第1回 愛媛クリニカルパス研究会大会
 
  『 愛媛県内の入院施設を持つ医療機関におけるクリニカルパスの普及と整備 』
 
◇ 抄録一覧
特別講演Ⅰ 「パス導入による病院の進化 ~チーム医療の実践~」 函館五稜郭病院 外科科長 岡田 晋吾
特別講演Ⅱ 「特定機能病院の包括評価と愛媛大学の対応」 愛媛大学医学部 医療情報部 助教授 立石 憲彦
「松山赤十字病院におけるクリニカルパス運用の実際」 松山赤十字病院 山口 育子 ・ 吉岡 雄一
「県立中央病院におけるクリニカルパスへの取り組みの現状と課題」 愛媛県立中央病院 重見 ゆかり
「クリニカルパス導入における患者・職員への効果と問題点」 済生会今治病院 福本 和枝
「クリニカルパスの作成と運営」 ―現状と問題点―宇和島社会保険病院  看護係長 谷口 由里
「包括評価制度とクリニカルパス」愛媛大学医学部附属病院 医療情報部  増田 晶子
「四国がんセンターにおけるクリニカルパス作成・運用の現状と今後の課題」 国立病院四国がんセンター 看護部 宮内 一恵
   

◇ 抄録
   
 
特別講演 I
パス導入による病院の進化 ~チーム医療の実践~ 
           
函館五稜郭病院 外科科長  岡田 晋吾
     
   当院においてクリニカルパス(以下バス)は、看護部主導で6年ほど前に導入されま
した。一部の科では積極的に作成されましたが、ほとんどの科では使用されませんで
した。その後病院機能評価受審や急性期病院を目指す必要性が認識され、4年ほど前
に院長命令でパス委員会が設置され、病院の方針としてパスが積極的に作成されるこ
とになりました。パスを推進する上で病院トップの理解、後押しは重要と思われます。
パスは①自分たちの今行っている診療を書いたパス、②診療行為が標準化されたパス、
③エビデンスを取り入れたパス、④アウトカム(臨床指標など)から検討されたパス、
(⑤電子化されたパス)へと進化していきます。またパスを作成・使用・評価する過
程で、さまざまなことについて各職種で議論することが可能になり、チーム医療につ
いて理解が進むことになります。当院では褥瘡対策(スキンケアチーム)、NST(Nut
rition Support Team)などの連携においてもパスを作成し、使用することで、チーム
医療を実践しやすいシステムを構築しています。また、パス大会においては、科を越
えての医師同士の議論や、また各職種の専門性が生かされた討論が可能になり、病院
全体のリスクマネジメントや、質の向上に役立っています。米国と同じように、日本
においても当初パスは、包括医療対策・在院日数短縮などの目的で導入されましたが、
使用しているうちに日本独自の進化をとげ、EBMの実践、コメディカルのモチベー
ション向上・リスクマネジメント効果などが認められ、最終的には病院の医療の質の
向上や保障につながるツールとして、現在の医療において必要不可欠なものとなりつ
つあります。また当院では、クリニカルインディケーター(臨床指標)を用いた病院間
のベンチマーク事業に参加すべく、診療情報室を中心にデータを出せる体制を構築し
つつあり、パス導入による職員の医療に対する考え方の成果が出始めています。今回
は当院におけるパス導入の過程とそれに伴う病院の変化についてご紹介できればと考
えています。
   
↑ TOP
 
特別講演 Ⅱ
特定機能病院の包括評価と愛媛大学の対応
   
愛媛大学医学部  医療情報部  助教授   立石 憲彦
   
 

1.はじめに
 本年4月特定機能病院に包括評価制度が導入された。この制度は従来の出来高制度
とは大きく異なり、医療に与える影響は非常に大きい。愛媛大学では7月から包括評
価制度に対応し、これまで診療をおこなってきた。

