実際、こうした理由で、内
科、小児科などではCPの導入が遅れているのが現状である。
 この問題を解決するためには、作業工程を分割して、細分化された各工程(ユニッ
ト)毎にCPを作成し、患者状態の変化に合わせて予め用意されたユニット間を移行
しながら最終的なゴール(退院)へと向かう方法がある。しかしながらこの方法を取る
場合、患者の病態変化は多様化性に富んでいるため、紙ベースのCPではその複雑性
に付いていけずに自ずと限界が生じる。
 我々は、平成16年度より厚生労働省の研究助成金を受けた開発研究として、「患者状
態適応型パスシステム」の電子化による診療標準工程を設計する研究に取り組んできた。
演者は、その中でファイルメーカーPRO®という市販データベースソフトを用いた電
子パスシステムを作成したので報告する。
なお、主たる実装・運用は、演者の前所属である神鋼加古川病院小児科にて行った。

   
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DPCとクリニカルパス  DPC導入に向けて

   
四国がんセンター 診療情報管理士 白岡 佳樹
     
 

 四国がんセンターでは、現在およそ80種類のパスを使用し、使用率も約50%程度に
なっている。これらのクリニカルパス作成・変更には、多職種が関わり、よりよいパ
スの作成に取り組んでいる。そんな中で、事務職員が一員として関わり、提案してけ
ることは、保険請求(コスト)の視点から参加することではないかと考えた。
 今年度、四国がんセンターはDPC調査協力病院に参加するが、順当に調査期間が
終了すればDPCでの請求が始まり、大きく請求形態が変化する。これに対応するパ
スの変更も必要となる。
 今回、平成19年1月から3月の間に実際に大腸ポリペクトミーパスを使用した患者の
レセプトを、DPC請求へ置き換えシミュレーションを行った。これを出来高算定と
比較することにより、コストの問題点を見つけ、その改善には何をするべきか、何が
必要なのかを考察した。治療の流れ、検査の内容・量、ジュネリック薬の使用等につ
いて院内で方向性を検討していく必要があり、その検討の結果を反映してパスの変更
も生じてくると考える。
 また、DPC導入によってパスごとの患者負担金額のばらつきが小さくなることに
より、患者用パスに負担金の詳細を掲載することも可能になってくる。

   
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    DPCといかに戦うか?
   
愛媛大学大学院 医学系研究科 教授 石原 謙
     
 

 包括化では、経営意識の切り替えが極めて重要である。今までの出来高払いでは、
診療行為を増やす収入の最大化が最良の経営戦略であった。青天井と揶揄されるが世
界的に比べて決して高い医療費にはなっていない事実があり、単純に患者様のために
最善の治療を志向すれば良かったのである。やる気のある医師や病院は、それなりに
報われた。
 一方、これからのDPC(≒DRG/PPS)に対しては、売上高とともに、コスト最小化の
意識が必須となる。懸念される抑制医療とスレスレの所を進まねばならない。医療上
の最善をつくすことは、経営上のマイナスとなりかねず、モラールの喪失も懸念され
る。1日当たりの定額であるから、最適入院期間のシミュレーションまでもが必要と
なり、在院日数の短縮も単純ではない。
 DPCのコーディング作業と求められる各種帳票のために、出来高時代とは比較に
ならない莫大な事務作業が発生する。
 今、収益が良さそうに見えるDPCは、厚生労働省のいつもの誘導策に過ぎない。
病院毎の調整係数も廃止されることが決定しており、収益的な魅力は全くないと言え
よう。DPCの包括支払いへの連動は中止すべきだ。収益の上がるDPC病名を選択
するため、統計データとしても信頼性を損なうDPCコーディングとなる。DPC適
応病院拡大は、公的医療崩壊の危機に繋がるものだ。本当は、「出来高制度維持」が患
者と病院とこの国の未来を守る。

