多民族文化社会における母子の健康に関する研究 (牛島廣治)

 日本社会の国際化は予想を上回る速度で進み、今では約200万人の在日外国人が暮らしている。また、日本人の国際結婚も急増し、総婚姻件数に占める国際結婚割合は4.5%、22件に1件となっている。そのような中、『親が外国人の子ども』が、1987年から2000年まで、総数約40万人出生しており、さまざまなルーツをもつ子どもたちが共に育っている。21世紀に入りますます、日本人と様々な国籍、文化、言語、宗教を持つ人々がお互いの出身国の文化やコミュニティを尊重しつつ、社会の中でどのように共生していくかが問われている。日本を多民族および多文化共生社会と考えるべき時期が来ている。今後わが国を支える在日外国人の数は増え、彼らの生活の質の向上がわが国の繁栄にもつながると考えられる。

 当研究班では、多民族文化社会という枠組みにおける母子保健のあり方を提言するため調査研究を行っている。主たる研究内容は1.国際化に伴う母子保健医療行政の向上に資する調査研究2.外国人女性および小児に対する母子保健医療ニーズ調査、3.子どもの出生、成育、教育環境に関する調査研究 4.人口動態統計、行政統計資料の分析調査、5.諸外国における多民族社会での母子保健サービスの実態調査、6、メディアを介した母子保健情報の普及であり、明るい社会を目指しての提言を考えている。

<今年度の研究成果>
 1.については(1)在日外国人母子保健支援のための全国自治体調査を平成13年度と14年度にかけて行っている。即ち、在日外国人対応の認識・ニーズに即した母子保健サービス構築が必要だからである。ここでは、予備調査として行った東京都の各保健所への郵送式質問調査の結果について報告する。外国人の比率が高い保健所管区では、予防接種・健診・子どもの健康に関する問い合わせが多い、NGO・NPOとの連携が強いことがわかった。(2)愛知県小牧市での南米出身外国人に対するアンケートで、乳児健診時の受診率に通訳の配置が大きく関係していた。
 2.として、女性留学生ニーズ実態調査を2001年東京大学に在籍している中国人女性留学生320人にアンケート調査をした。平均30.1歳、93%が大学卒後来日し、平均在日年数は3.1年。既婚者が55%、子どもを有するが29%。子どものある家族は、母親学級や母子手帳を利用していた。予防接種は風疹を除くと良くされていた。日本の医療制度については知識不足が見られた。保健医療機関を利用した際、言語の壁が存在し、母語でのサービスを求めていた。困ったことがあると同国人に手伝ってもらうことが多かった。
 3.として南米出身者のコミュニティのニーズを調査したところ、母語での小児の学習を希望する者が多かった。また、無国籍状態にある子どもの家庭は、父母・子ども共に精神的重圧は高く、心身ともに問題があることがわかった。また、これらの子どもへの小学校の開設は、健康・教育の面において重要であった。
 6.として在日中国人向けの新聞には「こどもの健康・教育」に関する記事は、日本の新聞における関連記事より、少ないことがわかった。

<平成14年度の計画>
全国自治体の在日外国人母子保健サービスの回収と解析。
群馬県での在日ブラジル人の母子の健康調査。
医療機関での在日外国人母子保健サービス。
在日外国人の人口動態統計、行政統計資料の分析調査。
諸外国における多民族社会での母子保健サービスの実態調査。
在日外国人子どもの教育に関する調査。
インターネットのホームページによる母子保健サービスのモデル構築。
メディアを介した母子保健情報の収集。

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