PDF version

オンライン歯科臨床研修評価システム(DEBUT)の設計思想
佐々木 好幸1) 長島 正2) 野首 孝祠3) 俣木 志朗4) 木内 貴弘5)
東京医科歯科大学歯学部附属口腔保健教育研究センター1)
大阪大学歯学部附属病院咀嚼障害補綴科2)
大阪大学先端科学イノベーションセンター3)
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科歯科医療行動科学分野4)
大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)センター5)
Design Concept of “Dental Training Evaluation and Tabulation System (DEBUT)”
Sasaki Yoshiyuki1) NAGASHIMA Tadashi2) NOKUBI Takashi3) MATAKI Shiro4) KIUCHI Takahiro5)
Center for Education and Research in Oral Health Care, Faculty of Dentistry, Tokyo Medical and Dental University1)
Division of Removable Prosthodontics, Osaka University Dental Hospital2)
Center for Advanced Science and Innovation, Osaka University3)
Behavioral Dentistry, Graduate School, Tokyo Medical and Dental University4)
University hospital Medical Information Network (UMIN) Center5)
Abstract: The dental clinical training has been compulsory in this year. “Dental Training Evaluation and Tabulation System (DEBUT)”, which has started to use on 3-rd of April in 2006 at the UMIN Center, is a tool developed to evaluate dental residents accurately and effectively in the dental clinical training. As the targets to achieve shown by the Ministry of Health, Labor and Welfare consists of notional text, the judge of completion according this goal has lack of accountability to peoples. This system uses the generalized concrete items to train and has a built-in matrix homologizing the targets with the items. On the occasion of actual use, the procedure of evaluation proceeds as follows: At first an instructor evaluates the track records corresponding with clinical treatment such as caries restoration after input of these by dental residents. The next, a chief instructor evaluates the achievement of items to train using number of evaluated track records in each period set by the facility. At last, he evaluates targets to achieve using the achievement of items. The merits of this system are, general versatility because of the accessibility of the Internet, generalized targets and items, feedback about training program by residents and instructors, and expectations of improvement about quality in the training led by completion of the three components (objectives, strategies and evaluation). Furthermore utilizing bidirectional evaluation by the dental residents and instructors must improve the clinical training system.
Keywords: dental clinical training, 歯科臨床研修, evaluation, 評価, internet, インターネット