2.包括医療制度
 この制度は、診断群分類(DPC、Diagnosis Procedure Combination)に基づき、
予め定められた診療報酬が支払われる。そのために、従来の出来高制度とは異なり、
濃厚な治療をすればするほど、病院にとっては不利益になる制度である。無駄な医療
を防ぐという効果と、保険上認められなかった診療行為も裁量でおこなうことが出来
るというメリットはあるが、包括評価制度は医療費抑制のための手段であるというこ
とは忘れてはならない。今回の包括評価制度の特徴は(1)-日当たりの点数として
提示されていること(2)医療機関別係数があること(3)在院日数によって点数が傾
斜となっていることがあげられる。在院日数によって傾斜点数となっていることで在
院日数の短縮効果を図っている。

3.愛媛大学における包括評価制度導入の結果
 愛媛大学で包括評価制度での支払いと、従来の出来高で算定をおこなった場合を比
較すると、ほとんどは10%以内におさまっていたが、一部では大きな乖離が見られ一
部の症例では30万点以上の差もあった。この乖離の原因は、(1)不適切な病名
(2)病名の入力不備(3)処置の入力不備(4)診断に比べ濃厚な治療をおこなった
場合、等があげられた。

4.最後に
 包括評価制度導入の目的である“良質で効率的な医療”を実現するためには、病院
毎にデータを分析し、絶えず医療内容を見直すとともに、医療従事者の意識改革を進
めることが重要である。包括評価制度を公的病院にも広げようとする動きもある。こ
の制度に対応し、必要な報酬を得ることが出来るよう、対応することは病院にとって
必須のことである。

   
↑ TOP
 
松山赤十字病院におけるクリニカルパス運用の実際
 

  松山赤十字病院  山口 育子 ・ 吉岡 雄一

     
 

 医療の高度化と複雑化、慢性疾患の増加、高齢社会の進行に伴い、より効率的・計
画的で、なおかつ患者さんのQOL向上を重視した医療のあり方が模索されている。
その中でクリニカルパスは、適切で・効率がよく・有効性の高い医療を提供する方法
として多くの病院で採用されている。当院のクリニカルパスの導入は、現場から病院
へと展開した。まず平成11年度各職場において、職員の一人一人がクリニカルパスを
当該科で使用した場合の有効性を検討し、納得した上でクリニカルパスの導入を開始
した。また医師・看護師・コメディカル等が協力して作成する事の必要性を認識した。
このように、クリニカルパスの作成・使用・評価は、現場主導でおこなってきた。次
に病院では、平成12年12月にクリニカルパス推進委員会を発足させ、そこで当院のク
リニカルパス導入の目的を、①チーム医療の推進②医療内容の標準化、③インフォー
ムド・コンセント、の充実とした。クリニカルパス推進委員会は、パス作成の支援、
パス作成・運用の現状調査、パス大会の開催、パス使用状況調査、職員の意識調査、
患者満足度調査等を行い推進のための環境整備に務めた。現場と病院(クリニカルパス
推進委員会)が各々の役割を認識し果たすことにより、当院においてクリニカルパス
がスムーズに普及したと考える。その結果、平成5年10月現在、当院のクリニカルパ
スとして、86種類のパス(患者用80、スタッフ用66)が登録されている。
 クリニカルバスを当院に導入してはや3年が経過した。今後はパス使用状況の定期
的な把握による使用率のアップ、バリアンスの分析・評価による継続的改善、さらに
は、リアルタイムな患者満足度の把握と是正を行い、患者中心の質の高い医療が提供
出来るよう取り組んでいきたい。
 今回、当院におけるクリニカルパス導入の経緯、運用の実際を報告することにより、
愛媛県内の医療機関においての相互啓発の一環としたい。

   
↑ TOP
 
県立中央病院におけるクリニカルパスへの取り組みの現状と課題
 
愛媛県立中央病院 重見 ゆかり
   
 

【はじめに】
 当院では平成11年4月、厚労省の指針を踏まえ医療・看護の質向上、質の均一化を
図る為に、クリニカルパス(以下CPとする)の導入が必要であるとの考えから、準備
段階として看護部内にCP研究会を発足させた。その後、平成13年4月、院内にCP
検討委員会が設置され、チーム医療としての活動が開始された。現在62のCPが稼働
している。

