日本動物心理学会 第76回大会
日本動物心理学会第76回大会公開シンポジウム
身近な動物たちのコミュニケーション研究最前線

当日頂いたご質問への回答:以下の各ファイルをご覧ください

第1部講演1: 山田弘司 「あかちゃんウシにも性格の違いが」
第1部講演2: 武田浩平 「タンチョウにおける身体的コミュニケーション:ダンスの不思議」
第1部講演3: 伊澤栄一 「カラスのコミュニケーション:見る・聞く・触れる」
第1部講演4: 齋藤慈子 「ネコとヒトとのコミュニケーション」
第2部講演1: 菊水健史 「オキシトシンによるヒトとイヌの関係性の構築」
第2部講演3: 山本真也 「「おすそわけ」の起源:ボノボにおけるコミュニケーションとしての食物分配」

日時:2016年11月23日(水)

第1部: 北海道の動物たちを科学する(13:30~15:30)
第2部: 伴侶動物と進化の隣人を科学する(16:00~18:00)

場所:札幌市北区北8条西5丁目 北海道大学 学術交流会館 2F講堂

(北海道大学の正門を入ってすぐ左側です。地図はこちら

企画主旨

あなたは友人に向かって,「どうしたの,何かあったの」などと言葉をかけることがないでしょうか。この何気ない会話には,相手の心の内を読み取り,悩みや心配ごとに共感して寄り添おうとする高度な心の働きが関わっているのです。人間同士が心と心を通い合わせるプロセスは,コミュニケーションと呼ばれています。

コミュニケーションに関わる心の働きは,いつどのようにして人間に備わったのでしょうか。なぜ人間はこれほど複雑なコミュニケーションを発達させたのでしょうか。この疑問に答える方法の一つは,人間以外の動物たちの心の働きを研究し,人間と比較してどのような点が共通し,どのような点が異なるのかを解明することです。

そこで本シンポジウムでは,身近な動物たちのコミュニケーションにスポットを当てることにしました。開催地である北海道になじみの深いウシ,ウマ,タンチョウ,身近な野生動物であるカラス,ペットのイヌやネコ,類人猿のチンパンジーとボノボを取り上げます。彼らが仲間同士や人間とのコミュニケーション場面で,どのように相手の心の内を読み取りながらふるまうのか,最前線の研究成果を紹介します。

このシンポジウムを通して,動物たちの豊かで高度な心の働きを知っていただくことが第一の目的です。この気づきが動物たちと仲良くなるうえで有益になると期待しています。第二の目的はコミュニケーションの役割を考えていただくことです。世界中のいたるところで紛争が続き,多くの人が傷ついています。話し合いによる解決が求められていますが,これはまさにコミュニケーションの問題です。動物たちはコミュニケーションを通して,どのように相手の心を思い量り自己主張しているのでしょうか。どのように争いを避けて共存しているのでしょうか。その答えを求めて,これからの人生のヒントにしていただけたら幸いです。

◆この公開シンポジウムは,平成28年度日本学術振興会科学研究費補助金 研究成果公開発表(B)16HP0007の助成を受けたものです。
◆第2部「伴侶動物と進化の隣人を科学する」は,文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「認知的インタラクションデザイン学:意思疎通のモデル論的理解と人工物設計への応用(26118001): B01班 人=動物インタラクションにおける行動動態の分析と認知モデル化(26118004)」との共同開催です。

第1部 北海道の動物たちを科学する

北海道に関わりのある動物や身近な動物のコミュニケーションについて,最新の研究成果を提供いたします。
司会:瀧本彩加(北海道大学大学院文学研究科・准教授)

講演1「あかちゃんウシにも性格の違いが」

講演者プロフィール:

氏名
山田弘司
現職
酪農学園大学 循環農学類・教授
学位
博士(農学)
最終学歴
北海道大学大学院 文学研究科博士課程満期退学

山田弘司

発表要旨:

人に性格の違いがあるように,ウシにも性格があります。人やトラクターが近づくと後ずさりする”びびり”なウシがいる一方で,寄ってきて鼻先で触ってくる”人なつこい”ウシもいます。このような個性は,生まれつきなのか,それとも,それまでの”人生”の中で身についたものなのか。この疑問を解くために,人生経験がほとんどない,生後1週間のあかちゃんのホルスタイン100頭を対象に,性格検査の実験を行いました。3種類試した実験の中で,うまくいったのは,声を出して動く犬のおもちゃを見せ,いやがるか,近づいてくるかを見るものでした。この新規刺激に対する”接近”,”回避”行動傾向の違いは,人でも動物でも性格のもっとも重要な要素です。この実験を1週齢,2週齢,4週齢の3回繰り返して,いつも同じ行動傾向があるか,分析しました。その結果,一貫性を表す相関係数が0.44を示し,この種の実験としては十分な一貫性が見られました。

講演2「タンチョウにおける身体的コミュニケーション:ダンスの不思議」

講演者プロフィール:

氏名
武田浩平
現職
総合研究大学院大学 先導科学研究科・特別研究員
学位
博士(理学)
最終学歴
総合研究大学院大学 先導科学研究科博士課程修了

武田浩平

発表要旨:

これまでのコミュニケーションに関する研究は,鳥類の求愛歌など,音声や形態のような単純な指標で定量化できるものが中心でした。一方,鳥類のダンスなど,身体的動作(ディスプレイ)で構成される信号は,信号を単純な指標で表すことが難しく,記述されるに留まってきました。タンチョウは,多様なディスプレイを使うので,身体的コミュニケーションに関する研究に適しています。私は,タンチョウのつがいが行うダンス(つがいダンス)を主な対象にして,その特徴と機能を定量的に調べました。その結果,ダンスの行動要素の順番に規則性があること,ダンスの同調性がつがいの繁殖成功と負の関係性にあることなどを明らかにしました。本発表では,これらの新しい知見を具体的に紹介して,動物におけるコミュニケーションの複雑な仕組みを議論していきたいと考えています。

講演3「カラスのコミュニケーション:見る・聞く・触れる」

講演者プロフィール:

氏名
伊澤栄一
現職
慶應義塾大学 文学部・准教授
学位
博士(農学)
最終学歴
名古屋大学大学院 生命農学研究科博士課程修了

伊澤栄一

発表要旨:

カラスは,北海道はもちろん,日本中どこでも日常的に見かける身近な動物です。カラスは神話をはじめ唄や絵画にもしばしば登場することから,私たち人間と付き合いの長い動物です。しかし,カラスがどのように他個体を認識し,どのような関係を築き,その中で,どのように振る舞っているのかというコミュニケーションについては,近年になってようやく明らかになりつつあります。カラスは,音声や視覚的ディスプレイ,あるいは,相手の体に直接触れる羽づくろいなどの様々な方法で,想像以上に(想像通り?)複雑なコミュニケーションをしていることが最新の研究から明らかになってきました。シンポジウムでは,このようなカラスのコミュニケーションを通して,動物の社会的なくらしと行動との関わりについてご紹介します。

講演4「ネコとヒトとのコミュニケーション」

講演者プロフィール:

氏名
齋藤慈子
現職
武蔵野大学 教育学部・講師
学位
博士(学術)
最終学歴
東京大学大学院 総合文化研究科博士課程修了

齋藤慈子

発表要旨:

ネコはイヌとならび,最も身近な動物です。しかし,ヒトとコミュニケーションを積極的にとるイヌとは異なり,ネコの気持ちはわかりにくい,ネコはヒトのいうことをきいてくれない,ヒトのことをわかってくれないと思い,ネコを敬遠する人もいるかもしれません。一方で,そんなネコのミステリアスなところ,ツレないところが魅力的だという人もいるでしょう。そこでまず,なぜネコの行動はわかりづらくツレないのかを,ネコとヒトの共存の歴史から説明します。またネコがヒトとの共存の中で,進化させてきた行動や特性についてもお話します。最後に,ネコがヒトのことをどのくらいわかっているのか,いわゆるネコの対ヒト社会的認知能力について,実証的な研究により明らかになってきていることを紹介します。ネコが好きな人にも好きでない人にも,ネコもヒトのことを意外と(?)わかっていることをわかってもらえればと思います。

第2部 伴侶動物と進化の隣人を科学する

身近な伴侶動物や人間と同じ霊長類のコミュニケーションについて,最新の研究成果を提供いたします。
司会:瀧本彩加(北海道大学大学院文学研究科・准教授)

講演1「オキシトシンによるヒトとイヌの関係性の構築」

講演者プロフィール:

氏名
菊水健史
現職
麻布大学 獣医学部・教授
学位
博士(獣医学)
最終学歴
東京大学 農学部獣医学科卒業

菊水健史

発表要旨:

進化の過程で生物は様々な適応的発達を遂げてきた。その過程において生き残りをかけた競争の原理が働いていてきたことは想像に難くない。しかし、上述したように哺乳類は同時に、群れのメンバーが弱者を守り、仲間の存在によってストレスが軽減するような、親和的な神経・行動システムも発達させてきた。ペプチドホルモンの一種であるオキシトシンは乳汁射出などに作用するが、ラットやヒツジにおいて社会的シグナルの認知や養育行動の発現にオキシトシン神経系の活性化が伴うことが知られており、生物学的絆形成の中心的役割を担うと考えられる。これらの知見からも、母仔間の社会的シグナルの受容・認知メカニズムや、オキシトシンの機能解明は哺乳類の絆形成のメカニズムやその意義を探る上で極めて有用である。オキシトシンは親和行動を増し、またその親和行動をうけることで相手のオキシトシンが上昇する。いわば母子間の相互的やりとりは、オキシトシンを介した、ポジティブループの形成ともいえるだろう。このオキシトシンを介したポジティブループは個体間の関係性のみならず、次世代へと伝承されることも明らかとなってきた。今回、ヒトとイヌのような異種間の絆形成におけるオキシトシンの作用に関して、紹介する。

講演2「ヒトはどこまでウマに語りかけられるか
ウマによるヒトシグナルの受容と行動変容」

講演者プロフィール:

氏名
澤 幸祐
現職
専修大学 人間科学部心理学科・教授
学位
博士(心理学)
最終学歴
関西学院大学 文学研究科心理学専攻博士後期課程修了

澤 幸祐

発表要旨:

ウマは5500年ほど前に家畜化された動物であり,現代社会においても競馬や馬術競技,乗馬などに用いられるなどヒトにとって身近な動物種のひとつです。こうした使役動物としての用途のためには,ヒトの要求に対してウマが適切に反応すること,またウマの反応を観察してヒトが適切に指示を出すことが必要です。今回の発表では,ヒトとウマの間の双方向的情報伝達のメカニズムに迫る一歩として,ヒトの出す様々な刺激をウマがどのように受容し,行動変容につなげているかを紹介します。三項随伴性の観点からは,行動変容のためには適切な先行刺激(弁別刺激)と後続刺激(強化子)が必要ですが,ヒトによる”愛撫”がウマにとって強化特性を持ちうるか,またヒトの出す音声や手綱による先行刺激提示がウマの行動変容に対してどのような役割を果たしているかに関する実験結果を報告します。

講演3「「おすそわけ」の起源:ボノボにおける
コミュニケーションとしての食物分配」

講演者プロフィール:

氏名
山本真也
現職
神戸大学大学院 国際文化学研究科・准教授
学位
博士(理学)
最終学歴
京都大学大学院 理学研究科博士後期過程修了

山本真也

発表要旨:

利他行動とは,他者を利する行動です。なぜ自分が損をしてまで他者の利益となる行動をとるのか,コスト・ベネフィットの観点から多数の研究がおこなわれてきました。しかし本発表では,この利他行動をコミュニケーションの視点から見つめなおします。注目するのはボノボの食物分配です。進化の隣人であるボノボやチンパンジーは,ヒト同様,食べ物を仲間と分け合います。しかし,チンパンジーが貴重な肉を分配するのに対し,ボノボはありふれた果物を分け合うことがあります。ここでは与え手から受け手に視点を変え,なぜありふれた果物を他者からわざわざ分けてもらうのかという視点から,食物を介したコミュニケーションについて考えてみます。ヒトは「おすそわけ」によって近隣の人々と関係を築き,維持します。そのような機能,つまり栄養の授受という側面を超えた社会的な絆を形成する機能がボノボの食物分配にはあるのかもしれません。ボノボ・チンパンジー・ヒトという3種の比較を通し,協力社会の進化について考察します。


指定討論者プロフィール:

氏名
鮫島和行
現職
玉川大学 脳科学研究所・教授
学位
博士(工学)
最終学歴
東京農工大学大学院 博士課程修了

鮫島和行

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