1. はじめに
平成18年度から歯科医師臨床研修が必修化され、厚生労働省が歯科医師臨床研修の到達目標を定めている。それに先立ち、2005年5月に国立大学附属病院長会議常置委員会教育研修問題小委員会の下部組織である歯科医師臨床研修問題ワーキングチームが結成され、歯学部附属病院あるいは医学部附属病院歯科口腔外科で歯科医師臨床研修に携わる教官11名が委員となった。一方、歯科医師臨床研修が努力義務であった時代に、国立大学病院共通ソフトとしてスタンドアローンの歯科臨床研修評価システムが開発されていたが、臨床研修施設ごとに多様化している研修プログラムに適用できるほどの汎用性はなかった。そのため、ワーキングチームでは、できる限り多くの臨床研修施設が容易に利用できるオンラインシステムの構築を目指し、本稿の著者らがワーキングチームからの作業班として開発に携わることとなった。すでに医師臨床研修評価システムEPOCがUMINセンターにおいて稼動しており、それを参考にしつつ歯科医師臨床研修評価に特化した機能を盛り込んだDEBUTの開発コンセプトについて述べる。
2. 厚生労働省の定めたの到達目標
「歯科医師臨床研修必修化に向けた体制整備に関する検討会」報告書によれば、歯科医師臨床研修内容は「基本習熟コース」と「基本習得コース」に分けられている。前者は「個々の歯科医師が患者の立場に立った歯科医療を実践できるようになるために、基本的な歯科診療に必要な臨床能力を身に付ける」という一般目標のために31項目の行動目標が定められており、後者は「生涯にわたる研修を行うために、より広範囲の歯科医療について知識、態度及び技能を習得する態度を養う」という一般目標のために26項目の行動目標が定められている。しかし、これらの行動目標には、それが達成されているかどうかを判断するときには具体性に乏しく大まか過ぎる。たとえば「高頻度治療」の一般目標は「一般的な歯科疾患に対処するために、高頻度に遭遇する症例に対して、必要な臨床能力を身に付ける」となっており、行動目標は「①齲蝕の基本的な治療を実践する、②歯髄疾患の基本的な治療を実践する、③歯周疾患の基本的な治療を実践する、④抜歯の基本的な処置を実践する、⑤咬合・咀嚼障害の基本的な治療を実践する」となっているが、どのような治療がどの程度できるようになると行動目標を達成したと判断するのかが明確ではない。
3. 国立大学病院長会議の定めた研修項目
厚生労働省の定めた到達目標に到達したか否かの判断は、個々の行動目標の達成に依存している。それぞれの行動目標は、いくつかの研修項目を要素としているため、国立大学病院長会議で歯科医師臨床研修について94の研修項目を定めた。これらの関係の一例を挙げる。行動目標「齲蝕の基本的な治療を実践する」は、到達目標の分類「高頻度治療」に属しており、「A2口腔内の診察」「B2齲蝕検査」「B4エックス線検査」「C6窩洞形成,支台歯形成」「C8齲蝕病巣の除去ならびにそれに対する修復処置」「C18局所麻酔法」など多数の研修項目で構成される。これらの研修項目は、より具体的であるため、研修歯科医が自験した症例数を集計することが容易である。しかしシステムを単純化するためには、個々の症例の難易度や治療の質の評価を含めることは困難であった。このように行動目標と研修項目は多対多の対応であるため、縦軸を行動目標とし横軸を研修項目としたマトリックスを持ち、各施設の研修プログラムごとにカスタマイズできるようになっている。
4. 開発目標と機能
第1の目標は「厚生労働省が定めた到達目標を基本に、歯科医師臨床研修の評価を正確かつ効率的に行う」ことである。歯科医師臨床研修においては医師臨床研修とは異なり、各行動目標の達成は各研修項目の自験数に依存するため、研修歯科医による日々の自験症例の入力が必須である。また指導歯科医は研修歯科医の入力を症例ごとに評価しなくてはならない。研修歯科医に各症例の自己評価も入力させるとともに研修プログラムや研修施設に対する評価もしてもらうことにより、第2の目標の「常に研修体制の充実化を図り、より良い歯科医師臨床研修体制の確立を目指す」ことが可能になる。実際の運用は、各歯科臨床研修施設ごとに決定されるが、基本的にはプロセスの評価を目指すものではなく、到達目標に関連する研修の結果を評価するものである。また、各行動目標の達成のために、どの研修項目を何症例自験すべきかという基準は、研修施設ごとに定めるものであり、基準の妥当性も含めた「国民に対する説明責任」は各歯科臨床研修施設にある。したがって、本システムはマトリックスをもとに各行動目標に対応する研修項目の症例数を表示し、責任指導歯科医が達成を判断する支援ツールとして位置づけられる。本システムの論理的セキュリティは表1に示す4種類のユーザーごとに設定された時限付きの権限であり、物理的セキュリティはUMINセンターの他のシステムに準じている。
5. 特長

  1. インターネットに接続できる環境があれば、どこでも使用出来ることから、汎用性に優れている。
  2. 各臨床研修施設が研修プログラムごとに評価項目をカスタマイズすることが可能であり、標準化された研修項目以外に独自の研修項目を追加できる。
  3. 複数の臨床研修施設群内において、共通の項目による研修評価が可能である。
  4. 研修歯科医,指導歯科医の双方で、研修進捗状況の実態が効率的に把握でき、研修体制の管理が可能である。
  5. 臨床研修の最終評価において根拠となるデータを、研修施設ごとの裁量で提示することが可能である。
  6. 研修歯科医と指導歯科医が双方向性に評価を行いフィードバックすることが可能である。
6. 期待される効果

  1. 歯科医師臨床研修の評価に対し、参加した複数の臨床研修施設群が共通の評価システムとして利用できることから、国民に対する説明責任を果たすことができる。
  2. 歯科医師臨床研修カリキュラムにおける目標、方略、評価の三要素が完成し、歯科臨床研修の質の向上が期待できる。
  3. 研修歯科医からの指導歯科医、研修プログラム、研修施設、指導体制等に関する多面的な評価を活用することで、より良い研修プログラムの策定など臨床研修体制の改善に寄与できる。
7. おわりに
DEBUTの稼動後約3か月の2006年7月12日現在、410の歯科医師臨床研修施設において996名の研修歯科医が利用しており、23,665件の研修実績が登録されている。さらに、まだ運用が始まっていない申請済み研修施設が20施設あり、来年度の参加に向けて準備を進めている施設もあることから、今後、利用者数は増加すると考えられる。また、研修歯科医や指導歯科医からのフィードバックをもとに改良を行い、さらに使いやすいシステムの普及を目指している。
参考文献
[1]オンライン歯科臨床研修システム.:「http://debut.umin.ac.jp/.」DEBUT.

図 1 DEBUTの機能
表 1 ユーザの権限