【これまでの経過】
 平成11年4月に発足した看護部CP研究会の取り組みとしては、まずCPについて
の看護師の知識の統一を図る為に、看護師対象にCPの研修会(院外講師による講演
と作成の実際)を実施し、教育を行った。またCP委員による基礎的な勉強会を行う
と共に、CPを作成・導入している部署による発表会を行い知識の統一、向上を図っ
た。更に、看議部研究会によるパス作成の指導を行うことで作成の件数は年々増加し
ている。平成13年4月には、院内にCP検討委員会が設置され、チーム医療としての
活動が開始された。院内CP検討委員会では、月1回委員会を開催して、CPの作成
状況の把握、及び各部署で作成されているCPの審議と検討を行なっている。CP導
入の効果としては、在院日数の短縮とスタッフ教育や、空床の一元化に対するスタッ
フの不安の軽減が挙げられる。

【今後の課題】
 当院におけるCP導入は、看護部から発信したものであるが、CP作成の過程にお
い、医師の参加と協力は必須であり、病院全体で取り組む必要がある。しかし、現在
当院においては病院全体の協力と理解を得られているとは言えず、CP検討委員会の
今後の活動が重要であると考える。現在、院内で62のCPが稼働しているが、今後
の課題はパスの評価を行ない質を高めること、病院全体としての取り組みを強化する
事、そしてIT化に向けての対応である。

   
↑ TOP
 
クリニカルパス導入における患者・職員への効果と問題点
   
済生会今治病院 福本 和枝
   
 

 当院は平成12 年9月から医師・看護師・コメディカルからなる「クリニカルパス委
員会」を発足し、平成15年10月現在約75のクリニカルパス(以下パスと略す)を作成、
運用している。
 昨年(平成14 年10 月)、パスの運用状況・効果・問題点を把握するために、医師・
看護師・コメディカルにアンケートを行った。
アンケート内容は、①インフォームド・コンセント ②患者満足度 ③業務効率  
④医療の質 ⑤業務基順・教育ツール ⑥他職種との連携 ⑦医師の裁量権や自立性、
定型化に伴う弊害 ⑧パスの目的と重要度 ⑨自由記述とした。
 アンケート結果から、パスを使っての患者へのインフォームド・コンセントは、有
用であると約半数の職員が思っている。しかし、「患者の満足度が向上した」が全体
で28%、「医療の質」が良くなったが23%であった。これは、「適切にコーディネー
トされたケア提供・患者にとって治療の全体像が把握できる」というパスの特徴を職
員が理解していないことが、原因のひとつと思われる。また職務満足にも悪い影響を
あたえていると考える。医療は専門職のチームによって、提供されるサービスである。
従ってパスを作成・運用していく過程では、各自が役割を認識し自信をもってケアに
あたることが重要である。この他自由記述式の意見として、「パス作成のためにプラ
イベートな時間をさかれ、負担が大きい」とあった。
 今後の当院の課題としては、
  1.パスの必要性を職員が今一度理解し、意思統一を図る。
  2.情報の共有化を図り各自が役割を認識し、責任を持ったケアを提供する。
  3.1部のスタッフのみに負担がかからないようにし、無理のないペースで携わる
ことである。

   
↑ TOP
 
クリニカルパスの作成と運営  ―現状と問題点―
   
宇和島社会保険病院  看護係長 谷口 由里
 

 当院は診療科目7科、病床数200床、在院日数21日、看護体制2:1をとり、
健康管理センター、介護老人保健施設の併設施設を備えた一般病院です。
 平成12年9月、本院にて東京医科歯科大学保健衛生学科助教授阿部俊子先生を
講師に招き、「みんなでつくろうクリニカルパス」をテーマに研修会を開催しました。
院長、副院長をはじめ、各科の医師、看護師、薬剤師、リハビリ栄養科、検査部で
グループワークし、実際にクリニカルパス(胃ろう硬膜外ブロック大腿骨頚部骨折
・気管支鏡検査・急性心筋梗塞・ラパ胆)を作成しました。
 当初I CU室を中心に、クリニカルパスが作成され使用されていましたが、現在
29のクリニカルパスが作成され各部署で使用されています。実際に使用し、長所
と感じていることとして、ケアの統一がはかれたなど聞かれていますが、さまざま
な問題が発生しています。