 DPC導入と推進に関して、次のようなお題目が称えられてきた。世界共通の傷病
名分類を採用する。日本には医療のデータが無いからベンチマーキングで客観比較を
する。これによりムダな医療費を削減する。同時に医療の質を改善する。支払い請求
業務が簡素化する。包括化は世界の趨勢だ。等々。
 では、DPCの導入と推進には、必然性があるのだろうか?日本が学ぶべき成功事
例があるか?医療費(単位医療行為でも医療費総額でも)、医療のプロセス、医療の
アウトカム、透明性、客観データ(情報量は出来高レセでも世界最高水準)、どれも、
先進国水準に照らせば、日本の医療は悪いどころか最高水準である。より焦眉の急は、
医療費不足なのである。
 DPC推進の根拠とされる「医療費が高騰して国家財政がもたない」というのは、
意図的な全くのデマ報道だ。政府が毎年支出(元はといえば税金)する予算は、医療
に約10兆円であるのに対して公共事業には50兆円とも70兆円とも言われた莫大な支出
が続いた。その結果としての800兆円を超す国の負債である。国家財政300兆円の支出
バランスは適切だろうか?「医療費亡国論」は嘘である。DPCの愚かしさとともに
騙されてはいけない。

   
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    当院における大腿骨頸部骨折用地域連携パスの使用状況
   

松山赤十字病院 リハビリテーション科 PT 高岡 達也

     
 

【はじめに】
 当院では、昨年より松山市内の5病院を連携病院として、大腿骨頸部骨折用地域連
携パス(以下、連携パスを)を導入した。ここ一年間に3回の合同情報交換会を開催
し、連携パスも3回の改訂を行った。今回は、この改訂版連携パスを紹介するととも
に、使用状況等を報告する。
【対象及び方法】
 2006年6月1日から2007年5月31日の間に、当院を退院した大腿骨頸部骨折患者130名
を対象とした。①転帰先、転院率 ②連携病院への転院数 ③手術から転院までの期
間 ④当院亜急性期病棟利用率について、調査を行った。
【結果】
 ①130名の転帰は、自宅退院33名(25.4%)、転院88名(68%)、施設8名、死亡1
名であった。
 ②転院患者の内、54名(61.4%)が連携病院へ転院していた。
 ③手術から退院までの期間は、直接転院例では18.2日、亜急性期病棟経由例では
43.6日(亜急性期病棟転科は、18.4日)であった。
 ④亜急性期病棟に転科後に退院となった者は39名(30%)で、自宅退院は20名、
転院は18名(この内13名は連携病院へ)、施設1名であった。
【頸部骨折用地域連携パス(Ver.3.3)の特徴】
 ①転院後の治療計画・目標を連携病院と共有、②受傷前・転院時・連携病院退院
時の患者の活動ランクを明記、③術後リハの進行状況を明記、④転院時の身体機能
・ADL状況を明記 、⑤連携パスは添書の代わりとなる。

   
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    パスの効果的な運用 ~パスと看護記録~
   
兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科 看護情報学領域 船田 千秋
     
   本邦でクリニカルパス(以下、パス)が普及し始めた2000年前後“パス”を知った
多くの看護職は、患者への情報提供やチーム医療の実践、パスに示されていれば医師
の指示を待たなくてもケアを進められる利点など、患者との情報共有(患者用パス)
に伴う良好な反応とあいまって、私たち看護師の心をつかんだ。
 現在は、在院日数短縮や病院機能分化、地域連携の推進、DPC導入など、パスに
期待される側面はますます高まり、パスは施設評価の項目(臨床評価指標)として考
えられている。パスの本当の意義、患者を含めた医療者間での情報共有、医療の標準
化と質保証、スタッフ教育での利点、チーム医療促進etc…などを追及するまもなく、
“作らねばならない、使わねばならない”と、いかにパスを作成・運用するかに追わ
れているように感じる。 
 また、医療政策の改革やICTの発展・普及に伴う世論や患者自身の意識の変化か
ら、われわれ看護職は、『看護』をいかに見せていくか(可視化)を求められている。
 『看護』は、看護記録によってのみ実践の証明がなされるのだが、パスと言う情報
共有ツールの中で、どのように効率的に看護実践を証明し、パスの中に統合・整合さ
せていけばよいのだろうか。
 “標準の医療計画”とされるパスに、看護診断など看護独自の介入はパスで証明で
きるのか、従来の“看護計画”は必要か、もし必要ならどう統合されるのか。
 パスと看護記録の側面から、効果的なパスでの看護記録の運用を考える。
   
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