◇ 抄録 |
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特別講演 |
クリニカルパスと質の管理 |
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済生会熊本病院 副院長 TQMセンター部長 副島 秀久 |
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クリニカルパスの最近の進歩
クリニカルパス(以下パス)は、1980年代にアメリカで開発された疾患管理の
方法で、DRG/PPSの導入後に急速に普及した。日本では1990年代より紹介
され始めたが、インフォームドコンセントや医療の標準化と言った事が主目的であっ
た。パスは在院日数の短縮や経済効果のみが強調され、その医療の質管理といった普
遍的な意義に関してはあまり理解されてない。確かに初期のパスは予定表や指示簿の
域を出なかったが、最近のアウトカム志向のパスは治療の目標管理であり、治療成績
を比較的容易に出すことが出来る。更に標準的な治療の原価計算も容易に算出可能で、
従来のパスのコンセプトとは違った総合医療管理ツールとして発展している。したが
って無駄を省き効率化を行うことで個々の治療プロセスの改善が図られ、結果的に在
院日数が減少していく。すなわち最初に在院日数ありきではなく、退院時アウトカム
達成日が入院期間となるわけで、アウトカムが達成されれば早くても遅くてもかまわ
ない。問題はアウトカムすなわち治療目標を明確に設定しないまま医療が行われる事
と、それをスタッフ間で共有できてない事にある。
医療の質の管理
アウトカムが達成出来ない場合や目標からはずれつつある場合をバリアンスとよび、
患者の個別性が発生しつつある事を意味している。多くのアウトカムのうち、とくに
治療経過に重大な影響のあるアウトカムをクリティカル・インディケータ-とよび、こ
れはすべての医療者が共有すべき重要な目標である。これは経験のある医療者では殆
ど頭の中にある治療上のポイントであるが、紙の上に明示し医療者間で共有しておく
ことが重要である。バリアンスを分析する事で、治療プロセスの中でどのような問題
があったかが明らかになる。すなわちバリアンス分析を行ってエピデンスに基づいた
改善のフィードバックがなされれば、治療成績の向上が期待できる。
こうした質の改善をさらに効果的・持続的に院内全体に波及させるためには様々な
仕掛けが必要であり、パスのみならずTQM活動は今後ますます充実させる事が必要
です。われわれの実践はまだまだ不十分ですが、パスからTQMへ至る経過と質改善
の実際を紹介し、ご批判、ご意見を頂ければと考えております。
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一般演題① |
当院におけるクリニカルパスの導入と今後の課題 |
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愛媛労災病院 クリニカルパス委員会 南條和也 |
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【はじめに】
当院では平成14年2月にクリニカルパス(以下パス)委員会を組織し、パスの導入
活動を行ってきた。そしてさらに、バリアンスの集計、分析を行い、パスの改良も行
ってきた。そこで今回、パスの導入から現在までの経過と現状、今後の課題について
報告する。
【経過と現状】
平成16年5月現在38のパスが作成されている。年次別の作成パス数は平成14年度16、
平成15年度22、平成16年度0であった。パスの使用率は全体で96.1%であった。科別
の使用率は内科29.1%、外科90.6%、循環器科99.6%、眼科99.7%、産婦人科96.5%、
整形外科30.4%であり、内科、整形外科は低く、循環器科、眼科、産婦人科が高かっ
た。なお、腰椎椎間板ヘルニア根治術など使用率の極端に少ないパスや腋臭症手術な
ど使用率0%のパスもあった。院内の職員に対する啓蒙活動としては、パス委員会で
TQM活動発表会を企画し、その中でパスに関する発表を行った。これまで3回開催し、
多数の職員の参加が得られた。バリアンスは現在オールバリアンス方式で集計、分析
を行っている。集計は平成15年4月より開始し、平成16年3月までのバリアンス数は1242
であり、パス適応数の60.5%であった。
そこでバリアンスの分析を行い、眼科、産婦人科のパスの変更を行ったところ、変更
前後のバリアンス数は眼科が適応数の20.8%から12.7%へ、産婦人科が153.2%から
87.5%へと半減した。
【今後の課題】
1)さらにパスの数を増やす。現在統一フォーマットにてパスを作成しているが、違
ったパスも取り入れる。2)内科の使用率を上げる。使用率の低いパスについては、そ
の原因を分析し改良していく。3)学会発表など体外的な活動を積極的に行う。4)バ
リアンスの分析をさらに進める。アウトカムバリアンスも検討する。5)多方面からパ
スの効果について検討する。などが必要であると考えられた。 |
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一般演題② |
婦人科化学療法のオールインワンパスの改善
― パクリタキセル・シスプラチン療法 ― |
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森脇寿奈美1) 上田小須枝1) 中岡初枝1) 高田喜久美1) 野川孝充2)
独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター 看護部1)、婦人科2) |
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【はじめに】
当病院の婦人科では医師と共にパクリタキセル・シスプラチン療法のクリ二カルパ
ス(以下TPパスと略す)作成に取り組み、診療者用TPパスをガントチャート式で
作成した。クリニカルパス管理委員会承認後、32例使用したが有効に活用されていな
いことが多かったため、現在はオールインワンパスを作成し使用している。そこで、
現在使用しているオールインワンパスの問題点を明らかにし改善していくことで、有
効活用できるように日々検討している。
【目的】
TPオールインワンパスの問題点を明らかにし改善点を検討する。
【方法】
