1.研究の目的 電子カルテ、遠隔医療あるいは遠隔医学教育など、医用画像のデジタル化を前提とした技術が急速に普及しようとしている今、従来の3つの基本色を用いる色情報の記録方式(RGB画像処理方式)では、形態診断に用いるために十分な再現性が得られないという問題が見過ごされつつある。そのような中、より多くの基本色を用い、イメージングシステムの分光特性に依存せず、また異なった照明環境下においても精密に同じ色を再現できる、マルチスペクトル記録方式の実用化が目前となった。技術的インフラストラクチャーの普及が進むと記録方式を変更するのは事実上不可能となるため、今後医用画像のデジタル化を進めるにあたって、従来のRGB処理系のままでよいのか、あるいは新たにマルチスペクトル処理系を採用すべきなのかの判断は喫緊の課題である。 そこで本研究は、形態画像診断に用いるさまざまな画像につき、同じ標本を通常のRGB処理系で撮影・保存・表示したものと、マルチスペクトルカメラおよびマルチスペクトルディスプレイで撮影・保存・表示したものを比較検討し、各々の色処理系の医療応用の妥当性を検証するとともに、先の判断に資することを目的とする。 2.共同研究の意義 当該研究班は、従来スライド写真を配付していた形態検査のコントロールサーベイを、ホームページからインターネットを介して画像を配付することにより著しく効率的に実施することを目指して研究を進めてきた。研究の一環として、端末の表示装置の機種によりどの程度医学的判定が左右されるかを実地調査したところ、特に色の再現性において著しい機種間差が明らかにされ、その原因を追究した結果、色再現性についてのキャリブレーション法が未だ十分に確立されていないことが判明した。 表示装置間の互換性という新たな問題が出現したため、急遽当初の計画を変更し、工学系の色の専門家の協力を得てその課題に取り組んだところ、物理的に性能を較正することが困難であることが判明し、その原因が3原色を用いる従来の色の記録法にあることを知った。 さらにこの問題はひとり形態検査に留まらず、広く医学医療全般のデジタル化に関わるのではないかと考え、他の医学・医療分野および工学系の研究者を鳩合し、1999年5月に東京医科歯科大学において第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウムを開催した。その結果、デジタル医用画像の利用が急速に普及する中、この問題がさまざまな分野で表面化しつつあること、その解決は喫緊の課題であり、暫定的な対処法と根本的な解決法の両面からアプローチする必要性が明らかとなった。 一方マルチスペクトル処理系は、従来法の限界を克服できる画期的な色の記録法であり、理論の確立はほぼ終了し、実用化の段階に入りつつある。したがって本研究には、医学系研究者と工学系研究者が、形態診断画像におけるマルチスペクトル処理系の有用性を研究する目的で、互いにノウハウを持ちよることが不可欠である。 3.方法論の科学的あるいは技術的説明 (1)形態診断で特に色が大きく影響する医学領域に属する関連学会に働きかけ、協力者として複数の専門家の派遣を得て検討すべき医用画像を収集するとともに、客観的に色の再現性能を評価する指標につきコンセンサスを形成する。 (2)マルチスペクトル処理および従来のRGB画像処理を用いて記録・保存・表示できる装置およびそれぞれの較正装置を組み合わせた、マルチスペクトルデジタル画像処理システムを開発する。 (3)収集した標本をマルチスペクトル処理系とRGB処理系でデジタル記録し、デジタル画像処理システムに格納する。 (4)当該領域のマルチスペクトル処理系とRGB処理系による表示実験を行い、医学的診断における再現性評価と、物理学的再現性のデータを収集する。 (5)上記結果につき、マルチスペクトル処理系とRGB処理系で得られた評価の差につき、医用画像の種類や物理的指標との相関を含め検討する。 4.想定している研究協力者 本研究に関連したテーマで、現在平成12年度文部省科学研究費補助金を申請中である。興味を持たれた医学系および工学系研究者、評価実験に協力していただける医療専門家あるいは医学会の参画を期待している。 |