慢性骨髄単球性白血病の一例

坂下厚生総合病院 内科 ○江川雅巳 上野修一
竹田綜合病院 病理科  赤池 康

はじめに

 骨髄異形成症候群(MDS:myelodysplastic syndrome)では,骨髄中の細胞が増殖している例が多いが,むしろ減少している例もあり,そのような症例では診断が困難となる.

最近我々は不明熱で発症し,剖検により慢性骨髄単球性白血病(CMMoL:Chronic myelomonocytic leukemia)と診断し得た一例を経験したので,報告する.

症例

症例

 82才,男性.農業.

既往歴

 70才から便秘症.輸血歴なし.

家族歴

 特記すべきことなし.

現病歴

 平成4年4月26日,下腹部膨満感が出現し,4月30日当科を受診.
体温36.1℃.軽度の脾腫以外に異常所見を認めず,血液検査後帰宅した.

同日から発熱し,全身倦怠感が出現したため,5月4日再受診.
汎血球減少症であることが判明し,入院した.

入院時現症

 血圧124/61mmHg,体温38.7℃.左側腹部叩打痛を訴えた.
腹部超音波検査で軽度の脾腫以外特記すべき所見なし.
皮下出血や歯肉腫脹はなかった.

入院時一般検査成績

末梢血液所見:
 汎血球減少があったものの,芽球を認めず,単球数はと正常であった.

血液生化学検査:
 低蛋白血,低コレステロール血および軽度の肝障害を認めた.

動脈血酸塩基平衡検査:
 呼吸性アルカローシスを認めた.

尿検査:
 血・膿尿を認めたが,喀痰,尿および血液培養は陰性であった.

好中球アルカリフォスファターゼ,血中・尿中リゾチーム活性測定,末梢血染色体検査およびEBウイルス抗体価測定は行わなかった.

骨髄所見:
 有核細胞数 42,250/mm3,巨核球数 31.25/mm3.
 大きくて核小体のはっきりした,異型な単球系細胞と,幼若顆粒球系細胞が目立ち,異型な骨髄巨核球が散見された.
 細胞数はやや減少していた.
 この所見からは,積極的に白血病を考えられなかった.

入院後経過

 不明熱に数種類の抗生物質およびγ-グロブリン製剤を投与し,貧血と血小板減少に輸血を行った.
4日目,GPT 169 U/L,LDH 1475 U/LおよびAl-P 540 U/Lと,胆道系酵素上昇を伴う肝障害が出現し,播種性血管内凝固症候群(DIC)も併発したため,蛋白分解酵素阻害剤,ヘパリンおよびアンチトロンビンV製剤を投与した.
9日目,GPT 235 U/L,LDH 4329 U/L,Al-P 540 U/LおよびT.Bil 8.84 mg/dlと肝障害は改善せず,腎不全および呼吸不全となり,気管内挿管下にPEEP 10cmH2Oの補助呼吸を開始し,GIK療法およびカテコラミン・ステロイド療法を併用したが,入院11日目に死亡した.

剖検所見

@異型単球系細胞の浸潤を,肝,脾,肺および後腹膜軟部組織に認めた.

A胆汁性ネフローゼと良性腎硬化症を認めた.

B両胸水貯留,沈下性肺炎および圧迫性無気肺を認めた.

C慢性膵炎を認めた.

D諸臓器の鬱血,水腫および腹水を認めた.

考案

 CMMoLは,FAB分類でMDSの一型に分類され,その特徴は,骨髄および末梢血単球数の増加と他の血球の減少,骨髄で顆粒球系,赤芽球系および巨核球系の血球形態の種々の形態異常(無効造血),芽球の増加が著しくないことがあげられる.
急性白血病と異なり,骨髄で細胞増殖が認められないこともしばしばあり,このような例では診断が困難となる.
単球による皮膚,肺,消化管,中枢神経などへの易浸潤性はしばしば報告され1-5),急性転化した場合,より高頻度に髄外浸潤するという6).

 今回我々が経験した症例では,末梢血単球数の増加を認めなかったが,諸臓器に異型単球様細胞が浸潤していたこと,汎血球減少があり,骨髄に異型巨核球が散見されたことなどからCMMoLと診断した.
本症と鑑別すべき疾患のひとつに悪性組織球症が挙げられるが,本例では,単球様細胞が血球を貧食する像をほとんど認めなかったことと,骨髄に巨核球系の異形成を認めたことなどから,否定した.

 CMMoLは高齢者に多く,慢性骨髄性白血病の様に急性転化を起こしやすく,急性転化後の平均生存期間が3ヶ月以内7)と,極めて予後不良な疾患である.
しかし,適切な化学療法により,長期生存する症例も報告されている8-10).
今回我々が経験した症例では,剖検時 Glisson鞘および類洞内への著明な白血病細胞浸潤による肝組織の破壊があり,このための肝不全と胆汁性ネフローゼが死因となったと考えられるので,化学療法により救命できた可能性は低いが,臓器浸潤の乏しい症例では,積極的に化学療法を行うべきであろう.

 我々の症例は,不明熱と汎血球減少で発症し,骨髄穿刺検査で芽球の増加を認めなかったことから,当初は一般的な感染症による敗血症を疑い,病態把握が困難となった.
本例の様に,高齢男性が不明熱と汎血球減少で来院した場合,CMMoL などの,臓器浸潤しやすい白血病である可能性も念頭において,治療にあたらなければならないと考える.

結語

 慢性骨髄単球性白血病の一剖検例を報告した.

 本例では異型単球系細胞の浸潤を,肝,脾,肺および後腹膜軟部組織に認め,極めて急性の経過をたどった.

 高齢男性が汎血球減少で来院した場合,CMMoLなどの,臓器浸潤しやすい白血病である可能性も念頭において,治療にあたらなければならない.

文献

1)Duguid JkM et al:Skin infiltration assosiated with chronic myelomonocytic leukemia.Br J Haematol 53:257-264,1983.

2)高橋徹ほか:著明な白血球増多にともなって急性呼吸不全をきたしたCMMoLの1剖検例.臨床血液,28:1593-1598,1987.

3)真田功ほか:Panniculitisを初発症状とした慢性骨髄単球性白血病.臨床血液,26:2004-2008,1985.

4)熊川寿郎ほか:広範囲に消化管浸潤がみられた慢性骨髄単球性白血病の1例.第25回臨床血液学会総会抄録集:248,1983.

5)大野陽一郎ほか:慢性期に中枢神経浸潤をきたした慢性骨髄単球性白血病の1剖検例.臨床血液,29:901-906,1988.

6)藤沢信ほか:慢性骨髄単球性白血病9例の臨床検討.神奈川医学会雑誌,19:15-19,1992.

7)手島博文,正岡徹:慢性骨髄単球性白血病とその急性転化.臨科学,24:467,1988.

8)塚田順一ほか:BH-AC少量療法が奏効したchronic myelomonocytic leukemia急性転化の1例.臨床血液,30(1):61−66,1989.

9)倉田寛一ほか:急性転化で発症したと考えられる慢性骨髄単球性白血病の長期生存例.臨床血液,31(1):41−45,1990.

10)牧野虎彦ほか:VDS-P療法が奏効したChronic myelomonocytic leukemia(CMMoL)の1例.IRYO,46(3):215,1992.


1995/07/26 記