TPオールインワンパスを使用した看護師から意見を求め、問題点を提示した。
【結果】
以下の9点を改善した。1.TPパスの使用開始をケモ前日から入院日に変更
2.アウトカムを具体的に表示3.嘔吐時のルーチン指示を変更4.点滴速度の変更
に伴いベナ錠の内服時間を変更5.ジェルコ針留置の明記6.経過記録の記入方法を
変更7.ケモ当日の観察事項であるジェルコ刺入部異常の記入方法の明示8.バリア
ンスシートの回収方法の明確化9.パクリタキセル過敏症出現時の対応方法の明確化、
を行った。
【考察】
パスは流動的なもので常に見直しが必要なため、今後も他部門との連携を図り定期
的に見直し・改善を行っていく必要がある。 |
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一般演題③ |
患者個々のQOLに焦点をあてた糖尿病教育入院クリニカルパス |
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松山赤十字病院 糖尿病医療チーム 看護師 高瀬裕子 |
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【目的】
我々糖尿病医療チーム(医師・外来及び病棟看護師・栄養士・薬剤師・理学療法士・
検査技師)は、それぞれが専門職の立場で情報を最大限に共有し、患者のQOLの向
上を基盤としたアウトカムに個別性を持たせるよう努力している。このようなチーム
医療を充実させるプロセスによって、個別性の対応に向けたクリニカルパス(以下、
パスと略す)を進化させることができたので報告する。
【方法】
1.既存のパスに各科専門医・検査技師を新たに加え、合併症の予防を目的としたパ
スの充実を図った。
2.多職種のスタッフ全員で患者一人ひとりの治療・療養指導を検討するチームカン
ファレンスを毎週開催することとした。
3.個々の患者が行動変容の必要性を認識し、退院後の行動目標を持てるような個人
指導を充実させた。
【結果】
医師が糖尿病の基礎知識を、看護師が日常生活指導を、栄養士・理学療法士・薬剤
師が治療の3本柱食事・運動・薬物療法を、各科専門医が合併症について、検査技師
が入院中施行する検査について担当する。このように数多くの専門職者が、各々の役
割を担い、各々の得た患者の情報を看護師がコーディネートすることによって、それ
ぞれが専門職として患者と向き合えるシステムを作った。その結果、患者に効率的・
計画的で、安心・満足が得られる医療の提供に大きな力を発揮している。 |
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一般演題④ |
当院白内障パス導入におけるチーム医療の推進とその効果 |
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愛媛県立中央病院 山本恵美 |
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当病棟では平成10年6月に眼科医師の異動と増員に伴い,それまで3週間だった白内
障の入院期間が1週間に短縮され、手術件数も大幅に増加した。業務が煩雑化する中で、
医療看護の質の保障は重要であり、その為にはパスの導入が不可欠であると考えた。そ
こで在院日数の短縮、患者満足の向上、医療看護の質の均一化、業務改善を目的に白内障
クリニカルパスへの取り組みを開始した。
導入当初は看護師・医師による取り組みであったが、H11年、院長からパス推進の方
針が示された。その結果医師・看護師に加えて薬剤師・検査技師・医事課からなるチーム
での取り組みが行なわれ、毎月カンファレンスをもつことが出来るようになった。カン
ファレンスでは各部門が専門性を出し合い活発な意見交換を行なうことで、EBMに
基づいたパスの評価修正を行い、在院日数が短縮をできた。また入院費用の概算や一連
のスケジュールの説明を行なう事で、患者満足に繋がったと考える。
パスはスタッフの教育ツールになり、新人からベテランまで均一化したケアができる
ため専門病棟以外でも入院を受け入れる事ができ、また入院期間が決まっているためベ
ッドコントロールが容易であり、有効な空床利用に役立っている。更に医師及びコメディ
カルがパス用紙を共有することで記録時間・情報収集の短縮ができ業務の改善とスタッ
フの満足に繋がった。
今後は、高齢化に伴う転倒転落や服薬管理のアセスメントを現在のパス表にどのよう
に一体化して記録していくのか、検討が必要であると考えている。 |
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一般演題⑤ |
経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)のバリアンス評価と分岐パス作成 |
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独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター
看護部 ○佐伯光子 青木清美 宮内一恵
同泌尿器科 橋根勝義 住吉義光 |
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当泌尿器科では、2003年2月よりTUR-Btの日めくり形式オールインパス
を使用している。2003年2月から8月までにTUR-Btを施行した膀胱癌患者
35名に対してパリアンスを収集し、その内容(正・負、変動・逸脱)について検討、
分岐パスを作成した。
パスからの脱落例は35例中16例に認めたが、そのうち10例は病理組織検査の
結果術後追加治療(BCG膀注)が必要となり脱落した。残りの6例は、腎孟癌から
の再発で追加検査が必要2例、他の重複癌3例、腫瘍が大きく再手術が必要1例であっ
た。逸脱は血尿が持続した1例、穿孔のためバルン抜去までに1週間を要した1例で
あった。変動の多くは術後1日目のシャワー浴で、実施した人はほとんどなかった。
その他の変動は、前日入院でなかったもの、追加検査がなされたもの、合併症のため
に点滴などが変更になったもの、血尿を認めたものであった。またバリアンスはすべ
て負で正のバリアンスはなかった。
バリアンスの分析結果から術後の追加治療の多くは膀注療法であるため、BCG膀
注の分岐パスの作成をした。 |
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