日本大学医学部附属練馬光が丘病院における       東洋医学実践の状況についての報告                               訪問日:平成7年4月3日 1.はじめに  日本大学医学部附属練馬光が丘病院では、一昨年(平成5年)9月より、東洋医学専門外来を開設し、中国人医師(中西医)による漢方医療を実践している。今回、この診療部を訪問・取材させていただいたので、報告する。 2.日本大学医学部附属練馬光が丘病院   東洋医学専門外来の体制 責任者:大久保 仁 先生(写真) (イ)診療体制  週に3回(月、水、金)予約制で診療を行っている。 新たに来た患者さんは問診票に記入を行う。中国人医師と通訳によって診察が行われる。脈診、舌診などを行った上、患者さんの症状・訴えに応じて生薬を処方する。但し、中国人医師は、日本においては制度上診療する権限を持たない(日本の医師免許を持っていないため)ので、日本大学の日本人医師が立ち会い、日本人医師がすべて責任を負うという形をとっている。  ここの診療体制の特色がいくつかある。  一つは、希望する患者さんを全て受け入れているということである。こう書くと当たり前のように思われるかもしれないが、他の大学の漢方外来では、一旦内科(子供は小児科)の診察を受け、漢方の処方が良いと思われる患者さんに漢方の部門へ行って戴く、という方式を取っている所が多い。(例えば慶大。)良し悪しはあるだろうが、日大練馬光が丘病院では希望する患者さんを全て受け入れている。  次に、保険診療ということも特色である。すなわち診察・処方が保険の範囲内でまかなえる、ということである。漢方の生薬で保険の効くものは、現在120種類。このわずかな種類で、できるだけ患者さんの状態に適した処方を行っている。ちなみに、生薬はエキスの形で出すのではなく、病院近隣の薬局と提携して、葉っぱのままで患者さんに持って帰ってもらう。そして、自分で煎じて飲んでもらうやり方を取っている。ビデオによる煎じ方の解説も行っている。  また、診療を行う中国人医師は中西医とうことで、中国の漢方のみならず、西洋医学の心得もある方である。北京の中日友好医院から派遣された方で、6ヶ月で交代する。現在(H.7.4月〜10月)の先生は武教授である。実際に私たちが伺った日、診療を受けた患者さんが「最近4kgやせた」旨を言うと、検査をするか否かを武教授と大久保先生が話しあう、という場面があった。 (ロ)いきさつ、そして現状  日本大学練馬光が丘病院東洋医学専門外来の開設は、ごく最近の一昨年(平成5年)9月である。練馬区、中日友好医院、そして日本大学の三者が協力し、練馬区の地域医療の発展という目的の下、発足した。(注・練馬区民の方でなくても診療は受けられます・・・念のため)そして、開設当初から責任者を務められているのが、大久保 仁先生である。大久保先生のことについては後述するが、開設にあたって3ヶ月間の医師のトレーニングを実施された。  来られる患者さんの(西洋医学的な)病名は、アトピー性皮膚炎、不妊、生理不順、ぜんそくなどで、西洋医学の病院で難渋するため来院した方が多い。がんの方もいらっしゃるという。病名が出た所で、治療の効果について記しておく。先生から戴いたデータによると、西洋医学的な所見が明らかに改善したのは20%ということである。状況を考えると、この数値が高いか低いか、ということは言えないという。  ちなみに患者さんの男女比であるが、約7:3で女性が多い。これは、光が丘団地に病院があるので、仕事を持っている男性は来にくいためとか、女性の方が東洋医学への関心が高いらしいためとか、いろいろと考えられる。現在、マスコミ等で紹介された影響もあって遠方の方もいらっしゃる。また、予約がかなり先まで埋まっており、多くの患者さんにお待ちいただいている現状である。  一つのエピソードを紹介する。ある日、ある女性の名前を呼ぶと男の人が診察室に入ってきた。おかしいと思って事情を尋ねると、予約をした女性の方は癌の為、順番を待つうちに亡くなってしまい、折角だから、といって、夫が変わりに来院された、ということであった。笑えない話である。希望する患者さんが多すぎてなかなかすぐに対応できない、というのは、「痛し痒し」である。  以上で、現在の日本大学医学部附属練馬光が丘病院東洋医学専門外来の報告を、簡単ではあるが終わりにする。   3.大久保 仁先生、武教授とのお話より                    ───現状の問題点、今後への見通し───  開設以来、責任者を務められている大久保 仁先生、中西医として診療に携わる武教授にお話を伺うことができたので、トピックスを絞ってお伝えする。 ───まず東洋医学に関心を持った動機についてお聞かせ下さい。 大久保先生「私は学生の時より肝臓に興味があった。多くの人が肝臓を患うのに、なかなか治らない。  いい治療法はないか、と考えたとき、東洋医学・漢方を思いついた。現在私が行っている西洋医学  の医療と東洋医学の医療を組み合わせると面白いのではないか、と。まとめると、治療法から東洋  医学に入った、と言えるだろう。約十年前のことかな。」   注:大久保先生は、普段は日本大学附属駿河台病院で、消化器内科の科長をなさっています。      もちろん、駿河台病院では西洋医学を実践されています。 ───現状の問題点をいくつか挙げて頂けますか。 大久保先生「希望する患者さんを全て受け入れるという方式は必ずしも良いとは言えない。私としては、  内科でひとまず(その患者に)漢方が良いかどうかの見極めをして欲しかったが。大学としての方  針で、今は希望する人を全て受け入れている。また、予約が殺到して有り難いのだが、なかなか順  番が廻らない。本当に『痛し痒し』である。そして漢方を今行っているが、中国の医学で漢方と並  ぶ鍼灸も取り入れなければならないと考えている。いろいろと問題点はあるが、来院された患者さ  んが喜んでいるのは厳然たる事実だから、やる価値は十分にあると思う。」 武教授「保険の効く範囲で行うので、使いたい生薬が保険の適用外のため使えない、というジレンマが  ある。120種類では少なすぎる。」 ───漢方の魅力、そしていわゆる漢方の副作用についてどうお考えですか。 大久保先生「漢方は個体差を大事にし、処方や量にさまざまなヴァリエーションがあり、本人に合った  調合、いい意味での『サジ加減』ができることが魅力だ。あと、魅力とは違うかもしれないが、中  国三千年の歴史を持つ漢民族の中で時代とともに変化しつつ残ってきた漢方は良かれ悪しかれ、意  味のあるものと思う。」 武教授「証(漢方の診断法)が合っていれば、副作用は少なくなる。」 大久保先生「個体が違うし、薬理学的な副作用はあり得る。しかし、証が合っていれば武教授もおっし  ゃったように、副作用は少なくなる。」 ───最後に、今後の見通しについてお教え下さい。 大久保先生「本当のことをいうと、西洋医学もわかり東洋医学もわかる医師(日本での医師免許を持つ)  が、量を判断し加減できるのが当然あるべき姿であろう。       また現在私は、日本大学で1時間だけだが、漢方の講義をしている。変なもんだなという  目で学生は見ているが、その一方で興味も持ってくれている。   今、東洋医学がブームになっている。このブームがいつか去るだろうが、その時、しっかりとした  教育システムが残るようにしたい。大学の制度でいえば、『講座』だね。」 ───先生方、どうもありがとうございました。 4.最後に  今回、日本大学練馬光が丘病院の体制を知ることができたということのみならず、自分たちの中の問題意識の明確化という点においても実りが多かったと思う。  最後になりましたが、色々とご協力下さいました大久保先生、武教授、通訳の先生、看護婦の方々に御礼申し上げます。どうもありがとうございました。                                (赤木 大輔)