1.はじめに 内視鏡診断において生体粘膜の分光反射率が得られれば、それらの情報から新たな診断法の確立の可能性が生じる。また、得られた分光反射率の統計的性質を利用した内視鏡システムの最適設計も考えられる。 本研究では実際に臨床実験を行うことにより、非接触式の分光測光システム【1】を用いて多数の直腸粘膜スペクトルを測定した。また主成分分析の結果とWiener 推定法を用いることによって、電子内視鏡画像から粘膜の分光情報を推定する手法についても検討した。 2.内視鏡分光測光システム 本研究で用いる非接触式の分光測システムの構成をFig. 1に示す。Xenon光源から出た光はライトガイドファイバーを通して生体粘膜を照明し、その反射光はイメージガイドファイバーを通り分光器へ導かれる。分光器では1024チャンネルのフォトダイオードによりA/D変換され12bitsの分光反射強度データとして計算機に転送される。 |
3 .臨床実験による分光反射率測定 国立京都病院において臨床実験を行い、16 名の患者より合計71 例の分光反射強度を測定した。測定部位は全て直腸正常粘膜のものである。ノイズ除去などの処理を行った後に算出した分光反射率をFig. 2に示す。520〜600nm付近で強い吸収を持つヘモグロビンの分光特性を反映したものとなっていることがわかる。 |
また、これらのデータに対し主成分分析法を適用すると、第3主成分までの累積寄与率が99.7%となることから(Fig. 3)、直腸正常粘膜の分光反射率はほぼ3成分で構成されているといえる。 |
4.内視鏡照明設計用シミュレータ 一般に電子内視鏡によって取得された画像は測色的色再現に基づいていないため、使用する装置(スコープ、光源、モニターなど)により再現する色が異なる可能性がある。この時、医師の多くは記憶色との比較による診断をしているため、診断基準に誤差が生まれてしまうかもしれない。しかし、対象粘膜固有の分光反射率情報を知ることができればこの問題は解決できると考えられる。また、分光情報があれば任意の光源下での画像の見えをシミュレートすることができるため、たとえば病変部を強調するような最適な光源の設計も考えられる。 そこで本研究では前述の通り粘膜色が3主成分で表されることと、電子内視鏡のシステム特性を考慮することによって、RGB3チャンネルのディジタル画像より多次元の分光反射率を推定する。まずMacbeth Color Checkerにおける24枚の色票を電子内視鏡で撮影してRGB値を得る。一方、それぞれの色票の正確な分光反射率も測定する。これらのデータセットにWiener推定法を用いることにより、低次元のRGBデータから高次元の分光反射率データを推定するためのシステム行列を得る。画像を再現するときは、推定した分光反射率データと光源データをかけ合わせ、さらにシステム行列の擬似逆行列をかけることによりRGBデータを得る。 5.再現画像 前述の推定法により各ピクセルごとの分光反射率が得られている。この分光反射率に光源の分光特性をかければ、その光源で粘膜を照明したときの画像を再現することができる。以下、様々な光源下での再現画像を示す。 |
6 .おわりに 非接触式の内視鏡分光測光システムを用いて多数の直腸正常粘膜の分光反射率を実測した。また主成分分析の結果を利用し、Wiener 推定法を用いることによる内視鏡照明設計用シミュレータを提案し、さまざまな光源下での画像を再現した。 参考文献 【1】胃粘膜分光反射率の測定と解析(II).日本写真学会誌 54(3):346-353、1991.8 |