1.はじめに
ここで、Rov=<ovT>、Rvv=<vvT>である。大量の生物遺伝資源を保存・管理しているジーンバンク【1】では、遺伝資源情報を利用者に伝える効果的手法の開発が重要な作業の一つとなる。インターネットが普及した現在では、テキスト形式による表現が難しい形態に関する情報に対して、画像データを利用するシステムの開発が行われている。とくに菌類(カビ、キノコなど)は、形態的特徴が多様であるため、顕微鏡画像をデータベース化しておき、利用者からの要求に対して画像情報を提供するのが有効である。以上の背景から我々は、菌類の顕微鏡画像データベースシステムの構築をすすめている。 光学顕微鏡画像の測色値は、光源の特性に大きく依存するため、試料の色を正確に伝えることはできない。そこで、画像データにはRGB値ではなく、光源や入力デバイスによる影響を受けない分光透過率が有効である。 画像上の各画素に対応する分光透過率をデータ化し記録することにより、任意の光源での光学顕微鏡画像を再現することができる。しかし、今までの顕微分光度計は、構造上の制約のため測定径や測定時間に限界があり十分なパフォーマンスを得られなかった。そこで、本研究では光学顕微鏡画像の微小領域ごとの分光透過率をマルチバンド画像からの推定により求めることとした。 2.顕微鏡画像の分光透過率推定システムの構築 光学顕微鏡画像のマルチバンド撮影は、光学顕微鏡にCCDカメラを装着した装置で行う。マルチバンド撮影では、広帯域フィルターが使用され、各フィルターはコンデンサーレンズと光源の間に順次挿入される。 分光透過率の推定には、Wiener法を用いた【2-4】。ベクトル表記では、センサー応答 v と対象物の分光透過率 o はシステム行列 F により次式で関係づけられる。
推定分光透過率は、以下に示す「推定行列の作成」と「分光透過率の推定」を順に行うことにより得られる。 「推定行列の作成」 Fig. 1に示すように、予め各カラーサンプルの中心領域の平均分光透過率を測定して、ベクトル o とする。次に、カラーサンプルを1枚ずつマルチバンド撮影し、各バンド画像の中心領域のセンサー応答を平均して、ベクトル v を得る。この o と v からRov=<ovT>、Rvv=<vvT>を計算し、式(4)の推定行列 G を導出する。 |
「分光透過率の推定」 Fig. 2のように、対象物をマルチバンド撮影し、得られたマルチバンド画像の同位置の画素に対応するセンサー応答の組を、推定行列Gに作用させ、その画素に対する分光透過率を推定する。この作用をすべての画素で行うことにより、各画素が分光情報を持つ分光透過率画像を得ることができる。 |
3.画像データベースの作成 前章で示したシステムを用いて、Trichoderma属に属する2種の菌類の分光透過率を推定し、菌類の画像データベースのプロトタイプを作成した。これまでもジーンバンクでは植物や動物の画像データベースを構築し、WWWによりインターネットを通して画像情報を発信してきたが、菌類については初の試みである。URLは「http://www.gene.affrc.go.jp/micro/T_list/Japan/iFindex.html」である。 画像データは、他の遺伝資源データベースと同じデータベース管理システムによって管理され、互いに参照することができる。以下にデータベースの概要について述べる。 1) URLを指定すると表示される画面では、アルファベット順に並べられた菌類リストから対象とする菌類を選択できる。(Fig. 3(a)) 2) 菌類を指定すると、その菌類のホームページが現れる。ページ中には顕微鏡画像が表示される。また以下の3ページとのリンク機能がある。(Fig. 3(b)) 3) 3種類の光源(CIE D65、ハロゲンランプ、タングステンランプ)により再構成した顕微鏡画像を表示し、使用者が普段観察している環境を再現する。(Fig. 3(c)) 4) Fig. 3(b)の顕微鏡画像中にマウスを移動しクリックすると、選んだ画素に対応する分光透過率が表示される。(Fig. 3(d)) 5) Fig. 3(b)の菌類のホームページの最下段には、ジーンバンクに保存されている対象菌類の登録番号が表示される。この登録番号を選択すると、該当する菌類の来歴情報(分離源、採集値、同定者など)が微生物遺伝資源データベースから検索され表示される。(Fig. 3(e)) |
4.おわりに 本研究では、今までの顕微分光度計で十分に達成できなかった光学顕微鏡画像における微小領域での分光透過率の取得を、マルチバンド画像を用いた推定法によりCCDの各画素に対応する微細領域から同時に行えることを示した。 推定により得られた分光透過率を用いて3種類の光源による顕微鏡画像を再構成し、菌類の画像データベースのプロトタイプを作成した。今後は、ジーンバンク事業で実際に活用するため、分光データの収集から入力をより簡単に行えるシステムを開発し、数多くの菌類分光データを収録した画像データベースを構築する。 |
参考文献 【1】D. L. Plucknett, N. J. H. Smith, J. T. Williams, and N. M. Anishetty : GENE BANKS AND THE WORLD'S FOOD. Princeton University Press, Princeton, NJ, 1987. 【2】H. Haneishi, T. Hasegawa, N. Tsumura, and Y. Miyake : Design of Color Filters for Recording Artworks. IS&T's 50th Annual Conference (Society for Imaging Science and Technology, Cambridge, MA) 369-372, 1997. 【3】M. J. Vrhel and H. J. Trussell : Filter Considerations in Color Correction. IEEE Trans. Image Process 3:147-161, 1994. 【4】M.Takeya, N.Tsumura, H.Haneishi and Y.Miyake : Estimation of transmittance spectra from multiband micrographs of fungi and its application to segmentation of conidia and hyphae. Appl. Opt. 38:3644-3650, 1999. |