 今回 1)クリニカルパスの導入の経緯
     2)クリニカルパス作成の実際
     3)クリニカルパス運用と今後の課題

についてまとめ報告したいと思います。

   
↑ TOP
 
包括評価制度とクリニカルパス
   
愛媛大学医学部附属病院 医療情報部  増田 晶子
 

1.はじめに
本年4月、特定機能病院に包括評価制度が導入され、愛媛大学では7月から包括評価
制度に対応し、これまで診療をおこなってきた。この間の対応で、包括評価制度に対
してとるべき対応方法と、クリニカルパスの有用性について概説する。

2.包括医療制度
この制度は濃厚な治療をすればするほど、病院にとっては不利益になる制度である。
そのために、診断群に従った適切な医療をおこなうことが病院には求められる。また、
入院日数により包括の点数が変化するために同じ治療をおこなうのなら、入院期間が
短いほど有利に働くようになっている。そのため入院して出来るだけ早い段階で診断
群を決定し、出来れば入院前に決定し診断群に従った適切な治療をおこなっていくこ
とが必要である。
愛媛大学において、包括評価制度での支払いと従来の出来高で算定をおこなった場合
を比較すると、一部では大きな乖離が見られ、一部の症例では30万点以上の差もあ
った。この乖離の原因は、i)不適切な病名、ⅱ)病名の入力不備、ⅲ)処置の入力不
備、ⅳ)診断に比べ濃厚な治療をおこなった場合、等があげられた。

3.病院側の対策とクリニカルパス
包括評価制度に対するために(1)適切な診断群を選択すること、(2)入院期間の短
縮を図ること、(3)診断群に従った適切な医療行為を選択することが病院には求めら
れる。適切な診断群の選択は適切な病名を選択することであり、医事課や診療録管理
士による診断群の見直しと訂正は、病院の診療報酬を適切に得るためにも大切な作業
であることが明らかになっている。また、包括評価制度では早期の退院が求められる。
入院時からクリニカルパスを提示し、どのような状態になったら退院になるのかとい
うことを示すことで、患者にも医療従事者にとってもスムーズな退院をおこなうこと
が出来る。さらに、クリニカルパスは適切な医療行為を無駄なく効率よくおこなうこ
とが出来る。

   
↑ TOP
 

四国がんセンターにおける クリニカルパス作成・運用の現状と今後の課題

   
国立病院四国がんセンター 看護部 宮内 一恵
 

 当院では1999年よりインフォームド・コンセント(以下I・Cと略す)の充実
と、標準医療の実施を目的に、パスの作成運用が開始された。2001年に院内にク
リカルパス委員会(以下ワーキンググループ)が発足し、病院全体としてパスに取り
組むようになり、各ワーキンググループが自由にパスを作成している。2002年か
らパス管理委員会(以下管理委員会)が発足し、この管理委員会で承認を得て運用が
開始される。現在、作成・承認されているパスは、乳癌・胃癌・大腸癌・肺癌・前立
腺癌・膀胱癌・子宮癌など、約50種類である。診療用はフローチャート式のパスが
大半であったが、2001年4月にパスが院内の公式な記録として認められ、記録の
重複を避けること・医療チームの共有の記録となること・情報の共有ができることを
目指して、現在はオールインワンパスや院内連携パスに向けて改善が進んでいる。ま
た、患者用パスは作成当初からI・Cの充実を目標に作成し、パンフレット形式のパ
スを用いているが、フローチャート形式のバスを用いても、オリエンテーションや患
者指導を有効にパスに取り入れ、I・Cの取得や情報提供に活用している。また医療
分野のIT化が進み、当院でも作成された患者用パスは、ホームページで一般公開し
情報提供のツールとしている。
 今後は患者を含めたチーム医療としての情報の共有と記録、患者のカルテという視
点でのパスの再考(I・Cの充実と情報の提供、共有)、IT化に伴うパスの整備が必
要となってくる。さらにパスの効果的な作成・運用には、医師・看議師だけでなく病
院全体の医療スタッフ間、また患者を含めた医療チームの情報共有とコミュニケーシ
ョンが必要不可欠ではないかと考えている。

   
↑ TOP